切札再来
「ん…………あれ、ここは?…………ああ、私負けたのね」
「おはようキャシー。反省会でもするか?」
ボディチェックから30分ほどたったかな?そろそろ帰りたかったから目覚めてくれたのはありがたい。
高身長過ぎて木陰に運ぶのも一苦労だったからな。
ここでは陽は高く、強い光が降り注いでいるが、外の世界ではそろそろ夕方に差し掛かるはずだ。
「…………いえ。短気を起こしてやられましたね」
「そうだな。だが先の発言は挑発の為だけに言ったわけじゃない。幻影は強力だ。使いこなせばゲーニッツにも勝てるね」
「さあ…………?どうでしょうかね」
軽口とみなされてそうだな。まあ半分は冗談だ。ゲーニッツの強さの底なんて知らないし。
だが俺はこいつの師匠でもなんでもない。そこまで必死に意識を変えてやる義理はないな。
「んで体の調子はどうだ?怪我はないか?」
「そこは貴方の方が詳しいのではないのですか?」
あれあれ?裸に剥いたことバレてる感じ?
とりあえず初手は誤魔化しが定石。
「医学の知識は人並み程度だよ」
「刺青を探したんですよね?昨日聞いた通り洗脳の恐れがあるなら私を調べない道理はない。疑いは晴れましたか?」
そこまで解ってらっしゃいますか。模擬戦自体、潔白証明の為にやったまであるな。食えない奴。
流石にわざと負けたなんて事はないと思うが。
「まあ白だと思ってるよ。今ので若干色に黒が混ざったが」
「それならば良かったです…………ん?」
体を起こす過程で頭に敷いてやったチャーミング帽子に気付いたらしい。酷く微妙な顔をしている。
頭殴られた帽子を枕にされていたら仕方ないね。
(性格が悪いと思いました)
眼の色に怒りが復活してきそうだったので無言で取り上げ鞄に詰める。ただでさえセーターも押し込んでいるから中身はパンパンだ。俺も魔道具鞄が欲しい。
「じゃあ帰ろうか。いいエステサロンを知っているんだ。汗もかいたし風呂にでも浸かって一休みしようぜ」
「それはいいですねぇ。前に生徒さんと行った所でしょうか?」
だからなんで君そんな事まで知ってんの!?
悪戯っ子みたいにペロっと舌出してるけど君のそれは完全に蛇枠だからね。
溜息をつき鞄の紐を肩にかける————ん?
何やら騒がしい音がする。入口とは逆の方向だな。
人の声。破砕音。何かの倒れる音。そして足音の様な規則的な大音と軽い地面の揺れ。
「…………ッ!人だ!助かった!!」
茂みの中から男が二人、女が一人。息も絶え絶えな様子で出てきた。そしてこちらに構わず入口に向かい走り抜ける。こいつら…………!
「キャシー!逃げるぞッ!!」
「はい!」
木陰でゆっくりしていた俺たちと絶賛ランニング中の彼らとは余力が違う。すぐに三人組に追い付いた。
「よお。こんな炎天下に走り込みとは精が出るな」
「チッ!…………はぁ、はぁ」
追いかけてきたこちらに舌打ちするも、僕とお話する余裕はない様子。
冒険者パーティの様だ。装備や肉体をみるに全員後衛だな。ナシではないがバランスが悪い。
とりあえず先頭を走る彼氏は相手をしてくれないので、紅一点に相手を変えて会話を試みる。
年齢は俺より気持ち上くらい。金髪のツインテールがキュートだが走るのに邪魔そうだ。
無手だが赤い革製のジャケットには小瓶が沢山仕込んである。粘度的に中身は油か?火術師なのかな?
「ねえねえ。君可愛いね?どこ住み?冒険者やってる?彼氏はいるのかな?」
「ふざけっ!」
よし気を抜いたな。ていっ
「痛っ!えっ…………」
「ファラッ!」
なんと紅一点は転んでしまった。ファラちゃんというのか。お近づきになりたかったのに残念。
「嘘ッ!足が…………やだ!やだやだやだ!助けて!!ガルナッ!キースッ!死にたくないッ!たすけてえええ!ガルナアアアアアッ!!!」
なにやら足を怪我してしまったようだな。可哀想に。
どんどん小さくなっていく声がいとおかし。
「くっ…………お前ッ!」
「やっと話してくれて嬉しいけど足を挫いてしまった彼女は助けなくて良いのかい?ガルナ君?」
「ッ!?」
よしよし。君の方がガルナ君で合ってた。
彼女のラブコールに強く反応してたのはガルナ君だし、もしかして君達はお付き合いしていたのかな?
ガルナ君は茶髪を短く刈り上げたイケメンだ。年齢も近そうだしお似合いだね。
ちなみにキース君の方はファラちゃんの事なんか気にせず夢中で走っています。
「それで何から逃げているんだ?後方百メートル程で景気よく足音立ててるアレからだよな?どうしてここまで逃げ切れているのかは聞かないでおいてやる」
「…………黙って走れッ!死にたくなければな!!」
可愛い女の子が死んだのに割と冷静だ。こいつがリーダーなのかな?
