クズ飲み
「————ぶっはああああああ!」
「なんだこれ!?こんなビール飲んだ事ねえよ!!」
「キンキンに冷えてやがる!」
「喉にバチバチくる刺激がたまんねぇ!!」
「うますぎるっす…………うますぎるっす…………」
草木も眠る丑三つ時。人気のない路上は半グレどもの宴会場と化した!!
いや、それは元からか。ともかくクズどもの宴に途中参戦したカイリ君である。
参加させて貰ったからには土産があって然るべき。
癖毛と剃り込みが持ってきたビールに炭酸化の魔術を掛け、しゅわしゅわをマシマシにした所この反応である。
喜んでくれてとっても嬉しい。
(なんで私がこいつらの為にお酒を冷やさないといけないわけ?)
この手の奴らと仲良くなる秘訣はな、同じレベルまで馬鹿になって同じ様にはしゃいでやる事なんだよ。
美味い酒飲んで、大騒ぎしてれば気付けばフレンドなわけ。
(お前がキンキンに冷えたビール飲みたいだけじゃないの?)
否定はしない。ビールは冷えてた方が美味しいからさあ。
「どうだ?美味いだろ?こんな酒は貴族だって飲めないぞ」
「マジ美味いっス!本当にカイリさんはすげぇよ!強えだけじゃなくこんな事まで出来るなんて!!」
しかしいい感じに御機嫌だな。
ちなみに彼等の名前は、
ゲハルドルフ(ロン毛)
アーロン(てめえハゲ)
ロナルド(鼻血ハゲ)
フィン(癖毛)
ソリッド(剃り込み)
というらしい。ロン毛とハゲの名前逆じゃない?
「本当にうめぇよ。俺、カイリさんになら掘られてもいいかも……」
「よっしゃケツを出せソリッド!お前小柄だし目を瞑ればいけるかもしれねぇ!!」
「ぶはっ!良かったなソリッド!しっかりカイリさんをイカせて差し上げろよ!!」
(…………吐きそう)
男のノリなんてこんなもんだよ。馬鹿なら尚更な。
「ははっ、ところでロナルド。鼻は大丈夫か?」
「あっ、大丈夫っス!冷やしてればあんま痛くないんで。氷作ってくれてすんません」
よしよし。怪我が大した事なくて良かった。
流石に殺しちゃってたら後処理が面倒だからな。
派手に血を出したから、ちょっとだけ焦ったよ。
「すまんな。これでも冒険者なもんで、舐められたら口より先に手が出ちまうのよ」
「いや俺らが悪かったです。すんません。二度も見逃してくれて……マジあざっす」
「スーツなんて着てるから、てっきり貴族のボンボンかと……ほんとごめんなさい」
ロン毛とハゲは特に頭が低いな。
ミサトの奴にやられたっていうが、俺の体でどんだけエグい事したの?
(お前より1000倍マシだよ)
しかし勘違いだとしても、貴族に対して絡もうとしてくるとはな。そこから突いてみるか。
こいつらも貴族ヘイトグループの一員かもしれん。
「まあ貴族はムカつくからなぁ。自分一人で着替え一つしない癖に偉そうだし。大した事してないのに金持ちだし。そんな奴が遊び歩いてるの見たら俺でも殴るわ。というか殴った事あるし」
アンジュちゃんのお腹をね。まだ推定貴族だけど。
「マジに殴ったんスか!?」
「さっすが兄貴!俺らと歳も変わらねえのに!!」
「ああ。俺にはそれなりの後ろ盾もあるし、怖くはねぇよ。まあケツ持ちってのは大事だ。……そういや、この街にもそういうグループがあるって聞いたが知っているか?貴族嫌いのイカした奴らって話だが」
「あっ…………そっすね。あんまよく知らないすけど」
そう俺が言うと微妙な反応が返ってきた。
真顔になったり、俯いたり、下手くそな薄ら笑い浮かべたり。
急に白けた、というよりは嫌な事から目を背けた様な感じ。これは当たりかな。
「なんだよ、何かあったのか?話してみろ。力になってやれるかもしれん」
「カイリさん…………」
俯いていたゲハルドルフが、意を決したように顔を上げる。
目付きの悪い両目を僅かに涙で潤ませている。クズの目にも涙。
「…………ダチがなんかそういう集会に行ってたんです。好き放題する貴族の奴等にデモ……?とかいうのを起こすとかで。それでアイツは変わっちまって」
