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決着


「膝を突いたのはいつぶりか。本当に良いパンチだった」


 ゲーニッツはポンポンと両耳を叩き、身体の調子を確かめる様にゆっくりと立ち上がる。


「まさか魔術師だったとはね。しかも見た事もない術だ。魔術師宣言も含めた二重の罠か。これは負けたなぁ」


「あんた程の相手と戦うなら嘘はいくらあっても足んねえからな」


 さっぱりとした笑顔で差し出された握手に応じる。

 修練の塊みたいな手の感触だ。


「すげええええ!あいつギルマスに勝っちまいやがった!!!」

「本気じゃねえに決まってるだろ馬鹿!武器すら持ってねえんだぞ!」

「ゲーニッツさんは手を抜く様な人じゃない。無手でも本気だったよ」

「でも最後の馬鹿でかい音はなんだ?斥候服着てるし火薬玉かなんかか?獣避けや隙作りに使えるかも」

「面白い奴が来たなぁ!最初の蹴りも見事だった!」


 外野がうるさい。まあ悪い気はしないが。

 この様子じゃ街中に伝わるのも一瞬だな。

 宣伝効果としてはこの上ないだろう。

 手札を一枚切ってしまったが、隠していけるほど金級は甘くない。下手に温存していても非効率だ。

 魔術は手段でしかないからな。


「しかし体術に関しても不思議だ。技術は間違いなく一流だがちぐはぐな印象を受ける。各地の名産品をごちゃ混ぜにして作った料理の様な。その混沌も君の強みなのかもしれないが」


「技術書を読むのが趣味でね。それ以上は言うつもりはないよ」


 こいつ本当に鋭いな。

 蹴りの飛燕。歩法のイート・ブラガ。加えてパンチや受け身。

 これは俺の【ギフト】で習得したスキルだ。

 死者の記憶を体験し、脳に刻み込む。

 そしてそれを忘れる事は決して出来ない。


 逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()と言う事だ。


 技の意図。仕組み。呼吸。筋の動きに至るまで、

 体験した全てが俺自身に刻み込まれる。

 あとは俺の身体に合う様に調整すればいい。

 俺の力は戦闘向きではないが応用は出来る。


「今更言うまでも無い事だが審査は文句無しに合格だ。おめでとう!」


「ありがとよ。ついでに特別依頼もパスしてくれると嬉しいんだが」


「それは出来ないよ。むしろそちらの方が本領を試されるからね」


 まあそう甘くは無い。言ってみただけー。

 

「しかし君には随分無理をさせてしまったね。お詫びと言ってはなんだが、山羊のチーズを使った新作のキッシュを考案したんだ。試食してみないかい?」


「食べりゅう!」


 なんてこった。この男は俺にとっても英雄だった様だ。

 

「ふふ、実は厨房から君の食べる姿を見ていたんだよ。なんというか、とてもシェフ冥利に尽きる気分になったんだ。二つ名の件もあるけど単純に君の事が知りたくてね」


 照れくさそうに鼻をかくシェフマス。

 筋肉が服を着て歩いている様な男が照れているのは凄い絵面である。


「俺もだよ。俺もシェフマスの料理に惚れ込んじまったんだ。また美味いもん食わせてくれよ!」


「シェフマスターだなんて…………まだまだシェフの頂には遠いさ。でも嬉しいよ。さて帰って調理に――――」


「この馬鹿親父がああああああああああ!!!!!」

「ホゲェッ!」

「シェフマスーーーーーーーーッ!!!!」


 いきなりの乱入者にシェフマスが蹴り飛ばされる。

 背の高い若い女だ。長い銀髪を三つ編みに束ねている。

 白い長袖のブラウスにはリボンタイ。黒いタイトスカートを履いていて顔には眼鏡。

 これぞ事務員みたいな服装だが、怒りに表情が歪んでいてすごくこわい。

 眼鏡では隠しきれない殺気が眼光に溢れている。


「お前何してるんだよ仕事はどうしたわかるか?しごとだよお前のなあおい分かるか?私に教えてくれよなあ?」


「キャ、キャシーちゃん落ち着いて…………。知ってる通り今日はジェイムズ君も休みだし店は閉めてるんだ」


「誰が酒場の事言ったよッ!?お前ギルマスだろうが!!!確認書類どれだけ溜まってると思ってんだよこのスカタンッ!!!」


「ひッ、あまり怒らないで…………」


「オコラナイデ?面白い冗談だなあ?大体酒場は休みにする予定だっただろうが!お・ま・え・がッ!どーーーーーーしてもっていうから午前だけやらせてやったのにどうしてだ?午後からギルマス頑張るんじゃなかったのか?それになんだよこの騒ぎは?祭りでもあったのか?これだけの人数の冒険者半日拘束したらどれだけ依頼の遅延が起こるか理解できるか?なあ?なあなあなあなあなあなあああああああああああッ!!!!?」


「ひぃいいいいいいいいッ、カサンドラちゃんが反抗期だぁあああああべしッ!」


 事務員女の踵落としをくらって沈黙するシェフマス。

 ああ、キッシュが………………。


 2度目の静寂が修練場に広がる。誰一人として言葉を発さない。


「てめえらも散れッ!仕事しろッ!!!」


 蜘蛛の子散らす様な勢いで去っていく冒険者達。

 どうしよう。僕も帰っていいかな…………?


「ふぅ………………さて、」


 ぐりぐりと気絶したシェフマスの顔面を踏みながらこちらを向く事務員女。えなにこわい。

 

「貴方がカイリさんですね。戦闘審査合格おめでとう御座います。特別依頼に関しては調整の上お伝え致しますので、重要な予定が無い限りは毎日確認に来て下さると幸いです。何か質問があればお気軽に仰って下さい」


「ありません!よろしくお願いします!!!」



 ギルドってこわいとこだ。



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