職員会議
「装飾店には価値ある"何か"が収められていたそうよ。防犯面を懸念して憲兵管理の金庫に移動させたらしいけど」
「価値のある、ねぇ。それが何かは教えてくれなかったのか?」
リンの買ってきたチーズドッグを頬張りながら話を聞く。うまうま。
現在は日の落ちたての夕食時。ご飯を食べながら情報交換である。
俺は一日引き篭もっていたから聞くだけだが。
「ええ、欠片もね。その他の時間は殆ど装飾品談義だったわね…………お料理は美味しかったけど疲れたわ」
そりゃご苦労さんだ。
しかし憲兵の所に移したねぇ。わざわざ此方に話す事でもないだろう。これはフェイクと見ていいな。
謝礼金の時に話してみたが抜け目のなさそうな印象だった。オネエだけど。
「あの面とツーショットで食事とか痛み入るな。よくやってくれたよ」
「ほんとによ。彼って目立つから食堂中の視線に晒されたわ。話を聞くだけなら貴方の方が良かったんじゃないの?」
「お前から話を聞くまで知らなかったんだよ。面識なかったし」
しかし進展はないな。狙われそうな"何か"くらいじゃ何も分からない。
わざわざ保管場所を移すっていうならそれなりの物なんだろうが、それも本当かどうか分からんからな。
あーあ、暫くは受け身か。願わくばもう俺に関わってこないで欲しい。
「まあ今日は助かったよ。あとでご褒美をあげないとな」
「え?…………ちょっ」
頬に手をあて親指で耳に触れる。する時のサインだ。
焦った様に俺の腕を掴むがこんなのただのポーズだ。力も入っていない。こいつはもう逆らえない。
「…………今朝も言ったでしょ?それとも全部捨てて一緒になってくれるわけ?」
軽口の様だが冗談を言っている風には見えない。
良い傾向だ。こいつの復讐心も大分剥がれてきたな。
だが復讐だけが俺と繋がる手段だからね。そこは忘れないでくれよ。
「そこまではしないさ。今日は口付けで塞いでやる。そういうのも好きだろ?」
「………………馬鹿」
今朝は期待させるだけで何もしなかったからな。
俺への気持ちが逸れない様に暖めてやらないといけない。
それに定期的な刺青の確認は必要だ。
手首だけにあるとは限らない。全身を観察しとかんと。
リンが立ち上がり外への扉に向かう。
「ちょっと風に当たってくるわ。すぐ戻るから」
「風邪ひかんようにな」
乙女だねぇ。この寒い日にわざわざ。
俺としてはやりやすくていいけど。一応こっちも体を拭いとくか。
(…………本当にリンと一緒になるって選択肢はないの?相性は悪くないと思うけど)
はぁ?寝言言ってんのか?
仮面殺しが最優先だろうが。あいつはその為の駒にしか過ぎない。
相性は悪くない?それはそうかもな。このまま部屋にいれば相性の良い所は見せられると思うぜ?
(————ッ!このクズ!そうじゃない!!復讐が終わってからの話だよ!)
…………復讐が終わる?どうしてそうなるんだ?
何が言いたいのか分からない。復讐の後なんて考えた事なんてない。考えてはいけない。
この復讐が終わったら俺はどうなる?
「…………うっ」
(カイリッ!?)
