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ミサトのグルメ


「美味しい〜!この一口の為に私は生きてるんだっ!」


 私は今レストランにいる。

 レストラン"うさぎのしっぽ"。大衆向けで気取らない感じのお店。そこでオムライスを食べている。

 魚の気分ではあったけどお刺身の未練が出るとキツいのでやめた。


「オムライスはオムライスで子供の頃からの好物だしねぇ」


 おっと独り言が多くなってしまうな。普段声が出せない反動だね。気をつけないと。

 何かしらヘマをしたら体を貸してくれなくなっちゃう。

 ただでさえ滅多に貸してくれないのにね。

 まあ機嫌が良いから〜なんてのは嘘だ。

 どうせ私の記憶を掘りに行ったんだろう。ならば私も気兼ねなく生身を楽しむだけだ。

 長く憑依すると私とカイリの精神が混ざってしまうリスクがあるが、これには抜け道がある。

 カイリが私の記憶を覗いている間は混ざる事はないのだ。一種のトランス状態かな?互いに思念が入らなくなる。

 よって危険なく100%の生身生活を味わう事が出来るのさ。

 外部の危険に対しては憑依を解除すれば良い。ショックで目覚めるから。荒事はあいつの仕事だからね。なんてったって私は女子高生だから。


「にいちゃん美味そうに食べるなぁ」


「そりゃ美味いからね。もうこの先の人生は美味しい物食べる事くらいしか楽しみがないんだ」


 ボーイッシュな給仕の女の子が話しかけてくる。

 人との触れ合いがちょっと嬉しい。なのでつい本音が出てしまった。

 食事が唯一の楽しみなのにカイリは全然体を貸してくれないのだ。

 貸してくれるのはジュースに氷入れたりシャーベット作ったりする時ばかりだ。それも一口二口しか分けてくれないしさ。

 お前に勉強を教えてやったのは誰だと思ってるんだ。恩を返せ恩を!


「色々大変そうだな…………。まあゆっくり食べなよ」


 そう言って女の子が清掃作業に戻っていく。

 時刻は午後の三時くらい。昼時も過ぎたからか店内には私しかいない。

 この世界にはまだ時給の概念が無いので、人的コストを考えての閉店などはない。日中は売るものがなくなるまで開きっぱなしだ。落ち着いて長居が出来る。

 しかし美味しいな。現代日本と比べても遜色ないかも。

 この世界は器具のレベルは低いけど、調理技術や調味料の発達は凄い。

 魔術や魔獣の存在があるからね。私の世界とは別方向に技術の発展や交流があったのかも。


「いらっしゃい!」


 あらら、貸切じゃなくなっちゃった。

 入口の方を見るとチンピラ染みた男が二人。ハゲとロン毛。

 嫌にニヤけた表情が気に入らないな。悪い予感がする。

 男達が席に腰をかける。その後ロン毛がポケットから小石を取り出した。こいつら…………。


「痛ッ!」


 お盆で水を運んでいた女の子が急に転んでしまい、水が男にかかる。


「てめぇ!!!」


「ごめんなさい!……痛っ、なんで足が」


 女の子は足をおさえて謝っている。

 そんな彼女に立ち上がり詰め寄るハゲ。ロン毛は座ったままニヤけている。

 屑が。小石を飛ばして転ばせたな。


「すみません。どうかなさいましたか?」


「父ちゃん…………ごめんよぉ」


 厨房から騒ぎを聞きつけた店主が出てくる。

 あの子の父親か。家族でやってるんだ、この店。


「どうもこうもあるかよ!この間抜けが俺に水を零しやがった!舐めてんのかてめえらはよぉ!!」


「ひぃ!」


 ハゲが激昂しテーブルを蹴り飛ばす。

 その一方でロン毛は落ち着いた様子で立ち上がった。


「まあまあ、落ち着きなよ。彼女もワザとじゃないんだ。そうだろ?」


「はっ、はいっ!ごめんなさい!ワザとじゃないんです!」


「すみません。ウチのものが…………。今日はサービスさせて貰いますのでどうか」


 屑どもに頭を下げる二人。その瞬間キレ散らかしていたハゲが一変して笑う。下手な小芝居だ。反吐が出る。


「そんなんで許せる訳ねえだろうが!殺されてぇのかてめえは!?金だ!金貨十枚寄越せッ!!」


「グッ!」


 頭を下げる店主の頭に拳を振り下ろすハゲ。

 ()()()()()()()()


「父ちゃんっ!!ごめんなさい!でもうちにそんなお金ないんです!」


「そうだろうねー。でもこいつブチ切れちゃうと何するか分からなくてさ。お金が払えないなら別の方法で払うしかないよね?」


「別の方法?…………なんでもやります!だからどうか…………」


「素直な子だなぁ。じゃあ今から俺たちと一緒に゙——ッ!!」


 ナイスヒット。男の子の体は力持ちで羨ましい。

 片手で投げた椅子は綺麗に真っ直ぐに飛びロン毛の頭に当たった。

 

「食事の邪魔なんだよ屑ども」

 

「てめえ!!!」


 ハゲが激昂しこちらに体を向ける。今回は本当に怒った様子。というかお前は"てめえ!!!"しか言えんのか?てめえbotかてめえは。


「…………死んだわ。死んだぞお前」


 ロン毛も立ち上がりこちらに。手にはナイフ。やる気満々だね。

 でもそんな脅しで怯えると思っているのか。

 ()()()()()()()()()()と思ってるんだ?

