魔獣狩りへ
「あー尻が痛い。振動が辛い。これ以上揺さぶられたらお尻がバターになってしまう…………」
馬車に揺られ二日目の朝。俺のお臀部は大変な事になっていた。
「気が抜けるわね……。昼には村に着くのだからそろそろ緊張感を持って欲しいわ」
「馬車は慣れねえとなぁ兄ちゃん!」
イカれたメンバーを紹介するぜ!
尻まで鋼鉄で出来た武術家リン。
馬車の持ち主である商人のリチャードさん。
御者兼護衛のジョンソンブラザーズ(超無口)
以上!
「慣れる前にお尻が無くなっちゃうよぉ」
(尻尻うるさいんだけど?お前の尻事情を常時受信させられる気持ちわかる?)
もう一人いたわ。イカれた幽霊女。以上。
奴のボディ様はリンの膝の上で顔を掻いている。
どうして俺の尻に止まぬ試練が課されているのか。
話は五日前に遡る。
「サンドワームの討伐を私達に…………ですか?」
「ああ、ここより東にあるオルテ村付近に出没したらしい。管轄はうちでは無いのだがね。近隣のギルドでは結構な失敗が続いた様で、こちらに応援要請が回って来たというわけだ」
やれやれ、と肩をすくめるシェフマス。
ギルドは横の繋がりが強い。今回の様に受注者が不足すれば話が回って来たりするし、立地や難易度にもよるが合同で冒険者を募る事もある。
「討伐失敗が続いた三つ星魔獣を審査にするんですかと聞いているんですけど?」
無表情のまま問い直すリン。青筋たってら。
一方でシェフマスはどこ吹く風だ。リンの圧にもまるで物怖じしない。
流石にギルドマスターをやっているだけの事はある。娘にはタコられていたが。
「客観的に判断したまでだよ。君達ならば討伐は可能だ。それに簡単な依頼を投げて昇級してもつまらないだろう?」
出ました下手くそウィンク。リン選手の青筋がさらに増えましたね。
魔獣。
魔力を有し独自に進化した動植物の通称。
人間が魔力を用いて魔術を使うのに対して、そのエネルギーを体組織の強化に特化している。どちらにも例外はあるが。
とどのつまり簡単に言えば超強い獣なわけだが、超強いという事は人間に対し捕食者足り得るという事。
例えば雑食の小動物だって、人間より強くなれば襲ってくるだろ?
「俺は構わないけどな。しかし厄介な事はそっちも重々承知だろ?リターンは弾んでもらうぜ」
「そこは期待していてくれ。成果に見合った額とディナーを御馳走しよう」
「やったぜ!三つ星のディナーで頼むよ!!!」
(三つ星の鮮魚も頼む)
「貴方ねぇ………」
魔獣には種類ごとに等級がある。
これは便宜上冒険者ギルドが定めたもので、依頼の割り振りをコントロールし易くするためだ。
一つ星 銅級単体で受注可能
二つ星 銅級複数人、または銀級単体
三つ星 銀級複数人、または金級単体
四つ星 指名依頼でしか受注不可能
という様に大まかにだが区分されている。勿論個体差は大きい。
今回は失敗が続いている様だし、三つ星を優に超える難易度と予想される。
リンが渋るのも当然だろう。元々こいつは対人特化だしな。
だが我に秘策ありだ。
不死身のこいつが喰われている隙に大技かませば問題なくやれるだろう。
まさに適材適所。信頼し合うパートナーだからこそ可能な作戦。
また手札を一枚リンに晒すのが難点だが、パーティを組んでるんだし仕方のない出費だ。
(今すぐ信頼の意味を調べて来い)
「それでは大変だろうけどよろしく頼む。こう言ってはなんだが君達向けの依頼だと思う。オルテ村は知り合いの商人の販売ルート上にあってね、馬車の同乗をお願いするから降車まで護衛もする様に」
という事があり今に至る。
「痛い。痛すぎるから会話で紛らわせよう………オルテ村ってどんな所なんだい?リチャードさんは知ってる?」
「なんだい!もっと早く聞かれると思ったよ!兄ちゃん抜けてるんだから肝が太いのかわかんねぇな!」
声でかっ。これも雰囲気含めて商人の適性か。
「抜けてるに一票」
(二票)
お前らはもっと声抑えていいぞ。
「しかしオルテ村ねぇ。一度だけ行った事もあるけど…………言っちゃ悪いが何もない所だよ。結構若い開拓村でさ。うちの爺さんの代ではそれなりに人の流れもあったみたいだけど、今じゃ廃れたもんだね。何しろ買うものが無いから商人も来ない」
咲いてた花は綺麗だったけどね、と思い返した様子のリチャードさん。
中々貧しい村の様だな。
「それじゃ飯にも期待出来ねえなぁ」
「貴方はやる気のオンオフが激しすぎよ」
僕は省エネ主義なんです。
元気は大切にね!
「さて、じゃあここでお別れだ!火起こしや夜警もやってくれて助かったよ!依頼頑張れよ!」
「俺のマイ・マッチにかかればお安い御用さ!リチャードさん達も気をつけて!」
「同乗させて頂き有り難う御座いました」
馬車を降りリチャードさん達と別れを告げる。ここからは徒歩で進む。
彼が言うにはオルテ村は人の往来が少ない為、道草が育ってかなりの悪路になっているのではという話だった。
しかし実際はそれなりに整備されており、想定していた時間よりずっと早くオルテ村の姿が見えて来た。
「わぁ……」
「これは見事だな」
小さな蕾の様な濃紺の花。それを囲む様に葵色の花が淡く咲いている。
それが村一帯を包んでいた。
オルテンシアの花か。過去に見た事はあるが、ここまで咲き誇っているのは中々ないぞ。
(紫陽花だ………)
(ん?)
(紫陽花だよ。こんな所にもあるんだ。青色って事は土が酸性なのかな。これだけ咲いているなら保水性も良さそうだ)
こいつが罵声と中傷以外の言葉を吐くなんて珍しいな。
(珍しくよく喋るな。その花が好きなのか?)
(別に……、ただ向こうではよく咲いてたから)
向こうね。
こいつが暮らしていた所は異世界というには類似点が多い場所だった。
人間の様相。一部の言語。衣類。料理。動植物。地形。
ミサトが言うには平行世界がどうとか。興味はないがね。
ただ大きく違う所があった。
言うならば人間の在り方だろうか。
全てを解き明かそうとする嗅覚。それが圧倒的にこちらの人々とは違った。
風が何故吹くのか。
音は何故聞こえるのか。
雷は何故落ちるのか。
人は何故死ぬのか。
何故何故何故何故何故――――。
あらゆる疑問に答えを求め、解き明かしては生まれた謎をさらに掘り起こす。
そうした果てに世界を破壊する程の力を手に入れた。
そんな世界でミサトは、あらゆる知識を自身の物としてきた。
ガキの身でその才を受ける事が幸せだったのかはわからない。
ただ一つの事実はこの世界で怨みながら死んだという事だけだ。
(同情するつもり?…………不快なんだよ。お前は私の感情を盗んだだけだ!余計な事を考えずあの糞野郎を殺せ!!!)
(自惚れんなよ。お前の為に行動した事なんて一つもねえ。単に事実確認しただけだろうが)
あーめんどくせえ。せっかくいい景色なのによ。
「どうしたの?何か不機嫌そうだけど」
「…………腹ァ減ってきただけだよ」
よく気がつく美人ってのも考え物だな。