吐気がする。やはりこいつの記憶は強烈だ。
思い出しただけで気持ちが悪くなる。
(…………ごめん。余計な事を言った)
本当にそうだよ。お前の記憶の陳列は刑法に抵触するから気をつけろよ。マジえぐいから。
結局の所仮面については情報が何もないからな。
終わるも何もスタートラインにすら立っていない。
それに俺の復讐がまだ終わってない。先ずはこちらを片付けないと。
この学園にきて方向性は定まったが、まだ情報が足りない。シェリーを絶望させるには骨が折れそうだ。
(…………そうだね。写本の作成も終わってないし)
それなー。今日一日中やってたけど肩が凝って堪らないんだよ。
ただ書き写すだけでもこれだ。本当にクローディアは凄い奴だったんだな。
(出来たら墓でも作って備えてやりなよ)
…………無事出版できたらな。印税で馬鹿デカい墓建ててそこに供えてやるよ。
あいつの作品には楽しませて貰ったしな。"蔵書の火葬"だけは恥ずかし過ぎて発禁にしたい気分だが…………まあ名作には違いない。
(本当に本が好きだね)
読書は俺の人生だからな。
「では本日の授業はこれまで。ここのところ物騒だから早めに帰宅する様に!」
「「「ありがとうございました!」」」
アンジュちゃんの終了の合図で礼をする一同。
初日の貴族がどうとか平民がどうとか言う話はなんだったのか。みんな良い子じゃん。
すぐに教室を出る者。復習にペンを走らせる者。クラスメイトと駄弁る者。色々いるな。そこは他の学校とあまり変わりない。
(学校行った事ない癖に)
本で読んで知ってるもーん。
ちなみにお前は速攻帰るか寝てるかそもそも来ない奴だったな。友達いないから。
(うるせーーーー!)
「じゃあまた明日ねぇ」
「あっ…………うん。また明日」
今日のモルガナは速攻帰る派の様だ。
珍しいな。いつもくねくねしながら寄ってくるのに。
マリーゴールドも一瞬こちらを見るも、モルガナの後を追う様に奥の出入り口から退室した。
リンの話では昨日はマリーの部屋に来ていたらしいからな。言い争っていたとも。
まあ深入りするもんじゃない。生徒の自主性に任せよう。
「じゃ、おつかれ。また明日よろしく」
「待て。何を帰ろうとしているんだ。この後の職員会議に私達も呼ばれているってきちんと話しただろう?」
廊下に出た俺を追いかけて手を握るアンジュちゃん。速い。
きちんと話されたから帰ろうとしたのになー。
まあ仕方ないか。昨日休んで今日もフケるんじゃ勤務態度にバッテン付けられかねないからな。
「うっかりしていたな。忘れてたよ」
「…………君が忘れるとかありえないだろ」
じとーっとこちらに視線を向けるアンジュちゃん。
目には隈が薄くかかっている。寝不足かな。今朝は寝坊しそうになったみたいだしね。声が漏れてたかな?昨夜はリンの奴がうるさくてごめんね。
「俺だって忘れる事はあるぞ。例えばリップの塗り忘れとかな。いつもより明るく薄い色が好みだから覚えておいてくれよ」
「〜〜〜〜〜っ!………………君ねぇ。まあいいや、場所は会議室だ。少し早めだけど今から向かおう」
「はいはい」
逃げはしないからそろそろ手を離してくれないだろうか。
結構僕たち誤解されてるんだけど。
「定刻より早いが全員集まったので開始とする」
仕切りはジェイス先生か。まあ向いてそうだ。
治癒担当の教員がペンを握っている。こっちは書記か。
ドーナツ型のデカいテーブルに座る8人。
主要教員が集まっている。学園の教員にしては少なく感じるが、助教員を含めると人数は倍以上に膨れ上がる。
生徒数が60人ほどなら問題ないレベルだろう。
ざっと紹介するとこんな感じ。
一年主任 水術師のリーリア先生
二年主任 地術師のガラモン先生
残念主任 火術師のジェイス先生
風術担当教員 シルバ先生
治療担当 法術士のアクア先生
そして学園長のロバート先生
「その前に。非常勤の二人に学園で会うのは初めてだったね。改めて自己紹介させて貰おうかな。学園長のロバート・ロドリゲスだ。先日は世話になったね。学園でもよろしく頼むよ」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。本当に良いお店でした」
どう見てもマフィアみたいな店長さんは兼業学園長でした。
オネエ言葉じゃないからすっごいマフィア度が上がっている。
というかゲーニッツといい組織のトップが堂々と副業してていいわけ?君達友達だそうだけどさ!
