夜の街デート
「本当に助かったわ!ありがとうカイリちゃん!!リンちゃんにもよろしくね!」
「いえ、こちらこそありがとうございました…………リンにも伝えておきます…………それでは…………」
そう言って彼に挨拶をし退店する。
やっとこのハイテンションから解放された。
まさか店長がオネエ系だったとはな…………。
そしてリンの奴は日中に様子見がてらこの店に寄ったらしく、謝礼金を既に受け取っていたらしい。あの暇人め…………。
俺の正義のピンハネ計画崩壊の瞬間である。
(何が正義だよ。性根の1000%が敵側な癖に)
違うから!俺は悪役じゃないから!もう一つの正義?みたいな感じの側だから!中盤以降に仲間になる系の正義だから!
(そして終盤で死ぬ奴ね、わかる)
うるせー!縁起でもない事をいいやがって。
まあいい。謝礼金は俺の分だけでもかなりの物だ。儲けてるねあの店。
「…………先生っ!……はぁ……はぁ、」
後ろから俺を呼ぶ声が。振り向くと息を切らせたマリーゴールドの姿。走ってきたのか?店から結構距離があるが。
「どうしたんだ?何か言伝でもあったか?」
「…………はぁ。先生に渡したい物があって」
渡したい物?良い響きの言葉ですな。
ちなみにギャン泣き事件の時に本来の口調がバレてしまい、本人の希望により取り繕う事をやめた。
「渡したい物?」
「ちょっと恥ずかしいんだけどさ…………」
そう言ってマリーは手のひらサイズの木箱を取り出し蓋を開ける。
中には藍青色の指輪が鎮座していた。
「これは…………」
重厚なデザインの鋼鉄製のリング。
それに細かく砕かれた宝石が散りばめられている。夜空の星の様にも、陽を受けた碧海の様にも見える。これはアズライトか。
美しい指輪だ。思わず溜息が出る程に。
「これ私が作ったんだけど…………受け取って貰えないかな?」
「いいのか!?」
「えっ…………うん。先生に貰って欲しい」
つい反応してしまったが変な意味じゃないよな?
指輪を贈る事には色々厄介な意味があるからな。
俺の視線に気付いたのか慌ててマリーゴールドが否定する。
「あ、ちがっ……勘違いしないでね。これはね、私の一番の自信作なんだ。初めて納得が出来た作品…………夢への第一歩。だから先生に貰って欲しいんだ。店を守ってくれたお礼と…………ふふ、叱ってくれたお礼かな?」
そういう事か。なら安心安心。
しかし美しいな。人間のクズハントや盗賊狩りのお陰でこれまでも様々な装飾品に触れる機会はあったが、その中でもぶっちぎりに美しい。
素材は安価の様だが関係ない。良い物は良い。
無料で貰えるなんてそんなの二つ返事ですよ。
だが、
「これは貰えないな」
「えっ…………」
マリーゴールドの顔が悲壮感に溢れる。
酷く残念そうに俯き指輪を仕舞おうとするがまあ待てよ。演出だ。
俺はマリーゴールドから指輪を奪い、代わりに金貨を手に握らせる。
「凄く気に入った。だから買うよ。お前の作品の初めての買い手になりたい」
「先生っ!?…………先生は本当に気障だなぁ」
目が潤み声は震えている。
演出とは言ったが全て本音だ。こいつの作品は素晴らしい。必ず大成するだろう。
将来的にこの指輪には付加価値が出来るわけだ。
"あの天才職人の初めての作品"みたいな感じにな。
価値も爆上がるだろうし、ここで買っておけば気兼ねなく転売出来るからな。貰い物じゃないから文句は言わせない。
オマケにマリーゴールドからの心証も良くなるだろう。
「でもこの指輪は未完成じゃないか。ちゃんとお前の作品だって刻印してくれないと困るぞ」
真偽の判断が難しくなったら売る時困るぞ。
俺は指輪をマリーゴールドに返す。
「えっ!?恥ずかしいけど…………今入れるね」
魔力の反応。ここで刻印するつもりか。
一瞬のうちにマリーゴールドのイニシャルがリングの内側に刻まれた。
確かに地術は優秀だな。こんな繊細な作業を立ち仕事でやってのけるんだから。
「あっ………………!」
俺は指輪を受け取り左手の薬指に嵌める。
その意味を連想したのか顔を紅潮させるマリーゴールド。
イニシャルの刻印された指輪だしな。まあただのパフォーマンスだが。
そのまま指輪を嵌めた手で頭を撫でてやる。
「こちらの方こそ礼が必要だな。何か困った事があったら助けてやる。教師生徒関係なくな。優秀な職人と関係を結べるのは俺としても幸運だ」
「先生褒め過ぎ…………口説かれてるみたい」
「あながち間違っちゃいないがな。用が済んだのなら帰れ。もう夜も遅い。店から離れちまったから送っていってやる」
「うん…………ありがと」
よしよし好感触。青田買いが捗る。
モルガナといいマリーゴールドといい人材の宝庫だな、我が学園は。
教師になる奴の気持ちが分かったかもしんない。
(いや絶対確実に分かってないと————後ろっ!)
