第61話:アロエとの再会
翌日、ルナは昨日から移動してきた仕事場に来た。扉を開けると当然のことだが、ダンはすでに幹部用と思われる、立派な玉座に座っており、ルナを見るとにっこりと挨拶をした。
「ルナ、おはよう。昨日はよく休めたかい?」
「うん…じゃなくて、はい! 休めました。」
「そんなにあらたまなくても、まだ俺たちの他には誰もいないんだから、タメ口でもいいんだよ。」
「いや、でもこういうのには習慣をつけて、慣れておかないと。」
ルナは少々ホッとした。やはり、昨日は自分の勘違いでダンの事を悪く思っていたのだろう。
ダンはあくまで魔物として生きている。となれば当然ダンは人間を襲うだろうし、逆に魔物には優しくするだろう。よくよく考えると当たり前の話なことに、昨日の自分を思い出してルナは少々恥ずかしくなってしまった。どうやら、一昨日のことで気持ちが不安定だったのだろう。
「で、今日はどんな用事が?」
「今日は城下町に行くんだけど、ついてくるかい?」
「もちろんです。」
「よし、これから支度をしよう。今回は私的な用事だから、騒ぎにならないように変装して行く。」
「変装ですか?」
「だから、ルナもメイド服を脱いで他の服に着替えてもらうと助かる。」
「分かりました!」
ルナは、服を取りに行くために一旦部屋に戻った。しかし、ここで問題発生だ。ルナは服を持っていないのだ。ある物はというと、この世界に転移してきたときに着ていた水着と村でもらった衣服のみ。しかし、人間の衣服は魔物たちのとは少々違うらしく、アロエも不思議そうな目で見ていた。
初めて吸血鬼に返信した際に自動で装着させられていた衣装もこの前、部屋の掃除の際に間違えて捨ててしまい、もう一度出せないものかとリシュナがいない際に変身を繰り返していたが、出なかった。
「となると…」
リシュナの服を借りていくしかないとルナは思った。リシュナは仕事に出ており、部屋にはいないが、黙って借りていっても怒りはしないだろう。
「えーっと、じゃあコレとコレとコレを貸していただいて……っとーー」
それから20分経ち、ダンの部屋にルナは戻ってきた。
「準備終わりました。」
「じゃ、行こうか。」
「はい。」
「その敬語のことだけど、今回はタメ口でいいよ。変装して村に向かうわけだし。」
「あっ、それもそうですね……それもそうだね。」
ダンの変装服を見て、ルナは改めて感じたことがある。先ほどリシュナの服をいろいろと拝見した時も感じたのだが、やはり魔物たちは人間とはまた違った服装をしている。前に帝都で行き交う魔物たちの服装を見たときもそう感じた。
なので、今ルナが着ている服もルナ自身、なんという服なのかも知らない。簡単に言えばワンピースっぽくなっているのだが…
「もともとファッションには詳しくないのに、この異世界の服をいちいちなんて言うのか、全く分からん!」
ルナもこう言っているが、一応帝都でよく見た服装にした。
魔城の門の外に出るとルナは久しぶりの外の空気を胸一杯に吸い込んだ。
「スーーーッ、ハーーーーーー……って、なんかまずっ!」
それもそのはず、空にはやはり青空はなく、どんよりとした雲のようなものが覆っている。そして、そもそも魔物が住んでいるところなのだ。美味しい空気のわけがない。
30分ほど歩いた頃だろうか、だいぶ路地の奥に入り込んだとき、ダンは立ち止まった。
「この店に用があるんだ。」
立ち止まった先にあったのは酒場。帝都の大通りからだいぶ外れたところにある酒場だ。
「ここ?」
「そうなんだ。で、すまないけど、その間は席を外していて欲しいんだ。好きな店に寄ったりしてていいから。」
「わかった。」
ダンはルナが了承すると、「また後で。」と言い、店内に入っていった。
そのあとのルナは、たいしてすることもなく、ただただ街を歩いているだけであった。だが、街を歩くだけというのもなかなかいいものだった。変わった店などもあり、見ていて面白い。
それからもどんどん歩いて行き、ルナはやがて、人通りの少ないボロボロの家屋がそこらじゅうに立っているエリアに入ってきていた。
「あれ、雰囲気が変わった。」
それまで街並みを楽しんでいたルナもその変化ぶりに気が付いた。
そんなルナの後方から数人の足音が聞こえてきた。
「おいおい、こんなとこで何してんだ?」
声のほうを見ると、それは一昨日のルナを襲った兵たちであった。
「なんで、こんなとこに⁉︎」
ルナにの頭の中にトラウマが蘇る。
「お前のせいで、俺たちは魔城の兵をクビにされたんだよ。」
「それはお前たちが悪いからで…」
「おいおい、何震えてるんだよ。そんなに怖いか?」
「べ、別にそんなことない。」
「そうか。そんなことより、俺たちはお前にブチ切れてるんだよ!よくも、クビにしてくれたな‼︎」
今にも襲いかかってきそうな魔物たちにビビりながら、ルナはいい方法を思いついた。
「私を襲ってくれば、またダンがお前たちをボコボコにしに来るぞ!」
「「「「「なんだと」」」」」
魔物たちは少なからずビビった。
「そうさ、ダンと私はマブよ、マブ!これ以上私に関わると、ダンの牙が火を噴くぜ‼︎」
睨みを利かせながらルナが言うと、魔物たちは完全に怖気付いてしまった。だが、その中の1人が皆を奮い立たせた。
「そんな戯言にビビるな! この前は城にいたから、奴が助けに来たのであって、こんな帝都外れに来るわけないだろ‼︎」
「「「「「それもそうだ、奴に完全に騙されるところだった。」」」」」
魔物たちは気力を取り戻すと、ルナに飛びかかってきた。
「ハッハー! せいぜい楽しませてくれよ‼︎」
「くっっっ‼︎」
ルナは相手の攻撃に備えて構えたが、瞬きをした間にその相手のはずの魔物たちは首を斬られ、いつの間にか絶命していた。
「えっ!!」
たった一瞬の出来事に全く理解ができないルナは、驚きを隠せずにいた。そして、絶命した魔物たちの死体が転がっている中に1人、短剣を持った女魔物が…
「ウフフフフフ。」
その女魔物は、不気味に笑うと短剣に付いた魔物たちの血であろう緑の液体を艶めかしく舌で舐めた。明らかに常人ではない。
殺意の目に、不気味な笑い声・その女魔物は狂気をまとっていた。
「ウフフ、久しぶりね。」
「えっ!まさか、アロエさん‼︎」
ルナが驚いたのも当然だった。なにしろ、目の前にいる狂気の魔物は、ルナにとてもよくしてくれたアロエなのだから。
次回も来週日曜投稿予定!




