カイリvsカサンドラ
爛々と輝く日差しが熱い。湿度も高く、噴き出した汗が肌に張り付いて不快だ。
長袖で来るんじゃなかった。今日は若草色の上下でキメているから、この大自然と相性抜群なオシャレなのが救いか。
(センスが白亜紀並に古い)
ほっとけ!
しかし大層広大な空間だ。
むせかえる様な草の匂い。密集した木々に艶やかなデカい花。虫の羽音。どっか遠くで聞こえる甲高い遠吠え。
どう見ても密林ですが、ここがダンジョン内部である。
竜種の巣窟と聞いていたから室内ではないと思ったがね。まさかここまでの生き物パラダイスだとは。あっ、そこの木に見た事ない果物がなってる。
「その服装は暑そうですね。でも虫も多いので脱ぐのはやめておいた方がいいですよ」
コートを脱ぎ、通気性抜群の涼しげな服装でこちらを煽るカサンドラ。こいつは当然ながらダンジョンの内部の事を知っていた様だ。
模擬戦の前にこちらのパフォーマンスを落とす作戦か。この毒蛇め。でも体にピッタリ密着したお洋服がえっちだから許します。今夜はそれでしようね。
(このアマゾンにピッタリのモンキーを1匹発見)
「ここにしましょうか。ある程度入口から距離がありますしスペースも十分です」
背の高い草もなく、半分砂地ではあるが地面が硬い。足跡も付きづらいな。
戦いやすくはあるが向こうに有利な場所だな。
こいつの幻影は視覚だけしか偽れない。草が踏み折られたら消えたところで居場所がわかっちゃうからね。
もちろん踏まれた様に地面を偽る事も出来るが、その分能力に負荷がかかるらしい。
やれない事もないそうだから戦う上で念頭に置いておかないとな。
「いいよ。ルールはいつもと同じでいいか?」
「はい。よろしくお願いします」
距離を取り向かい合う。
ルールはいつも通り。攻撃魔術の禁止。
言ってしまえば手加減だな。飛車角落ちみたいなもん。
こうなると普通にやっては俺に不利だ。
しかしそれでいい。俺自身の鍛錬にもなるからね。
リンが相手だと鍛錬にもなら————ッ!?
前方から迫って来る不可視の飛び蹴りを転がって避ける。俺はいつも転んでばかりだなぁ。
振り返り構えると、五メートル程の先で潰れているタンポポが…………かわいそう。
そしてタンポポの上からカサンドラが出現した。
さっきまでの位置にいたカサンドラは幻影か。せこい事しやがるとは思うが効果的だな。
「…………よーいどんはいらないんでしたよね?」
「やっぱあの時見てたんじゃねえか」
こいつの能力は外部刺激で変容するホログラムの様な物だ。個人に見せる訳ではなく世界を騙す幻影。
能力規模も然程大きくないし、使用にはかなりの集中力が必要だ。昨日みたいに動揺すれば解除されてしまう。
しかしこと近接戦闘においてはクソ厄介だ。
「シッ、シッ!フッ!」
ジャブで距離を測られてからの右ストレート。
俺は右のガードは上げたまま左でパリィを狙うが、
「…………ぐっ!」
右ストレートは直前で幻と消え、お腹にアッパーがとんできました。
「後ろに飛んで威力を逃しましたか。得意技ですね。…………しかし感触に違和感が」
予想以上のキレに回避は間に合わなかったがな。ダメージケアには成功した。
楽に気楽に泥臭くがモットーなもんでこういう小技ばかり上達すんのよ。
カサンドラは追撃せずこちらを見ている。
本当に見ているだけか分からんがな。厄介な能力だ。
「…………危なかったぜ。このチャーミング毛糸帽子を腹に仕込んでいなかったら死んでたかもな」
俺は上着の下からお気に入りの帽子を出して頭に被る。
そして暑いのでセーターとシャツを脱いで地面に置いておく。
(どう見ても変態です。なんというか変態でしかない)
「…………なんですか?舐めているんですか?」
「勘違いして貰っては困るな。全て勝つ為の行動なのに」
こいつは知能の割に沸点が低いからな。
とりあえず煽っておく。精神状態は能力強度にも影響するし。
「……………………シッ!」
返事もせずに距離を詰めて殴って来るカサンドラ。
今度はスマッシュか。拳闘染みた近接戦はお父上に習ったのかな?
これを言ったらライン越えな気がするので黙っておこう。今後の関係に響きそうだし。
右手でスマッシュの軌道をずらして半身近寄る。幻影は使ってない様だな。
このままお返しのボディアッパーをお見舞いしてやるぜ。
「…………ぎっ!!」
「女性のお腹を狙うのはマナー違反ですよ?」
腹部を狙った拳に膝蹴りを合わせてきやがった!
いやマジ痛いんですけど!!