音で大まかな距離はわかるが、低い木々のせいで姿は見えない。
まあドラゴンさんだろうな。走っているみたいだしアースドラゴン系濃厚。
間引きをしたとは聞いたが全滅させたわけでもない。縄張りに空白が出来れば生態系も変わるものさ。
——————————イヤアアアアア!!
「ッ!…………ファラ」
あ、今死んだみたいだな。
ガルナ君は悲痛な表情だ。キース君は構わず走っている。逞しいな。
キース君はスキンヘッドが眩しい30代男性(推定)。
弓用のグローブを付けているのに弓も矢も持っていない。逃げる為に捨てたかな?
冷静だしベテランっぽいな。こっちにするか。
「なあキャシー?このまま入口に魔獣を持って行ったら怒られるだろうか?」
「場合によっては処刑されますね」
「…………ッ!」
だよねー。あんだけ警戒して封鎖しているんだものなぁ。
では逃げ切って良かったねとはならないわけだ。
「なあ、そこのストイックな感じのキース君。聞いての通りだがな。逃げ切れても逃げられないと思うんだ。だから協力しないか?」
「何を言ってッ!?」
「お前は黙っていろ。んでどうだい?ちなみに此方のお嬢さんはアクアパレスのギルマスの娘でね、事務員をやっている」
それを聞いて目を見開くキース君。好感触だな。
「"英雄"の…………!いいだろう。協力する」
「キースッ!?」
「ありがとう。よろしく頼むよ。…………早速色々聞きたい所だけど、話し合うには時間が足りないとは思わないか?」
「…………そうだな」
「ぎっ、…………ああああああ〜〜〜!!」
キースに足を斬られ派手に転ぶガルナ君。…………この男ストイック過ぎるッ!
「——————ぎいいいいいいいいすうううううううっ!!!」
後ろから断末魔の声が聞こえる。なむなむ。
これである程度時間は稼げるだろう。
自分の手を汚した以上こいつも形振りは構わないはず。
偽情報は言わないと思うが動向に用心しないとな。
「後ろの魔獣はタイラント・ドラゴン。通称T・ドラゴン。三ツ星魔獣だ。全長は十五メートル程。臓器の位置は他の地龍と大まかに同じ。走る速度はそこまでではないが俺たちより速く疲れない。表皮は硬く、剣を通さない。そして人間を喰う」
自分の役割をわかっているな。説明も端的で分かりやすい。
デカい上に皮膚も硬いときたか。
そうなると酸素操作や切断では難しそうだぞ。
「なら生半可な術では倒せませんねっ!」
キラキラした瞳でこちらを見るカサンドラ。
はいはい、見たいなら見せてやるよ。今日はお前の為の時間だしな。
それにぶっぱで終わるならそれはそれで楽チンだ。
「情報はこれで全てだがどうするんだ!?」
「この林を抜けた先に開けた空間があっただろ?そこで討伐する。三ツ星魔獣を一撃で倒した技がある。それを叩き込んでやるぜ」
「あれですねっ!サンドワームを消し炭にしたあの!?」
「サンドワームを…………!」
君はプラズマが大好きだなぁ。しかしあまりの熱意が説得力になったのか、キース君の目に希望が。
——————————ああああああああああアッ!!
ガルナ君もこの世界とお別れしたらしい。
それを聞いたキース君は表情一つ変えない。中々のサイコパス野郎だな。
そして林を抜け天然の広場に到着。うん、ここなら狙いやすいね。
「はぁ……はあ……、俺は何をすればいい?」
「うーん、疲れている様だしそこで休んでていいよ————ウィンド・ミンス」
「えっ?…………ぎぃいいああああああああ!!」
圧縮空気と研磨砂塵のコラボレーション。マジカルチェンソーにてキース君の右足首は見事カッティングされました。
「いたいいたいいたいいたいいたい!足取れッいたあああああい」
「君の役割はそこで死ぬまで休んでいる事だ。俺の切札はチャージが必要でね、時間稼ぎを頼むよ」
「ううううううう。いたいいたあい。血がッ!血が止まらないぃ…………なん……なんでっ……裏切って」
泣きながらも足を抑えて止血してる。こんな極限状態でも生きる事を諦めないなんて人間って凄い。
「なんでって。仲間の足を斬る奴を信用するわけないだろ?後で変な証言されても困るし。あの世でガルナくんに怒られてきなさい」
キース君の怨嗟のミュージックを聞き流して二人で距離をとる。
発射ポイントを探しているとカサンドラが徐に香水を吹きかけてきた。良い匂いするー。
「鼻の良い魔獣は汗から位置を割り出します。今からギフトで姿を消しますが、お守り程度にはなるかと」
準備の良い事で。こいつはこのダンジョンの情報も持っていたみたいだしな。
————ダンダンダンダン!
