協力体制
「お兄ちゃん!見ててね!えーい!やあー!!!」
「すごいすごい!格好いいよリン!」
兄妹が仲良く遊んでいる。
家の書庫に埋もれていた武術書を見つけてから、鍛錬が二人の遊びとなった。
さながら子供が宝の地図を見つけ目を輝かせる様に、私は武術にのめり込んでいった。
「お兄ちゃんもやればいいのに」
「僕はだめだよ。本読んだって分からないし。せめて先生でもいればなぁ。父さん達は知らないって言うし」
この武術が我が家のルーツだったらしいが、何代も前に失伝している。
今思えば子供が目にしていい内容では無かったが、良く言えばおおらかな両親だったから。
「私が教えてあげるよ?」
「リンの教え方は独特だからなぁ。まあいいじゃん。リンが強くなって僕を守ってくれよ」
「うん!私がお兄ちゃんを守るよ!やあーーー!」
守られたのはどちらだったのか。
これは夢だ。最初から分かっていた。
こんな穏やかな感情、
もう夢の中でしか抱けない。
「そろそろ起きろよ。日が暮れちまうぞ」
「――――ツ!」
声を聞き、跳び起きる。
気を失っていたのか?どれほどだ。太陽の位置を見るに然程時間は経っていない。
目の前には倒木に腰を下ろした男が一人。カイリと言ったか。
気を失う前と位置が違う。木陰の下に移動されている。
厚手の布の上。あの男が運んだのか…………やられた、武器は全部外されている。
体が固い。縄の跡と僅かな擦過傷。縛られていた様だ。
「女の体をバラバラにする以外にも色んな趣味を持っているようね」
「女の体ね、俺の目には虎や狼にしか見えないがな」
そんな事より――――、煩わしそうに頭をかきカイリが続ける。
「お前覚えているのか?聞いていたか?会話を。なあ、キューピットさんよ」
「なッ!?」
その一言で全てを悟る。イカれ男の独り言だと思っていた。
でも違った。あれはこの男に向けたメッセージだったのだ。
「死者と会話出来る【ギフト】…………。なるほど、私は死体扱いなのね」
「残念ながら俺の力はそう言ってる。それで?聞きたい事はあるか?勝ったのはお前だ。好きに聞け」
「戯言を……」
何が勝者だ。あんな小細工に気を抜き倒れたのは私だ。
それにコイツは一方的に私から情報を抜ける。
初手で殺しにきたのがその証。もう読まれていると判断する。
油断はできない。
「奴とは友人なのかしら?」
「エアロ・ブラスト」
「カハッ……!」
グワァンと風が唸りわたしの体は木に叩きつけられる。
煽り過ぎたか。今は無表情にこちらを見ているが一瞬の激情の変化は見逃さなかった。
昨日の様子といい芝居が上手だと思ったが、この件に関しては感情を隠せない様だ。
「どうせ生き返るしな。一手通じなくなってもお前を殺す手段は腐るほどある。あまり巫山戯るなよ」
こいつの魔術は異常だ。
切断。昏倒。予備動作のない衝撃。
風使いの筈だがその範疇にない。
火、水、土、風。魔術師が使える術はいずれか一つのはず。
【ギフト】の力が知れた今一層不気味に思える。
「まあいい、奴との関係性か。お前と同じだよ。あの気色悪ぃ仮面を引っ剥がして、顔面の毛穴全部に針をぶっ刺して殺してやるのが目的なのさ」
あまりにも強い殺気……。この男は信用ならないが、この殺意にだけは同調出来る。
「あなたも大切な人を殺されたのね……」
「ああ…………、2回もな」
2回………?2人ってことかしら?
「なら、私達は協力出来ると思うのだけれども」
「へぇ…………」
無表情が崩れ、値踏みする様に口角を上げるカイリ。
仮面はカイリの【ギフト】に興味を持っていた。だが素性までは分からない筈。
なら彼に関わる窓口として私に接触してくる可能性は高い。
仮面の力は未知数だ。【ギフト】を奪う能力。
私は殺される為に奴を探してるわけじゃない。万全の準備をもって必ず殺す。
その為にコイツの強さを利用してやる。
「馬鹿じゃねえわけだ。俺から言い出す手間が省けたな。殺せる俺と手掛かりのお前。せいぜい仲良くやろうじゃねえか」
そう言うと此方に近付き、手を差し伸べてくるカイリ。
貴方が私を吹っ飛ばしたのだけどね。
それに構わず立ち上がり、服に掛かった土や葉っぱをたたき落とす。
そして肩を竦めて手を退こうとする彼の掌を掴む。
「改めて、リンよ。あいつを殺すまでよろしく頼むわ」
「カイリだ」
言葉以上に軽い握手。だが今はこれでいい。
カイリにとって私は喋る手掛かりくらいの認識だろう。
それでは困る。私の唯一性が消えた時どう行動するか読めないからだ。
ならば心を掴むまで。
この異常者の隙間に入れるか分からないが、やれる事は何でもする。
仮面を殺す為ならば。
「今から戻れば夕食には間に合うわね。アクアパレスにもモナドの食事を提供している所があるのよ。食後の蓮茶もおすすめね。奢るわ」
「お前さいこおおおかよおおおお!!!書物でしか読んだ事ないモナド料理をここで味わえるのか!港街万歳!アクアパレス万歳!」
行こう!すぐ帰ろう!!!と急かすカイリに虚をつかれる。
ばんざい……?しかし本当に人格も口調もころころ変わる。
能力の弊害かもしれないが、深く触れる事でも無いだろう。
「にゃあ」
ふと足元を見ると青と翠の鮮やかな仔猫がいる事に気づく。
カイリが昨日大声で話していた猫か。
商人に売るってのは嘘だろうから、ただの連れ合いなのかも。
人間らしいところもあるわね。
(この子、相性がいい)
ん?何か声がした様な…………気のせいか。
気を張り詰め過ぎていたのかも。
さて、あの店も久しぶりね。
この季節のおすすめは何だったかしら。




