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休日始動捜査始動


「通り魔に襲われた?」


「ああ、昨夜な。都でも有名な殺人鬼だったらしい」


 俺は朝イチでアンジュちゃんに会いに行った。

 とは言ってもお隣さんだからお外に出てすぐだけど。


「へえ…………命知らずな奴もいたもんだね。そしてもう命も無いわけでしょう?こんな朝っぱらからそれを言いに来たの?まだ化粧も終わってないんだけど?」


 不機嫌そうに鏡に向かって作業中のアンジュちゃん。いつもながらガチメイクである。

 冒険者中は薄く整える程度だったが、非常勤教員になってからは毎朝早起きして頑張っている様子。

 その甲斐あって性別問わず生徒から憧れの的だ。

 男子生徒からの人気は特に高い。こいつは恋愛関係は脇が甘そうだから面倒事にならなければいいがな。


 (本日のお前が言うな案件が早速出ました)


「なあ、ジロジロ見てないで早く要件を言ってくれないか?ただでさえリンさんからの視線がキツいんだからさー」


 リンならベッドですやすやぴーだから大丈夫だよ。

 そう言いつつも部屋まであげてくれるアンジュちゃんは本当優しい。おうちがコワコワじゃなかったら結婚して欲しかった。嘘だけど。


「わかった。簡潔に言うぞ。今日は学園を休むからあとは頼む。じゃあな」


「まて。何を言ってるんだ?」


 はて?分かり辛い事言ったっけな?

 もう一度説明しようと振り返ると面白い表情のアンジュちゃん。

 いやマジで面白い。リップがずれたのかピエロみたいになってる。ぷーくすくす。


「いや通り魔アタックのダメージが強過ぎて今日はもう休もうかと…………」


「どこがだよ!無傷でピンシャンしてるじゃないか!タンスに小指ぶつけた方がまだ重傷だよ!」


 服の下に傷が出来てるかもしれないだろ!脱いだろか!?服の下も無傷だけどさ。

 流石に誤魔化せん様だな。

 まあ元々アンジュにはある程度話しておくつもりだ。

 万が一こいつの手首に向日葵が咲いてしまったら滅茶苦茶厄介だからな。そうなったらもう殺すしか無い。


「今のは冗談だがな。…………強盗事件については話しただろ?どうやら今回の通り魔もそれの地続きらしくてな。実際、昨夜も装飾店に行った帰りに襲われた」


「…………そう言うからには根拠があるんだろ?」


 口周りを拭き取りながらアンジュが尋ねてくる。

 よかったよかった。そろそろ真顔でいるのも辛くなってきた所だ。


「体に黄色い花の刺青をした連中が悪さをしているらしい。強盗も通り魔もその徒だ。これは憲兵内での秘匿情報だから漏らすなよ」


「さらっと厄ネタに巻き込んでくるなよもー!…………まあいいや。つまり強盗失敗の腹いせに襲われたって事?そしてまだ狙われていると君は考えているわけだ」


 こいつはやっぱり話し易くて良いな。会話に無駄が無いのは好印象だね。


「そんな所だ。装飾店を狙う上での障害と判断した可能性もある。まずは店の事を探るつもりだ。お前には面倒を掛けるが今日一日は時間が欲しい」


「…………そういう事情なら仕方がないな。授業については不安だけどなんとか頑張ってみるよ。先生方への説明も任せてくれ」


 なんていい子なんだ!でも先生方へは手紙をしたためたからそれを渡してね!間違ってもオリジナリティ溢れる言い訳はしないでね!!


「それと最後に一つ。今から話す事は更なる極秘情報だから絶対に公言するな。漏れたらどうなるか分からんからな」


「だから厄ネタを…………はぁ、毒を喰らわば皿までだ。聞くよ」


「よし。刺青連中は洗脳能力を持っている可能性がある。お前は迂闊に近づくな。刺青を見つけたら俺に教えろ」


 確かに俺の中では極秘情報だ。嘘は言っていない。

 こいつがヘマをするとも思わんが、相手の姿も見えていない状態だ。釘を刺しておかないとな。


「面倒事は私もごめんだよ。下手に操られたら君に殺されかねないし」


「ははっ。その時は痛くしないでおいてやるよ」


「いや今のは否定して欲しかったな…………」


 よしよし。アンジュちゃんについてはOK。次はリンだな。



 