だが片膝を上げた状態では回避行動は取れまい。
今度はこちらにターンを回して貰うぞ。
「必殺!チャーミングチョップ!!」
「ふざけてるんですか!?」
俺は毛糸帽子を窄めて持ち、握った拳をカサンドラの顔面に叩きつける。
ガードを頭上に上げ拳を防ぐカサンドラ。だが、
「…………がっ!」
遠心力を得た帽子の先端がガードを回り込み、後頭部へ叩きつけられる。
さっき拾った石を帽子をかぶる時に仕込んでおいたのさ。即席のブラックジャックだ。
さて追撃と思ったらカサンドラの姿が消えた。そして距離をとった先で再び現れる。
頭の痛みで幻影の維持を長くは出来なかった様だな。
「安心しろ峰打ちだ。小さめの石にしてやったぞ」
「…………だからふざけてんのかてめえはよおおおおおおおおおおお!!!」
よしよし。ボルテージマックスって感じだね。
仕上げの工程に移ろうか。
「すぐに頭に血が登るのがお前の弱点だな。まずは冷静になれ」
「ッ!…………はぁ……はぁ、…………すみません」
口では謝っているものの相変わらずヤバい目付きをしている。
全然冷静ではないね。だが幻影を使える程には落ち着いただろう。
「折角恵まれた能力を持っているのにそれではな。…………悪いが目を瞑っていても俺の帽子すら落とせないだろう」
「ッ!!!!!!」
帽子の中の石を投げ捨て、頭にかぶりながら最大級の地雷を踏んでやる。
こいつは自分の能力を所詮詐術だと低く見ているからな。褒める事こそが逆鱗なのだ。
(後に響く煽りはしないんじゃなかったの?)
強い能力なのは事実だからな。
本人も卑屈に考えず向き合わないといけない。
「…………後悔しないでくださいね」
そう言った瞬間に増えるカサンドラ。
ひいふうみい…………戦隊ヒーローになれそう。
サツバツ戦隊カサンドラV!
(それ絶対伝わらない上に伝わったらブチギレると思う)
「では宣言通り目を瞑ってやるか」
俺は閉眼し感覚を集中させる。何も煽りで目を瞑るわけじゃない。こうなった以上視覚情報は邪魔だからだ。
俺は気体を感知する事が出来る。
当然空気の流れには敏感だ。
不可視の蹴りを避けられたり、打撃のタイミングをずらす事が可能な絡繰である。
「死ね」
「もう数え切れない程死んださ」
「ッ!?」
大振りのフックを屈んで避ける。お前が本体だな。
さっきの膝蹴りは選択ミスだ。それが自身のダメージに繋がった以上、次は拳で来ると思ったよ。
直前に痛い目を見た動きは、頭で考えるより先に身体が避ける。冷静でいないなら尚の事。
帽子で煽り倒したから、顔を狙ってくるのも予想済み。
攻撃方法が絞れれば、不可視でも十分に回避できる。
そして屈んだついでにさっき地面に置いておいたセーターを手に取る。
「しまっ!?」
よく伸びるセーターで良かった。
屈んだまま背後へ抜け、拾ったセーターを胴へ巻きつけて端を掴む。
これで消えても逃げられない。
「お前の負けだ——————オキシア・ヴォイド」
「あっ…………」
後頭部を軽く殴ると同時に低酸素状態にし気絶させる。カサンドラVも消滅しソロ活動となりました。
これで決着である。
(攻撃魔術は禁止じゃなかったっけ?)
打撃と同時だからバレへんバレへん。
強く殴って後遺症を残すわけにもいかないだろ?気絶はして貰わないと困るんだから。
さてここからが俺の本当の目的である。
「キャシー?起きてるか?」
「……………………」
ぺちぺちと叩くも反応無し。
「寝てるとキスするからな?本当にするぞ?」
「……………………」
キスして唇を舐めても反応無し。
(強姦魔)
いつでもキスして良いって言われてるもん!
しかし反応がないな。
コインで陽の光を反射させて瞼に当てるが緊張した運動もない。喉を見ても殆ど唾を飲んでいないな。
しっかり気絶してますね。
んじゃ剥くかー。脱ぎ脱ぎ。ピッタリだけど伸縮性が良いから脱がせやすいわこれ。
(やっぱり強姦魔じゃん…………)
いや違うからね!向日葵探してるだけだからね!!こいつは幻影が使えるから気絶でもしてないと分からないの!!!
昨夜の嘔吐シーンで手首は確認したがな。必ずそこにあるとは限らないからさ。
再会タイミングがあまりに俺に都合良すぎたし、情報取得の速度も速すぎた。疑って然るべきである。
ごそごそごそ…………ふぅ。何も無かったな。安心安心。
(意味深な…………ふぅ。入りました)
てめえは見てて分かるだろがい。
しかし現段階では白だな。ここまでの情報は信用して良いという事か。
そうなるとこいつの情報収集力の異常さがヤバく感じられるな…………。
とりあえず服を着せるか。この綺麗な肌に虫刺されでも出来たら損失だ。夜が残念な事になる。
…………俺も服を着るか。倒れた美女の横に半裸の毛糸帽子とか犯罪過ぎるしな。
見られたら言い訳出来ない。
あっ…………おなかに虫刺されが出来てる…………。
(馬鹿なファッションの末路だね)