「きゃっ!」
マリーゴールドを抱えて飛び退く。そして魔力を浸透させ魔術の発動準備。
「エアロ・ブラスト」
圧縮空気の炸裂をくらい吹き飛ぶ人影。
同時にマリーゴールドを下ろし敵から距離をとる。
中肉中背。白地の仮面を付けている。全身を覆い隠す様な外套を纏っており年齢や性別は不確か。鉈を持ったまま仰向けに倒れている。
完全に俺の事を鉈る動きをしていたな。ナイス幽霊。
咄嗟だったから魔術の規模は小さいが脳震盪くらいは起こせただろう。
そしてこのままトドメだ。
「————ウィンド・ミンス」
切断魔術により敵のお顔が胴体とさよならする。とりあえず制圧完了。
俺を狙ってきた理由は分からないが、リスクを取ってまで生かしておく必要もない。
「ひっ…………!?」
マリーゴールドが息を飲み尻餅をつく様に倒れる。
君はそういう反応をするタイプか。叫ばれるよりマシだな。
やれやれ、今度はどんな言葉を掛けてやろうかね。
(動いてる!生きてるよあいつ!)
「………………」
ミサトの声に振り返ると、地面に手をつき起き上がろうとしている鉈の人を発見。首と胴も再婚している。
…………おいおい、リンさんの親戚の方ですか?そうホイホイ不死身キャラが出て来ても困るんだけど。
まあリンと同じなら攻略法も簡単である。
「————オキシア・ヴォイド」
低酸素で気絶させてしまえばいいね。
その後マリーゴールドに適当に手錠かなんか作って貰えば良いだろ。指輪を作るより簡単だ。殺し方は後で考える。
しかし————、
「………………」
平然と立ち上がっていますな。
どうしようかな。うーん、逃げるか?
でも俺の事殺すつもりだったみたいだしねぇ。下手に逃げるより始末を付けておきたい気持ちもある。無差別犯じゃなかったら面倒じゃない?
マリーゴールドも無事に帰れる保証もないしな。残念な事にたったさっき守るだけの理由が生まれてしまった。
「マリー、そこにポストがあるだろ?それで剣を作れ。刃渡は90cm程だ。出来るだろ?」
「えっ!ポストって…………」
「はやくしろ!————エアロ・ブラスト!」
空気の炸裂で再度吹き飛ぶ鉈の人。
くそが。マリーゴールドがノロマなせいで無駄に魔力を使っちまった。せめてこの時間を思考に充てて有効に使おう。
行動に酸素がいらないくらいだ。脳震盪も期待薄。
間違いなく人間ではないな。体は人間っぽいから死体さんかな?俺の印象的には人形みたいな感じ。自由意志は無さそうだ。そういう魔道具?魔獣?ギフト?……まだ情報が足らないな。
「出来たよ!先生!」
「サンキュー!」
マリーゴールドから赤いロングソードを受け取る。
流石に始めてしまえば仕事は早い。こんな状況でも地術の腕に影響していないとは大したタマだ。無駄に塗装を活かして赤い剣にしたり装飾入れたりしているのは減点対象だが。
職人さんはポストが無くなって散らばってしまった手紙を集めている。いやこの状況で大したタマ過ぎるだろ。真面目か。
「…………」
無口な彼は立ち上がり、真っ直ぐにこちらに向かって進んでいる。意思を感じない癖に殺意だけは明確だ。
さて、斬り合うのは久しぶりだ。
こちらの消耗や情報収集が目的かもしれないからな。
エコに戦って色々検証しよう。そもそも街中で派手な術は使いにくいしね。
俺は剣を中段に構える。
こちらに合わせる様に鉈の人が上段に鉈を構え突進してくる。速いが単調だな。
「セイッ!」
俺は突進に合わせて剣を振り上げる。ポストソードは容易に奴の腕の腱を切り裂いた。
握力が無くなりすっぽ抜ける鉈。肉体はすぐ再生するだろうが無くなった武器はどうにもならない。
「ハッ!」
そして追撃の振り下ろしを顔面に。俺の予想だとこの仮面が怪しい。
————キンッ
甲高い音が鳴って男が倒れる。仮面も真っ二つに割れた。さてどうなるか。後方に下がって様子を窺う。
「剣まで使えるんだ…………。やっぱり先生って凄い」
