カイリ君、恐喝されるの巻
「…………ふぅ」
ぬるめの水で喉を潤す。
本音を言えば冷たい水が飲みたかったのだが、ミサトはどっか浮遊しに行ったからそれは叶わない。
風術で出来なくもないが室内だしね。
今の時刻は日付の変わる直前ってところだ。幽霊が元気になるには二時間ばかり早いと思うけど。
「んに…………カイリィ…………」
モルガナがむにゃむにゃ言いながら寝返りを打つ。
仰向けになってるのにまだデカい!張りがヤバい!若さって凄い!!
とりあえず服着せとくか。前開きのワンピースだからまあまあ着せやすい。下着は…………いいか。下の方は洗わないと使い物にならんし。
モルガナの調整はまずまず上手くいったかな。
あいつの意識は、死んだ恩師とマリーゴールドへのウェイトが重過ぎる。それらを解いて空いた隙間に座ろう!ってのが今回の作戦だ。
モルガナは予想を遥かに越えて優秀だった。
魔術、法術、ギフト。戦闘能力は申し分ないし、知能も高い。
何よりお金持ちである。最初は親の脛齧りだと思っていたが自活していた。方法はあれだが。
エステサロンに出資していたのも、モルガナ本人らしい。
そりゃ歓待を受けるわけだ。結果大繁盛。先見の明もある。
将来性はSSR。骨を折って俺のにする価値は十分あるね。青田買い万歳!
ダンジョンの中では何が起こるかわからない。
いざマリーゴールドが襲われた時、頭に血が上っても困る。アンジュと戦った時みたいにな。
だが今後は、あいつの心に天秤が置かれるはずだ。
片側はマリーゴールド、もう片側は復讐心と俺への愛情。勝算はそこそこ高いんじゃないでしょうか?
(お猿さんごっこは終わった?)
おうおかえり。そろそろ猿に例えるのはやめませんか?お猿さん可哀想だよ?
(おカイリさんごっこは終わった?)
全く意味が分からないが侮辱されている事はわかりました。
さて、家に帰るか。不良娘と違って社会人である俺は休めないからな。それに一緒に休んで変な噂が流れても困る。
特にマリーゴールドへの対応は気を付けないといけない。
今後、モルガナとの仲は気まずくなるだろうから、そのタイミングでお話を聞いてあげようかね。
マリーゴールドへの粉かけ作戦も諦めてはいない。目指すは両取りである。
それでは書き置きを残して退室するとしよう。
『ボクはそろそろ帰りますヨ~(^^;)
宿代は払っておいたから安心してネ!
今夜はすっごく楽しかったですナ~(笑)
また一緒に遊ぼうネ(^_-)-☆』
よしよし。こんなもんだな。
(…………………………キモ)
うるせえ!
今日のところ、宿代はサービスしてやる。ティラノサウルスさんのおかげでホクホクだしな。
それではおやすみ。
俺は退室し施錠。部屋を離れた。
支払いの為カウンターに向かうと、こんな時間でも、男女でチェックインする客が。
やっぱりそういう宿か。カサンドラが選ぶくらいだし、守秘義務もしっかりしてそうだな。
少し待たされたが、支払いと鍵の返却を済ませて宿を後にする。
外の風は鋭く冷たい。温かいものでも食べて帰りたい所だが、流石にどこの店も閉まっているな。
「……へっ、だからよぉ」
「てめえ、マジかよ」
気合いの入った格好の酔っ払い達が、道の少し先で屯している。地べたに座って酒飲んだり煙草ふかしたり。
うわー、近寄りたくねぇ。ここは歓楽街に近いからな。治安もそこそこに悪そうだ。絡まれなきゃいいけどなぁ。
「おっ、そこの僕ちゃん!こっちに来て一緒に飲もうや!参加費は金貨十枚な?」
「お前いっつも金貨十枚要求してんな〜。僕ちゃん、ゴチになりまーす!」
はいはい。そうなりますよね。
ロン毛野郎に、ハゲ野郎に、剃り込み野郎に、癖毛野郎に、ハゲ野郎。五人か。
ロン毛はベルトにナイフを差している。他の奴らはよく見えないが、酒瓶が幾つか転がっているな。
まあ大丈夫だろ。これなら平和的に対応出来そうだ。
「おい!無視してんじゃ——ぎッ!!」
癖毛がすれ違いざまに腕を伸ばしてきたので、その腕を上に軽く弾き、そのまま潜り込むように肘打ちを脇に叩き込む。
癖毛は脇を押さえ、声も出せずに蹲った。
大包と呼ばれる急所だ。強い衝撃を与えると一時的に呼吸困難を起こす。一人クリア。
「なっ!?」
周りが動揺している内に、低姿勢のまま酒瓶を拾いあげる。そしてその勢いのまま、煙草を咥えたハゲの鼻面へ瓶底を振り上げてやる。ホームラーン!