 ちらっとカウンターを確認。水差しが二つ置いてある。これだけあれば充分だな。


「…………ちょうどいいな。この親子へのいい見せしめになる。やれッ!」


「てめええええええええ!!!」


 拳を振り上げ踏み込んでくるハゲ。ナイフを持ち駆け出すロン毛。

 でもまだ距離はあるぞ?つまる所初回は私のターンだ。


「water shot」


「なっ!」

 

「てめっ!」


 水差しから勢い良く水が飛び、二人の顔面に命中。

 両方ともタタラを踏んで立ち止まる。


「…………水術使いか。だがこんな水鉄砲で勝てると思ってるのかな僕ちゃん?」


「てめぇ…………舐めやがってぇ!」


 射線が被らない様にか、距離を離して二方向からにじり寄って来る二人。

 冷たい水で冷静にさせたかな?なら今度は温めてみようか。


「boil water」


「なんだ…………お湯に…………ッ!熱っ!熱い!!」


「あちいいいいい!やめっ、やめてくれえええ!!」


 こいつらにかかった水の温度を上げてやる。三分も続けたらダメージが超過して火傷になっちゃうよ?


「今は50度くらいかな?このまま沸騰させてあげようか?」


「わかった!わかったからやめてくれぇ!!」


「勘弁してくださいっ!調子に乗ってすみませんでしたァ!!」


 ハゲロン毛からお湯を回収し空中に漂わせる。

 二人は床に跪き、真っ赤な顔を両手で押さえて喘いでいる。茹でタコみたいだ。


「この店は私のお気に入りなんだ。次に顔を見せたら…………わかるな?」


 空中のお湯を槍状に変化させ凍らせる。

 二本作ってそれぞれの鼻先に突きつけてやると、どちらも面白い顔をして慄いた。


「ひっ!すみませんでしたあああああああああ!!」


「ごめんなさいいいいいいいいい!!」


 慌てて店を出るハゲロン毛。

 こう言う時は一昨日きやがれって言えばいいのかな?


「うっ…………何が…………?」


「父ちゃん!」

 

 倒れている店主が起き上がる。大した事ないみたいだね。

 女の子の足も内出血にはなりそうだけど、そんなに悪そうには見えない。とりあえずは安心だ。

 私はテーブルの上に氷を二つ作ってやる。


「その氷あげるから布巾かなんかで包んで冷やしな。まだ痛むだろ?」


「有難うございます!」


「にいちゃん本当にありがとぉ!」


 女の子が抱きついてくる。そんなに勢いつけたら足が痛むだろうに。というか早く足を冷やせ足を。




 


「今日はにいちゃん限定のサービスデーだ!」


「他に食べたい物があったら遠慮せず何でも仰って下さい」

 

 本当に貸切になってしまった。

 大した事をした訳じゃないからちょっと罪悪感。

 そんな感情は置いておいて目の前のハンバーグは食べるけど。うまうま。

 さっきオムライスを食べたばかりなのに余裕で入ってしまう。男の子の体ってスゲー。


「にいちゃん本当にかっこよかったなぁ!魔術師だったのかぁ」


「まあね、大した事ないけど。…………あー、それからカイリっていうんだ。私の名前は。にいちゃんはやめてくれよ」


 こう見えても私は女の子なもんで。にいちゃん呼びは地味に辛いところがある。


「わかった!あらためてありがとうね!カイリ!!」


 ——————ありがとーカイリ!また勉強教えてね!!


「……………………」


「…………あれ?カイリ泣いてるの?」


「…………いや、ハンバーグが美味しすぎて目からヨダレでただけ」


「なにそれー。カイリ面白いねっ」


「ぐぇ、ムセるから背中叩かないで…………」







「はぁ…………」


 橋の上から夕陽を眺める。

 合わせ鏡みたいに河に映った陽が、蝋燭の火みたいに揺らめいている。

 綺麗だがどこか物寂しい。望郷心をくすぐる様な感じ。


「またきてねって言われちゃったなぁ」


 良い店だった。

 ご飯も美味しいし値段もお手頃。店員の親子も穏やかで話しやすい。本当にお気に入りになってしまった。


「だからもう行きたくないな」


 あの店は私のお気に入りだから。私だけの思い出だから。

 彼には立ち寄って欲しくはない。


 (————おい)


 そろそろか。今回は長かったな。

 私は肉体とのリンクを切って出ていく。


「——————うっ」


 (めっちゃ腹キツイんだけど…………どんだけ食べたんだよ?)


 オムライスとハンバーグと、ポテサラとナポリタンとオムライスかなぁ?食後にオレンジシャーベットも作って食べたよ。


 (オムライス二回言ってるし。というか食い過ぎだろ…………食べた寿司の皿の内容みたいに言いやがって)


 ごめんごめん。たまになんだからいいじゃん?

 ところでそっちはいい夢見れた?


 (あー、まあな。相変わらずアーサー・コナン・ドイルは天才だ。お前が邦訳版しか読んだ事がないのが残念だよ。いやそれも勿論素晴らしい文章なんだがやはり原作も読んでみたかった)


 だから長めだったのか。写本作りの為だったわけだ。


 (…………久しぶりに読みたくなっただけだよ。折角だから書き留めておくつもりだけどな。もう夕暮れか。閉まる前にノートを買いに行かないと)


 お前は変に律儀なところあるよね。

 もう果たされない約束なのにさ。


 (何の事だよ?俺はこの名作を俺たちの世にも広めて、印税がぽがぽで豊かな老後暮らしを満喫する予定なんだ)


 はいはい。全く素直じゃない教え子だ。



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