そしてアンジュも面識あったのか。まあアクセサリーとか好きそうだしね。女の子だもん。
「では本会議の内容だが、三年生のダンジョン探索についてが主題だ」
————ダンジョン。
簡単に説明するとギフト能力者によって作られた異空間だ。能力者の死後もギフトの効果が残り、この世界に入り口を作ってしまう事がある。
種類も規模も千差万別。単に使用者の故郷を模しただけの空間である事もあれば、魔獣ひしめく弱肉強食の世界である事もある。
そしてこの都にあるダンジョンは後者だ。しかも馬鹿でかい。危険生物の楽園である。
恐ろしい事に入口は一方通行ではない。だから常に監視が必要だし定期的に間引いたりして管理をしないとスタンピードすら起こり得る。
年中ダンジョン管理に追われているせいで、アクアパレスに目を向けられなかったというのもある。
まあこの魔獣無限湧きスポットが一種の抑止力となり、国防の面で一役を担ってるというのが皮肉だがな。
「…………資料の通り暫定の班分けはこうなっている。何か意見のある者はいるか?…………ガラモン先生、どうぞ」
挙手をしたガラモン先生に視線が集まる。
背は低いが鍛え込まれた筋肉の上に重厚な脂肪か覆っている。長い髪と髭が特徴的だ。昔話のドワーフみたいな見た目だな。
「モルガナ君のグループですが…………この分け方はどうなんですかね?実力に差があり過ぎる気もしますが」
もっともな意見にまわりの先生方も頷いている。
いやそれ作ったの俺だから突っ込まれると困るんだよなぁ。
「そこは組み合わせを考えたカイリ先生に説明して貰おう。先生、どうぞ」
ほらねー。絶対振られると思った。
まあ仕方ない。喋るの苦手なんだけどナー。
「はい。簡単に言えばモルガナ君が強過ぎるからですね。誰と組んでも探索は成功するでしょう。だからそれなりの実力者と組ませた結果、彼等に間違った成功体験を与えかねない。初めての実戦で慢心を与えたくはない。その点マリーゴールド君とサイカ君は自信がない。こう言ってはなんですが勘違いはしないでしょう。加えてモルガナ君は法術も使えるので二人のフォローも問題なく行なえる筈です。気分屋で先行しがちな性格ですが、マリーゴールド君とは親友だ。ダンジョン内で無茶はしないと思います」
単に面倒だから授業初日のメンバーそのままにしただけだがな。
まああの時作ったグループは改めて仲良くなるきっかけになったらしく、三人組で交流してる奴等もよくみる。
悪くはないだろう。能力相性より互いの理解度の方が大事な時もある。
俺の説明に納得した様で先生方がうんうんと頷いてらっしゃる。赤べこみたいですねー。
まいったナー。喋りとか苦手なんだけどナー。
「素晴らしい説明をありがとう!我々にはない視点だが、少なくとも私は充分に納得出来た。反対意見がなければ暫定案を決定とするが問題はないか?…………ないな。では決定とする」
よしよしさくさく終わった様で何より。
議題は二つらしいから後一個話したら帰れるわけだ。
実はアンジュに負けず俺も寝不足だったからな。はやく帰っておやすみしたい。夜遅くまで気持ち良さそうにしていたリンちゃんが朝になっても気持ち良さそうにグースピしてたのはイラっとしたのよ。
「では次の議題に移ろう。これは毎回物議を醸すからな。今回は早めに決まる事を願っている」
えー?なんなの?遅くまでかかるのは嫌だよ?
僕ら非常勤だから途中抜けできない?せめてアンジュちゃん残して僕だけ帰れませんかぁ?
周りの先生方の反応は千差万別だ。
ニコニコ笑ってたり不敵に笑ってたり挑発的に笑ってたりくくく……と笑っていたり。みんな笑顔じゃねえか!
「よし!それでは今日この後の飲み会の場所を決めるぞ!!」
ジェイス君が似合わない黒縁メガネを輝かせてそう言った。
は?




