友情
こんなもんか
じゃらじゃらと出て来る出て来る暗器の数々。
髪に、肩に、ベルトに、腕に脚に、本当に山盛りに仕込んでやがる。
しかし全身くまなく探したのでこれで安全だ。
(気持ち悪い…………。手付き怪しかったし縛り方も性癖をチラつかせてまじキモい…………)
うるせえ!こちとらてめえと違って命かかってんだよ!
ともかく準備は出来た。
ギフト発動後は無防備になるからな。出来るだけ無力化させてもらう。
さて————、
始めるか。
俺は右手でリンの額に触れる。
触れる箇所に制限は無いがイメージは重要だ。より深く、探る様に…………。
「――――――――――ッ!」
「良いギフトだけどこれは貰えないね。条件に合わない」
「条件とは何でございましょうか?」
酷く薄暗い部屋だ。蝋燭の光源のみが辺りを照らし、壁の色すら分からない。
目の前に二人いる。仮面姿のクソ野郎とローブ姿のクソ野郎。
仮面の野郎は当たり前ながら、ローブの方も深く被っているせいで顔がわからない。
当時のリンは茫然自失と言ったところか。
視線は二人に向けているのに感情が波立たない。
俺の力を使うには良いコンディションだ。
「色々あるけどね。この力は僕が欲しいと渇望する能力にしか使えないんだ。強いギフトだとは思うけど長生きなんかしたくないからなぁ」
ギフトを奪うギフトか。クズに相応しい力だな。
ミサトの記憶の時よりえらく饒舌だ。
ミサトは男だと判断した様だが分からないな。
相変わらず声は虫の羽音の様にぶれており、性別も年齢も掴めない。
「はぁ……、私には魅力的に思いますが」
「じきに分かるさ。……しかし彼女には酷い事をしてしまったな。これだけ痛めつけて発現したのが不死身とは。彼女の人生はこれから辛いものになるだろう。とても詫びきれないよ」
詫びるだと!ふざけやがって!!…………いや落ち着け。興奮したら解像度が下がる。
「と言うともしや……?」
「うん。ギフトってのはね。死の淵に潜ると発現しやすいんだ。それも深ければ深い程強大な力になる。僕はね、見てみたいんだよ。星すら砕く超常の異能を。奇跡を、…………夢見てるんだ。この歳でね」
照れた様な仕草に吐き気がする。
そんな意味不明な理由で俺は殺されたのかッ!ニ回も!
「…………ッ!私などにその様な情報を教えていただき有難う御座います。期待に応えられるよう努めて参ります」
呆然とした様子を誤魔化す様にローブの男が恭しく礼をする。
「ああ、勘違いさせてすまない」
「はい?」
「君に説明したわけじゃ無いんだよ」
奴が手に握ったナイフを落としローブの男を頭頂部から串刺しにする。
仲間割れか?このタイミングでなぜ?
「ほら、不死身でなくて良かっただろう?痛いのが一回で済んだ。…………さて、」
仮面の男が視線を合わせてきた。
「いきなりの事で困惑してるかもしれないね。僕も新しい友との出会いにちょっと緊張しているよ」
ゾクッ――――。
首筋に刃物を押し当てられたかの様な、強烈な焦燥と不安が背筋を走る。
何だ?何を?誰に言っている!?
「これは友人のマーティン君からの贈り物でね。攻撃を受けた時に反応し、その術理を僕に教えてくれるギフトなんだ」
奴はネックレスに付いている冒険者タグを、愛おしそうに撫でる。
「つまり君の力は攻撃と判断されたって事だよ」
なっ————!
その言葉に心臓が跳ねる。
バレたッ!?なんで?どうして!?まずいまずいまずいまずいまずい!
全くの未知の展開だ!俺のギフトは自分の意思で中断出来ない!
こいつからの干渉に対応出来ないッ!
「落ち着いてくれ、名も知らぬ友よ。僕は君にどうこう出来ないし、するつもりもない。君が何者でどんな人間なのかも分からない。この会話も一方通行の悲しいものさ。だけど――――」
――――――ッ!?
「君のギフトは分かるッ!死者の記憶を覗ける力ッ!死者に寄り添う異能ッ!なぁああああんて素敵なんだァアアア!!」
奴の全身から喜悦が迸る。
黒い喜びだ。こいつのあらゆる感情は毒で出来ている。
そう感じる様な悍ましさ。
「嗚呼、君は誰の記憶を見ているんだろう?リンさんかな?それともクリス君かな?リンさんかと思って話しかけてるけどクリス君だったら恥ずかしいね。殺しておいたのは失敗だったなぁ。死体が必要かと思ってつい焦ってしまったよ…………いやしかし僕の死体って事もありえるな。ワクワクしてきたぞぉ〜〜〜〜〜!!」
転がるローブの死体を撫でながら上機嫌に話す仮面。
その為か。その為にローブを殺したのか。
俺の力がどちらを起点に発動したのか分からないから。
「それに僕が自覚出来ていると言う事は、単純な過去視ではありえない。死者に紐付き時を越える力か。物凄いポテンシャルだ!しかしそんな些事はどうでもいい!嗚呼、本当に羨ましいよ。不死身なんて紛い物では無い。本物の死を何度も味わえるなんてッ!!」
――――――は?
何を言ったコイツは今何を言った何を羨ましいだと俺を殺しておいて俺俺俺を殺すを許さないぜっったい許さな許さない刺し殺す焼き殺す斬り殺す締め殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!
「うーん、力が薄れてきたな。対象の感情から大きく乖離すると弱まるみたいだね。ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだけど失言だった。残念だけど今回はこれでお別れの様だ」
目の前がぼやける。霞む。駄目だ……冷静に。少しでも情報を!
「リンさんは必ず助けるから安心してくれ。やっぱり彼女の記憶だと思うんだよね。君と僕を繋ぐ友情のキューピットは。きっと未来で僕と君とを引き合わせてくれる。天使が死体ってのも洒落がきいてるけどね」
待て――――ッ!
「いつかの再会を祈ろう。それではさようなら」
奴の掌が俺の頭を撫で、
度し難い怒りとともに俺の意識は暗転した。