「変わったって、どんな風に?」
「元々貴族嫌い……っていうか金持ち嫌いな奴だったんですけど、キレやすくなったって言うか、気持ちを抑えられなくなっちまったっていうか。…………すんません。うまく説明できないです」
集団の中に入って、思想が過激になるのはあり得る事だが。
それだけでこの消沈っぷりは少しおかしいな。
まあ話を続けさせよう。
「いやいいよ、ちゃんと伝わってる。……それでその友達はどうしてるんだ?」
「…………死にました」
「…………そうか」
死んだ———ね。もう少し話を聞きたいな。
取り敢えずグラスに酒を注いでやる。
ゲハルドルフは頭を下げ、悲痛な表情でグラスに口を付けた。
そして入れ替わる様にアーロンが言葉を引き継ぐ。
「…………あいつとは同じ職場だったんす。でも仕事にも来なくなって。それで、ある日強盗をやって殺されました」
…………大当たりだ。
思わずニヤけそうになるのを必死で堪える。
この情報収集が終わるまでは、良い兄貴でいないといけないからな。
こいつらの友人というのは、おそらく覆面ズの内の一人だろう。まあ、まだ確定ではないけど。
それにしても、友人を死に追いやった張本人に泣きながら相談とはな。皮肉過ぎて笑える。
「つまんねえ死に方ですよ!弟の誕生日だっていうのにあんな真似しやがって!!」
「ほんとによぉ!あいつの代わりにプレゼント渡した時のヴァンの泣き顔が…………糞野郎だアイツは!!」
これでほぼ確定だな。
俺が記憶を抜いた死体さんの友達か。
死ぬ前に弟の誕生日について後悔していたから。
…………本当に糞野郎だな。
「…………俺もムカついてきたよ。その集会とやらはどいつがやってるんだ?」
「兄貴ぃ…………。それがわかんねーんだ。何度か誘われたけど突っぱねちまってよ。こんな事になるなら話を聞いてやれば良かったよ」
「知ってたら殴り込みに行ってますよ!あのビビりが強盗なんてするわけねぇ!集会だかなんだかで言いくるめられたんだよ!!」
これ以上の情報は無しか。まあ期待以上の成果だな。
・反体制のセミナーみたいなのをやってる奴等がいる。
・思想は恐らくかなり過激寄り。
・向日葵の刺青強盗が所属していた。
・そいつは強盗なんて出来ない程のビビり(クズ曰く)
纏めるとこんなところだな。
とりあえず、怪しげな集会やってそうな所には近づかない様にするか。思想が寄ってる奴にもな。
俺から近付くつもりがなくても、偶然って事はあり得る。
向日葵さん達をあまり刺激しない様に行動しないとね。
「…………俺からも調べてみるよ。情報収集なら伝手があるからな」
「カイリさん…………ありがとうございます。俺ら、あんたに二回も迷惑かけたのに」
まあ大嘘だが。
触らぬ神に祟りなしだ。神がどこにいるか分からなければ祟りは避けられないからな。その為の情報収集に過ぎない。
そして調べ過ぎて近寄ってしまうのも良くはない。
ここら辺が潮時だ。
「気にすんな。まあ、そろそろ俺は帰るわ。じゃあな。飲み過ぎんなよお前ら。…………あ、そういえば職場を聞いてなかったな。教えろよ。なんか分かったら会いに行くからさ」
「えっと……、それは……」
途端に言い淀むクズども。しかしゲハルドルフだけはニヤニヤ笑っている。
「こいつらは東区の工場でオモチャ作ってんすよ」
「ルドルフてめえ!オモチャだけじゃねえよ!チェス盤にリバーシだって作ってんだよ!!」
なんか強面にしては可愛らしい仕事だな。いや馬鹿にするわけではないが、思ったよりまともというか。
話した印象も犯罪組織の一員って感じでもないしな。単なるチンピラか。
「そういうゲハルドルフはなんの仕事やってんの?」
「俺はヒモっス!働いた事ないんで!!」
眩しい笑顔で彼はそう言った。
あーはい。ヒモね…………ヒモかぁ。
(お仲間じゃん?親友じゃん?)