「ブホォッ!」
鼻血とともに煙草を吐き出しながら、ハゲが仰向けにひっくり返った。
これで二人目。漸く状況が飲み込めたのか、ご起立され戦闘態勢をとられる各々方。
残り三人。どうやら素人だ。このまま戦ったとして、風術を使うまでもないな。
「てめえッ!」
「終わったぞ…………死んだぞお前ッ!!」
やれやれ元気いっぱいだね。
では平和的な解決手段に移ろうか。
——————ガシャンッ!
「ッ!?」
地面に酒瓶を叩きつけて底を割る。音にびっくりして硬直する三人。
程よく割れてギザギザになった酒瓶を彼らに突き付けてやる。
「なあ、この酒瓶、凄く痛そうだろ?刺さったら激痛を味わえることは保証するね。だが、痛いだけならまだいい。この瓶の破片がお前らの血管に入ったら、一体どうなると思う?…………試してみたいと思わないか?」
「ヒッ…………!」
「そっ、そんなんでビビると…………は?」
俺の交渉術にロン毛がワナワナしてきた。
あれ失敗したかな?いけるムードだと思ったんだけどな。
仕方ない。まずはロン毛君の体で実験——————
「すみませんでしたああああああああああ!!!」
「へ?」
いきなり地を這いつくばって謝ってくるロン毛さん。why?
「てめっ、なにやって————」
「馬鹿がッ!お前も謝れ!!…………あの人だよ!食堂の!水術師のッ!!」
「は?………………ぁ。ごめんなさああああああああい!!」
ハゲまで土下座してきた。こっちは土下座なんだ。よく見ると東方顔ではあるかもしれない。
剃り込み君まで、真似するみたいに土下座モーションを取ってる。
なんなんだ?というか水術師?…………まさか、
(ひゅ〜〜〜〜〜〜♪)
下手くそな幽霊の口笛が聞こえる。
姿も見えないから誤魔化しにもなってない。
大方、俺が身体を貸した時にヤンチャでもしたのか。
「顔を上げなよ。君らはただ飲み会に誘ってくれただけだろ?ちょっとしたトラブルから誤解が生まれたようだが、まあ仲直りしよう。一緒に飲もうよ」
「ひっ、…………はい」
「てめえら!寝てねえで酒と食いもん集めてこい!!」
「合法の範囲で頼むよ〜」
息を整えた癖毛と剃り込みが街を走っていく。ハゲ一号はダメだな。鼻血出して伸びてる。
さてさて、ひょんな事から交流が生まれたな。
丁度こういう奴等から話を聞きたかったんだ。
装飾店を襲った覆面は、富裕層に反感のあるグループに所属していたらしい。
ミイラ女が殺してきた被害者も貴族や金持ちだとか。
カサンドラからの情報だ。
微妙な共通点だけどな。だが、こういう底流を泳いでる半グレ君達からしか得られない情報もあるかもしれない。
「さて、まずは名前を教えて貰おうかな。あとは職場もね」
二人の顔が酷く引き攣っていく。
おかしいな?自己紹介は仲良くなる基本だぞ?




