戦闘審査
シェフマスの言う通り、ギルドからそう遠くない位置に修練場はあった。
元々は自警団の練兵場だったらしい。
その自警団も半グレ染みた悪徳集団だった様で、シェフマスに壊滅させられたとか。
今では冒険者用の修練場として賑わっている。
……俺ギルマスの戦うところはじめて見るよ。
……俺も俺も。得物は何を使うんだ?フライパンと包丁持ってるイメージしかない。
……ギルマスより相手が気になるね。銅色らしいがギルマスが相手をしてやる価値があるのか?
……《黒旋風》の事もあるしな。知り合いらしいし隠れた強者かもしれん。
いや賑わい過ぎだろ!!!
なんだよこの人数!ミーティング用の座椅子は全部埋まってるし、シート敷いて酒飲んでる奴までいるぞ!てかリンの野郎まで座ってやがる!お前は絶対酒飲むなよ!!!
「うちの冒険者達は気風が良くてね。お祭り好きなんだ」
楽しそうな声で辺りを見渡すシェフマス。
先程のエプロン姿ではなく、黒い密着上衣に同色のレギンスを履いている。勿論帽子はせず、短く剃った燻んだ銀髪を晒している。
「そしてこの衆目の中で実力が認められれば悪さは出来ないね」
悪戯っ子の様な調子で下手くそなウィンクをカマす筋肉。とてもはんざいてきですね。
「手を抜くかもしれないぜ?」
「それは命懸けの手抜きになるからお勧めしないよ」
それはそうだ。構えもせず殺気もない。
なのに発する圧力は凄まじく一挙一動が見逃せない。
油断したら殺られる。そういう雰囲気がこの男にはある。
「さて、明日の仕込みもあるし始めようか」
10歩程の距離をあけ向かい合う。
表情は穏やかだが油断は感じない。だが意表を突く事は出来るかもな。
俺は自然体のまま右脚で地面を後ろに蹴り上げる。
その推進力で前方に飛び上げ、左脚で蹴りを放つ。
飛燕。これを放った奴はこの蹴りをそう呼んでいた。
「なんと……ッ!?」
「別によーいどんはいらねえだろ?」
回避姿勢が間に合わず右腕でガードするゲーニッツ。
さすがに防御は堅いが挨拶代わりにはなっただろう。
「…………予想外だな。こっちもいけるクチか?まさか初撃を通されるとは」
「不意打ちみたいなもんだ。何分性格が悪くてね」
「正面からの攻撃を不意打ちと呼んだら武人を名乗れないよ」
楽しそうに右腕を振るゲーニッツ。
折るまでには至らなかったがダメージは残ったようだ。だが――――
「偉大なる主よ。汝の血を我に分け与え、恐れを知らぬ勇気を授けたまえ――」
祈りと共に右腕が光に包まれ、ダメージが回復する。
「法術士か!」
「祈りを欠いた日はないんだ」
法術。神に祈りを捧げ奇跡を起こす。教会の中だけで相伝された技術。
神様なんて信じちゃいないが、そういう術があるのだけは事実。それが今脅威として襲いかかってくる。
「さあ次は何を見せてくれる?」
「ニヤケやがって。審査忘れてねえだろうな?」
俺は両拳を軽く握りガードを上げる。
ガード越しに相手を覗き、姿勢を低く、頭を振る。
イート・ブラガと奴は呼んでいた。
リーチ差の不利を覆す攻防一体の守り。
「なるほど。これは狙いにくい――なっ!」
右の拳を振り下ろしてくる。ヘッドムーブでそれを避ける。
躱すも拳の風圧に耳鳴りがする。ハンマーみたいなパンチ打ちやがる!
その後も続く猛攻を頭を揺らし避ける。
僅か一髪の隙の先に地獄がある。当たったら終わり。
だがリズムは掴んだ。喰らいやがれ!
「シッ!」
「ぐっ……!」
俺の拳がカウンター気味にゲーニッツの腹に刺さる。
このまま押し切る!
「いいパンチだが――甘いッ!」
一瞬で隙が消失し反撃するゲーニッツ。それを寸前で避ける。
効いていない!?いや確かに動きは止まった。もう一度打ち込んでやる。
「厄介な動きだが十分に味見は出来た。今度はこちらの番だ!」
「くはッ!」
砲弾の様なタックルを受けガード越しに吹っ飛ばされる。
落下の衝撃を転がって逃す。イート・ブラガの構えが幸いした。
「その構えは立ち技に特化し過ぎているのが弱点だな」
「そういうあんたに弱点はあるのかい?まったくさ、腹殴ったのにノーダメージかよ」
血混じりの唾を吐き捨て、ゆっくりと立ち上がる。
追撃は無し。あくまでも審査ってわけね。ムカつく。
「ちゃんとダメージはあるよ。即座に回復しているだけさ。先程の法術の効果でね、術が尽きるまではある程度のダメージは治してしまうんだ」
はーーー、周りが不死身ばかりで本当やんなる。
「しかし君の実力は示された。悪辣な二つ名で警戒したが、君の性根は思ったより真っ直ぐな様だ」
ゲーニッツの戦意が薄れる。
どうやら認められたらしい。目的は達成されたという事か。
タックルのダメージも超痛えし、まーここらで潮時にするのも悪くない。
――――――――なんて言うと思ったか?
姿勢を低くしゲーニッツに向かい間合いを詰める。
眼前には奴の嬉しそうな表情。殴り愛同好の士が見つかって嬉しいか?
だが残念。
「俺って魔術師なんだよね。――――キーニング・エクステンド」
俺はパンッと掌を叩く。乾いた一拍子はリング状の空気膜となり伸長、増幅される。所謂音の爆弾だ。
「がッ!!!!」
予期せぬダメージを受け、咄嗟に両耳を抑えるゲーニッツ。
あんたは用心深そうだったからな。これを通す為には本気でステゴロする必要があった。
料理でいう仕込みの時間だな。
「その分厚い筋肉も鼓膜までは守れない。すぐに治癒されるんだろうが………今ならしっかりと狙える、ぜッ!」
顎先にフックを叩き込み脳を揺らす。
それに耐え切れず膝をつくゲーニッツ。
誰一人として言葉を発さず、場は静寂に包まれた。
あーーー、全身痛えし服は砂塗れ。口の中は血の味で気持ち悪い。
強さを証明するだけならここまでする必要は無かっただろう。
だが――――、
「こちとら負けず嫌いなもんでね」
その瞬間、修練場が歓声で湧いた。