君も随分冷静で凄いよ。驚いたのは最初だけ。まるでシリーズ物探偵作品のレギュラーキャラみたいだね。
(あの毎回やってる申し訳程度の悲鳴ねー、わかる)
わかるじゃなくてお前は仕事してこい。
また今度体貸してやるから。
(はいはい。その言葉忘れないでよ)
今度がいつかは僕にも分からないけどね。
「………………」
またまた平然と立ち上がる旧鉈の人。
仮面が割れた事で素顔が明らかになるが、
「…………嘘」
さすがのマリーゴールドも絶句している。
仮面の素顔はミイラ化した死体だった。まあ予想通りだな。削がれた鼻がチャーミングだ。
イコールギフト対象になるわけだが、情報を得る為に隙を見せては本末転倒だ。こんな時にリンがいればな。連れてくれば良かった。
「…………ぉぉぉぉおおおおオオオオオオオオオ!!!」
お気に入りの仮面が壊れた事が御立腹なのか低い声で喉を震わすミイラくん。
拳を振り上げてこちらに突っ込んできた。
——————速い。
明らかに速度が上がっている。筋力にバフでもかかったか?このまま戦うのは危険だな。
「先生危ない!…………転んで!!」
突如マリーゴールドが地術を発動。膝くらいの高さの壁をミイラくんの進行上に作った。援護のつもりらしい。
でもそんなの飛び越えればいいからね…………まだ距離あるし…………。気持ちだけ受け取っておくね…………。
「…………アガアッ!」
予想を裏切り躓いて転ぶミイラくん。うっそーーーん。
マリーゴールドはキラキラした目でガッツポーズしている。それダメな成功体験だからな!
まあともあれチャンス。大きく距離を離しておこう。
あーでもミイラくんの足元に鉈が…………まあいいか。
「ォォォオ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!」
鉈には目もくれず雄叫びを上げ立ち上がるミイラくん。
今度はマリーゴールドに向かって駆け出した。
「きゃあああああ!!」
まずいな。でも隙だらけだ。そういや心臓は試してなかったな。一応行っとくか。間に合わなかったらごめんよマリー君。
剣を水平に構えて突っ込む。バックスタブだね。
「…………ア゙ァ!」
いきなりこちらに振り返るミイラくん。まじぃ?
無理やり転び慣性を利用して攻撃を回避する。危なかったけどセーフだ。
こんな何も考えていなさそうな顔しといてマリーゴールドを利用した騙しうち?…………いや違うな。
さっきまで俺が視界にいなかったからマリーゴールドを狙ったんだろう。そしてヘボトラップに掛かったのも見えなかったから。
あそこだと見えなくてここだと見える。且つ壁と鉈が見えない位置…………候補は三箇所。
(見つけたよ)
おせーよ。あそこの仕立て屋の中だろ?マネキンの影に隠れていると見た。
(…………全然違うけど?あの角っこの喫茶店だよ。大きな窓の洒落たとこ。営業中だったら客に溢れているだろうね)
あーーーそっちかーーー!
いや俺もそっちだと思ったんだけどねぇ。最初はそう思ってたんだけどなー惜しいなー。キノマヨイガナー。
(はいはい。んじゃ今度体貸してね)
はいはい今度な。
何にせよこれで確証は得られた。
もう温存する必要はないな。
「エアロ・ブラスト」
まずはミイラくんを吹っ飛ばして時間を稼ぐ。この術便利過ぎて何度でも擦っちゃう。
そしてそのまま喫茶店に向けてダッシュ。速戦即決、気付かれる前に仕留める。
敵は店内の何処だ?
(窓のすぐそば。こちらから見て右)
わかりやすい位置で良かった。暗がりを探す手間が省ける。
「コイン・バレット」
———ガシャン!と音を立て即席の入口が出来上がる。ちょっと通りますよ。
「ッ!!」
店内には身を縮こませている女性客が一名様。
ビックリさせちゃったねー。ごめんねー。さよなら。
「カッ…………ゴホッ…………」
剣を引き抜くと噴水の様に首から血液が流れ出した。
色々と聞きたい事はあるけど話は落ち着いてからでいいよ。