「ひぃぃいいいいいいい!!」
足音が近付いてきたな。キース君も絶好調である。
さて、ぼけっとしている時間もないな。
ちょうど良くデカい倒木があるので片膝をつき背を預ける。
その姿勢のまま右腕を突き出し、膝の上で支える。始めるぜ。
空気を操作。圧縮。そして加速。俺を中心に吹き荒れる暴風が木々を揺らし葉を舞わせる。
「グウォオオオオオオオオオオオオン!!」
「ぎゃあああああああああああああ!」
来た!って…………えっ?この方がドラゴンなんですか?これってどう見ても…………、
(ティラノサウルスキターーーーーーー!!)
「ガアアアアアアアアアアアッ!」
挨拶代わりとばかりに口から熱光線を吐くT・ドラゴンさん。キース君は一瞬で炎に包まれてしまった。
光線吐く怪獣とか特撮かよ。
(お前が戦隊ネタ擦るからフラグに…………)
いやお前が白亜紀とか言うからだろ!
しかし獲物に対し炎のブレスとはな。食べるつもりならお料理の概念があるのかな?
ふざけた事を考えながらも必殺準備中。空気が電離しバチバチと小規模な紫電が発生する。
チャージにはもう少しかかるな。ゆっくり味わって食べてくれると嬉しいが…………ってあれ?
「ガッ!?…………ゴロゴロ。ヴヴヴヴ」
いきなり炎が消え五体満足のキース君が現れる。
T・ドラゴンさんも警戒モードに切り替わったのか訝しんでいる様子。
なんだとッ!?まさかお前もリンさんの親戚シリーズの…………?
「餌が生きている様に幻影を張りました。本人はウェルダンに焼けていますけどね」
なーんだ知ってた。だが上出来だ。
こんな便利な能力に不満があるとか俺には分からないね。
掌の前に光球が生まれ、周りを走る雷光がさらに勢いを増す。そろそろだ。
「グゥウウウウッ!?」
強烈な突風を受けT・ドラゴンが僅かに後退する。さすがの巨体だな。だがこれそのものは攻撃ではない。
強烈な気流が奴との間の空気を押し退け、真空のレールを作り出す。
準備完了だ。いくぜ、
「——————プラズマ・ドライヴ」
周囲が紫色の光に染まった一瞬。敵の胸部にプラズマが着弾。
刹那に硬質な表皮を焼き肉体内部に侵入。肉が焼かれ、体液が気化。生じた蒸気が急膨張を起こし爆発する。
腹に響く様な破裂音と共に巨体が倒れた。
「………………ふぅ」
まあこんなもんか。
サンドワームの時と違って弱点が分かってたし、しっかり狙えたから威力も控えめで済んだ。反動も優しい。
相変わらず頭が痛くなるくらい疲れるが、大技決めるだけで終わりなら簡単だ。
変に考えたりする必要がない分人間殺すより楽だね。
「はぁ…………きれい」
カサンドラさんは両頬を手で押さえてヤバい顔をしてらっしゃる。
「満足したか?」
「はい…………少しイッちゃいました」
ヤバいのは頭の方だった。
…………っと。人の近付く気配だな。
入口からそこそこ近いし、咆哮も聞こえた事だろう。兵士が様子を見にきたかな?
程なくして三名の兵士が現れた。
「お前たち!ここで何がッ…………タイラント・ドラゴン!?」
即座に二名がドラゴンの死体を調べに近づき、一名が残った。出来る男たちである。
聴取の為かな。先に話して心証を良くしよう。
「俺は銀級のカイリという者だ。ガルナとかいう冒険者に魔獣を擦られてしまってな。ダンジョン外に出すわけにもいかなかったから此方で処理をした」
「処理って…………こいつを二人でか」
そう驚かれると気分がいいなぁ。俺なんかやっちゃいましたぁ?
(うっざ)
「ああ。残念ながら擦ってきたパーティは全員喰われてしまったからな」
「意図的な魔獣擦りは犯罪だ。死んだなら面倒がなくて良いさ」
あらクール。まあ擦りによる死亡やいざこざはダンジョンあるあるだからね。
それで仕事が増えるのもやだもんね。
「この後時間は平気か?少し話を…………」
「すみません。彼は戦いでの疲労が大きくて…………後日私から報告させて頂く形でもよろしいでしょうか?」
長話面倒だなーと面倒がってたらカサンドラキャンセル入りました。
確かに疲れているけど事務職気質のお前がなんで?って思ったら、寄り添う様に俺の身体をこっそり撫でている。
あーはいはい。もう辛抱堪らないわけだ。
「お前は…………アクアパレスのギルド員か。なら話も早そうだな。報告はギルドを通して行なってくれればいい。だが二、三日中には頼むぞ」
「はい。必ず」
カサンドラに渡された身分証で納得する兵士さん。
社会的地位ってこういう時大事だよなぁ。
「では行きましょうか。まずはお風呂ですね。それともお風呂でですか?」
出禁になるのでだめでーす。




