ダンジョンに行こう!
「"力の石"ねぇ…………」
「はい。身に付けた者の魔力を上げ、魔術への更なる理解を与えてくれる魔道具。それが学園の何処かに隠されているらしく調べていました」
"力の石"とか"力"コンプレックスのこいつに刺さりそうな単語ですこと。
俺は呆れながらティーカップに口を付けた。
現在喫茶店で食後の御歓談中。ちなみに昼食はここのサンドイッチを食べました。中に挟んである酢漬けの鯖が美味でしたね。
「それで?毎年先生活動に勤しんでいたみたいだが進捗はあったのか?」
「…………一向に見つかりませんね。ガセだったのか持ち出されたのか。今回で最後にするつもりだったんです。遺憾ながら教員からは外されてしまいましたが」
それで俺を指名したわけね。
探し物に躓いた時は別の視点も重要だ。それに俺相手なら交渉も可能だろうと思ったんだな。
「それで俺に捜させようって腹だったのか。コソ泥の手伝いをする気はないぞ?」
「そこは大丈夫なんです。“力の石”の製作者の遺言がありましてね。『この石の所有者を決めるのは力のみ。あらゆる法には縛られず、力ずくで奪い合うべし』…………と。法的な所有権は製作者の遺族に残したまま、彼らの了承の下、手に入れた者が借り受ける形で渡っているんですよ」
なるほどね。石を奪う事自体はグレーラインと。
でも学園に入るのは不法侵入になっちゃうから臨時教員の立場を利用したと。
「数年越しの熱意の割には頼みに来るのが遅かったな。教員期間はもう半月ほどしか残っていないが」
「もうそこまでの熱意は無いんです。…………"力"なら目の前にありますからね」
カサンドラの酷く熱意のある視線が正面から刺さってくる。またそれか。
「何度も言うが"風が何なのか"を感じられないお前に教えられる事はないぞ」
「でも今後は分からないでしょう?貴方も後天的に解る様になったと言っていましたよね?私にも可能性はある」
この方は最初に見せたプラズマ・ドライヴで脳が焼かれてしまったらしい。
風術は戦闘用として認知されていないからな。目眩しや体勢崩しなどの牽制にしか使えないと言うのが常識だ。
だが航海する上で欠かせない役割を担っている為、社会的地位はかなり高い。
冒険者で風使いがいたら馬鹿にされるがね。弱いから。
おい船乗り!ここは海上ギルドじゃないんだぜ!HAHAHA!!みたいに。
(お前めっちゃ言われてたよね)
おかげさまで阿呆どもを釣り殺すのには便利な風評だったがな。
「それに風術だけではないですよ。体術でも戦術でも、貴方といる事には大きな学びがあります。…………今日は私の為に時間をくれるんでしたよね?」
目に剣呑な光を込めながら舌を出して笑うカサンドラ。だからそれ蛇の探餌動作にしか見えないって。
こいつ最初からそのつもりだったな。
今日の服装は山吹色のコート姿だがちらっと見える中身は黒い密着上衣にレギンス。模擬戦の時にパパさんが着ていたのと同じタイプの服だ。親子でおそろかよ。
「…………まあいいだろ。確認したい事もあるしな。場所に当てはあるのか?」
「そうですね。広大で人の目に付かず、それでいて地形を弄ったところで誰にも文句は言われない。…………そんなデートスポットに心当たりがありますよ」
それってデッドスポットの間違いじゃないですかぁ?