 アンジュと別れ借り家に戻る。

 リンさんはすやすやとワイシャツ一丁で寝ておられる。寒くないのか。

 ちなみに彼シャツとかではない。こいつの自前だ。


「おい。起きろ」


「んー?…………なぁに?」


 ペチペチと頬を叩くとうっすらと目を開けるリン。

 こいつは寝起きが悪い。こんなもんじゃ起きないだろう。追撃のペチペチを続ける。


「やーめてよー…………なんなのぉ?今日は危ないからだめだよぉ」


 そう言いながら寝返りを打ち顔を背ける。

 駄目だ。惚すぎて口調も頭の中もモルガナみたいになってる。

 こういう時は劇薬の出番だな。

 俺は寝ているリンを抱き起こす。


「ふぇっ!」


「舌を噛むなよ?」


「ぁ…………んっ…………」


 一瞬緊張で固まるもすぐに解れ差し出してくる。

 こいつも慣れてきたな。

 暫く感触を楽しんだのち顔を離す。

 透明な橋の先を見ると潤んだ瞳に林檎みたいに赤らんだ頬。出来上がりっと。


「…………ふぅ。目は覚めたか?こんな朝早くにすまないが一つ頼みがあってな。…………俺にお前の時間をくれないか?」


「っ!…………はい。でも本当に危ないの。…………その、責任とか、必要になるかも…………私は構わないけど…………」


「うん。色良い返事が聞けて安心したよ。じゃあこれから俺の代わりに"リトルジェム装飾店"を調べに行ってくれ」


「…………はい…………はい?」






 …………はぁ。私ってちょろいのかな?

 自己嫌悪に陥りながら足を早める。

 カイリは私の気持ちを理解した上で言葉を回す。

 自分が情けない。いつから心にあの男を住まわせる様になったのか。

 たがあの男の言う事も分かる。要約するとこうだ。

 "装飾店が狙われている可能性がある。俺はニ度も向日葵の徒を撃退した為、姿を見せる事で奴等を刺激しうる。その点お前ならまだマシだ。洗脳能力も死んだらリセット出来るかもしれないしな"

 との事。普通に言ってくれればいいのに…………いや従ったかは分からないな。私はちょっと頑固だし。そこも読んだ上なんだろうけどね!


 1時間ほど歩くとようやく目的地に着いた。

 "リトルジェム装飾店"。ここに来るのは三回目。

 一回目は強盗事件真っ最中。二回目は被害状況の確認。そして今回。

 出来れば普通に来店したいものだ。気になる髪飾りとかあったのに。


「こんにちは」


「あら!あらあらあらやだ!リンちゃんじゃないの〜!昨日に続いて今日も遊びに来てくれるなんて嬉し〜〜〜!じっくり見ていってね!!」


 会うなり大歓迎してくれる店長のロバートさん。

 2mはありそうなすらっとした体躯。剃り込みの入った坊主頭。切長の目。その上にあるはずの眉は綺麗に剃られていて腫れ上がっている。服装はベージュ色の普通のスーツだが全身アクセサリー塗れ。

 どこのマフィアだと言いたくなる見た目から飛び出してくる女性言葉。

 相変わらずキャラが濃い…………少し苦手だ。


「そうしたいのは山々ですけどね。()()の件でお話を聞きたくて」


「っ!…………ええ、勿論よ。ただこれから用事があってね。昼食を取りながらでもいいかしら?ご馳走するわよ」


 ウィンクを決めながら微笑むロバートさん。正直キツい…………。

 というかこの人とサシでご飯食べなきゃいけないのかぁ…………。


「…………わかりました。では昼にまた」


「リンちゃんちょっと待って。折角だからウチの弟子の様子を見てきてくれない?ちょっとへこんでるみたいなのよね。無理もないけど」


 弟子とはマリーの事か。彼女も当事者だし話を聞いておくのも悪くない。

 カイリから大方の話は聞いた。だが彼は意図して情報を隠しておく事もあり中々信用出来ない。嘘は付かないのが逆に厄介だ。


「はい。私としても気になっていたので」


「ありがとぉ!マリーの部屋はその奥にある階段を登って左よ」


 扉の奥は覆面を探す際に隈なく確認した。

 恐らくあの部屋だろう。

 ロバートさんや他の店員に礼をし、扉に向かう。

 部屋を見た感じ気が合いそうだし、彼女だけなら話はしやすいな。


「そうそう!モルガナちゃんも遊びに来てくれてるみたいだから彼女にもよろしくね!」


 げ。

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