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ギルドマスター


 ギルドに入った瞬間、ガーリックの香ばしい香りが鼻を刺す。

 今日は給仕のおっさんがおらず、シェフのおっさんが1人で切り盛りしている。大変そうだ。


 さて、銀級審査は受付で予約すれば良いはず。

 酒場の様子に後ろ髪引かれながらもカウンターへ向かう。

 

 ……おい、見ろよあれ!

 ……へえ、あいつが誰かといるなんて珍しいな。


 妙に視線を受けるからヒゲ殺しがバレたかとも思ったが、見られているのはどうやらリンらしい。

 まあ目立つしな。


 ……銅級だけど実力は銀級上位にも引けを取らないって話よ

 ……あれが噂の《黒旋風》なの!?凛々しくて美しいわ


「いきなり俯いてどうしたの?」


「いや、悔しさと虚しさが同時に襲い掛かってきたっていうか」


 かっこいいじゃん…………《黒旋風》。


 そうこうしてるうちにカウンター前。

 受付のおっさんは俺たち二人の姿に驚いた様に一瞬目を見開く。


「意外な組み合わせだな。二人で依頼でも受けに来たのか?」


「近々受けるわ。今日は銀級審査の申し込みに来たの」


「へえ、お前がね。良い風が吹いた様だな」


 面白そうにこちらに視線を向けてくるおっさん。

 リンは苦虫を噛み潰したような顔してる。

 そうだよね。良い風にぶっ飛ばされたもんね。


「では前金で銀貨10枚を払え。それからスケジュールたつまでは予定入れるなよ。毎日顔出せ。日時が決まったら伝える。言っておくが時間が掛かるからな」


「あまり待たせないで欲しいわね」


「我慢しろ。お前の実力は分かっている。生半可な奴では秤にならないからな」


 審査はギルドにとっても冒険者の強さを確認する機会でもある。

 銀級ならば銀依頼を全て受けられるわけではない。当然ながら依頼難易度はピンキリだ。自由に受注出来てしまうと色々と問題がある。

 

 身の丈に合わない依頼は失敗を招き状況を悪化させる。

 逆に実力者が軽い依頼を受けてしまうと、他の奴の受ける依頼がなくなり、前述の事態を起こす様な羽目になる。

 これを防ぐ為にもギルドが各冒険者を格付けし、依頼をコントロールする必要があるのだ。

 しかし待つのも煩わしいな。


「――――それなら待つ必要はないよ」

 

 テーブルを拭いていたシェフのおっさんがいつの間にかに側に立っていた。

 ベージュの帽子に青いエプロン。海をイメージしているのか魚の刺繍が施されている。

 俺より頭2つ分はデカい。身長もさる事ながら全身鍛え上げられており、筋骨隆々という言葉がこれ程似合う男もいない。

 腕の筋肉量に差があり右腕の方が僅かに太い。

 実戦の中で培った証だろう。


「ゲーニッツさん。……その、何か?」


 受付のおっさんが嫌そうな顔でたずねる。

 ゲーニッツってまさか……。


「ギルドマスターが私達に何か?酒場の方は大丈夫なんですか?」


 やっぱりギルマスかよ!!!

 てかギルマスが料理作ってんのか!お料理ご馳走様でした!!!

 

 かつてアクアパレスは犯罪者の蔓延る悪都だったそうだ。

 立地が良く資源も豊か。そんな環境には人が集まる。

 人が集まるという事は悪党が栄えるという事。

 海賊 人攫い マフィア 悪徳商人 落ち延びた賞金首。

 様々な悪の温床になっていた。

 それを根本から打ち壊したのがこの男。ゲーニッツ・セルゲンである。

 冒険者を集い、指揮をし、時には自ら戦い、この街を浄化していった。

 今では澄んだ海色に相応しい街となった。

 紛れもない英雄。広場には銅像すら立っている。

 そんな大物が酒場でシェフをしているとはな………。

 話を聞くに兼任なんだろうけど。


「その審査。私がしよう」


「言うと思った」


 やっぱりかーという様に受付のおっさんが目頭をつまんでいる。


「酒場は大丈夫なんですか?」


 心配な表情のリン。

 ギルマスと戦う事ではなく酒場の心配するとか肝太えな。

 というかさっきからずっと酒場の心配してる。お気に入りなのね。


「元々ジェイムズ君が休みだったからね。午後からは閉める予定なのさ」


 こちらを見てシェフマスが言う。へー給仕のおっさんジェイムズって言うのか。

 てか視線に悪寒しかしねえ。


「だが私が審査をするのはリン君ではない。君だ。カイリ君!」


「ちょッ、ちょっと待ってくださいゲーニッツさん!彼の実力では……ッ?」


 焦るおっさんの言葉など意に介さず、こちらに笑いかけるシェフマス。

 リンからは訝しむ様な目で見られている。あなた何かやったの?……というような。

 あれ?俺なんかやっちゃいました?


「いきなりだが審査予約したのはリンだぜ?俺は街に入りたての新人。試す理由が分からんが」


「白々しいぞ。私はこの街を食虫植物の餌場にするつもりはない」


 あーーー本当にやっちゃったやつーーー!

 そしてこの人知ってるやつーーー!

 (身から出た錆ってやつ)


「既に喰われた奴等もいた様だがね。これについては不問にしよう。手間が省けた様なものだ」


 そっちもバレてんのね。まあこちらの素性が分かってるならそりゃそうか。


「はぁ、…………さすがの情報網だな。いいよ、こうなった以上それでいい。午後でいいのか?場所は?」


「近場に修練場がある。勿論周りの目はあるが好都合だろう」

 

 確かに()()()ではあるな。

 状況が進んだ今は人間のクズ・フィッシングを行なう必要はない。

 リンという財布もゲットしたし。


 (人間のクズは現在進行形でやってるけどね)


 だまらっしゃい。


「話が進んでるのは結構だけど私の審査はどうなるのかしら。もうお金払っちゃったけど………」


「リン君は大丈夫だよ。顔パスで合格!いつも食べに来てくれて有難う!」


 下手くそなウィンクでこたえるシェフマス。

 職権濫用〜〜〜!


 

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