どう考えても行き先はあの場所だ。
喫茶店を出たあと俺たちは郊外にある住宅街に向かった。いや元住宅街か。
瓦礫だらけで草木も伸び放題。人の住めるような土地には見えない。
ダンジョンから湧き出てきた魔獣の影響である。
つまるところカサンドラが言っていた場所とはダンジョンの事だったわけ。サツバツ過ぎるデートである。
住宅街の手前には俺の腰ほどの高さの囲いがあり、等間隔に国の兵士が並び立っている。内外同時に監視している様だ。
「止まれ。許可証があるならこちらに投げろ。なければ去れ」
兵士が俺たちを制止してきた。職務に真面目だね。
マニュアルなのかは分からないが迂闊に接近させない所も評価高いよ。
他の兵士も視線だけはこちらに向けている。
「お疲れ様です。私はカサンドラ。アクアパレス冒険者ギルドの者です」
カサンドラが兵士に手帳の様な物を投げる。
それが許可証なのか。裸で持っとくわけにもいかんしな。
兵士が警戒を解かないままにそれを拾いあげる。
「…………よし。問題ない。歓迎しよう。アクアパレスの冒険者よ」
「ありがとうございます。日暮れには戻りますので」
「直近で大規模な間引きをした後だ。魔獣は少ないかもしれないが油断はするなよ」
ニコッと笑って返すカサンドラ。兵士さんも満更ではない表情だ。こいつは美人だからな。
それに倣ってニコッと笑いかけたら俺の方は無視されました。
カサンドラに続き囲いを越えて中に入る。
小さな村一つ分程の広さがあるな。丁度オルテ村くらいか。この中心に入口があるわけだ。
「大丈夫だったのか?俺は許可証とやらは持っていないわけだが」
「そこはご安心を。この許可証は私個人ではなく"鋼鉄の風"の入場を許可する物なので」
鋼鉄の風は俺たちのパーティ名だね。なら安心だ。
でもそれっておかしくない?君の分の許可証はどうなるの?なんだか嫌な想像しか出来ないんだけどー?
「お前まさか…………」
「ふふっ、ギルドでパーティ登録を管理しているのは私ですから。これからよろしくお願いしますねっ」
職権濫用〜〜〜!本当そういうとこパパさんそっくりじゃねぇか!!
というかリンには言ったの?言ってないよね?君達仲最悪だもんねっ!どうするんだよ今後!!!
「…………はぁ。所属だけだ。一緒に依頼を受けるのは認めないからな」
「わかってますよ。貴方方の秘密には触れません。あの女には嫉妬しちゃいますけどね」
「口にも出さない方が賢明だな。お前の後ろ盾は強大だが、やり様はいくらでもある」
「…………すみません」
単なる軽口だろうけどな。釘は刺しておかないとね。
口ではああ言ったがゲーニッツと敵対するのはリスクが勝ち過ぎる。目を欺くのも骨だ。
まあパーティ加入も悪くはないね。彼女は便利な諜報能力をお持ちですからな。
いずれはこいつにも仇探しに協力して貰う予定だったしね。だがそれは今じゃない。
暫く歩くと広場が見えてきた。人の姿もある。
兵士いっぱい。休憩している冒険者らしき人らもそこそこ。
兵士達に囲まれた中央に、馬鹿でかい池の様な物が見える。水面は何も映していない漆黒。ここが入口か。
兵士の一人がこちらに気付き近寄ってきた。
「冒険者か。許可証はあるよな?見せろ」
「こちらを」
今回は普通に手渡し。実力に自信があるのかな?
中心部で監視しているくらいだから相当な強者なのかもね。歩き方を見たくらいじゃ分からんが。
「よし。一応説明しておくとあの黒い池が入口だ。向こうにも同じ池があるから帰る時は同じ様に入れ。ダンジョン内にも兵士がいるから問題はないと思うが状況が変わるかも分からん。何せこの先は竜種の巣窟だ」
竜種というのはデカい。空を飛ぶ。強い。そんな感じのトカゲっぽい魔獣だ。アムスネツィアのダンジョンのレギュラーメンバーである。
まあ間引きした後らしいから大丈夫だろ。
それにカサンドラのギフトは逃走時にも有効だ。危険はあんまりない。
「ありがとうございます。ささ、行きましょう」
さっきの重い空気を払うように腕に抱きついてくるカサンドラ。
兵士さん達の視線が凄い事になってるからやめてほしい。
さてさて、ダンジョンに入るのは久しぶりだ。
ここの内容はあまり一般公開されてないからな。ちょっと楽しみ。
学園行事の前に下見が出来るのも嬉しい。
元々の目的に加えて利点が沢山あって最高。
鯖サンドも美味しかったし良い休日になりそうだね。
(フラグ染みてんなー)




