学園物でよくある展開
喫茶店を出て通りを歩く。
街路樹の枯葉が道に絨毯を作っており、それが寒風に巻かれて宙を舞っている。冬の足音が聞こえる様だな。
ふと空を見上げると、いつしか日が曇天に隠されていた。
雨でも降りそうな雰囲気だ。しまったな、傘を持ってきていない。
「へぇ、貴方細工職人なの?」
「まっ、まだ見習いですっ。本職の方々に比べたらほんと大した事ないんです」
「そんな事言ってるけどマリーの作るアクセサリーは凄いよぉ。ほんとに綺麗なんだからぁ」
喫茶店での何気ない会話から装飾店に行く事になった俺たち。
王都でも有数のお店らしいが、なんとマリーゴールドの下宿先でもあった。
親方兼店長さんが内弟子として住わせつつ、学園の合間に技術を教えているんだとか。
元々は寮住まいだったらしいが、偶然彼女の作品を見た親方さんが是非にと熱烈にスカウト。在学中にお引越しをし、今に至ると。
「なら卒業したら見習いとして修行に専念するわけだ」
「はい。本当は今すぐにでも集中したいんですど師匠が、"この道で身を立てたいならちゃんと卒業しろ。学歴があれば舐められる事もない"と認めてくれなくて…………ってこんな話学園の先生の前で言う事じゃないですよね、すみません」
マリーゴールドの成績が振るわない理由が分かったな。
修行と学園の両立なんて簡単な事ではない。
それでも絶対的に見たら優秀なんだけどな。相対的には今一つだが本校は精鋭校ですので。
「気にしないでくれ。仕事の関係上教師を名乗ってはいるけど期間限定の非常勤だ。学園にチクったりしないさ。年もそう離れてないし、もっと気安く接してくれていいよ」
「先生…………うん、ありがとう」
安心した様に笑うマリーゴールド。いきなりタメ口とは切り替え早いな。
マリーゴールド・ルビリス。
ルビリス商会の次女との情報だがルビリス商会なんて聞いた事がない。地域の中小企業的なポジションだろうか。
ただ親類に貴族等の権力者が多く、そう言った面のトラブルに注意と資料には書かれていた。
「むぅ…………せんせぇはたらしだねぇ」
「そうなのよ。こんなダサい帽子被ってる癖に異常にモテるの。顔だってパッとしないのに」
はぁぁああああ?最高に素敵なお帽子だろうが!
っていうか顔の話は余計じゃい!パッとしないのはワザとなの!あえて印象を薄くしてるの!!
(そんな目立つクソダサな格好しといて印象薄くは無理があるでしょ。特にピースマークのアップリケがついた帽子とかヤバすぎて一生忘れんわ…………)
女どもの辛辣な言葉に俯いていると地面にポツポツと染みが増えてきた。雨か。
「ちょっとぉ、雨とかお化粧くずれちゃぅ————あいす・しるむぅ」
降り掛かる雨が空中で停滞。それらが集まり凍結。あっという間に二つの傘を形作った。
とんでもない高等技術をさらっとやりやがる。
氷を作る事すら普通の水術師には不可能なのに。
「私はせんせぇと入るからぁ。そこのお母さんはマリーを入れてあげてねぇ」
「その渾名はやめて頂戴。礼を言い辛くなるわ。…………貴方、少し寄らせて貰うわよ」
「はっ、はい。ありがとうございます」
ハンカチ越しに傘を持ち、マリーゴールドと前を歩くリン。彼女が濡れない様に傘を寄せてあげている。相変わらずの男振りである。
「せ〜んせぇ!これで独り占めできるねぇ」
俺の腕を取り抱きついてくるモルガナ。やばい。でかい。やわらかい。
両手使って傘はどうしたんだと思ったら、滞空したまま俺たちの歩調に合わせて追従している。器用な奴だな。
「ふふっ、せんせぇどこ見てるのぉ?わたしの事も見てくれないと寂しいなぁ…………」
そう言って胸元の生地を引っ張って中身を見せてくる。
こいつ本当に一週間前まで処女だったの?僕騙されてない?
「お前な、以前言った事を覚えてないのか?」
「大丈夫だよぉ。この雨だしねぇ、聞こえないし見えないよぉ」
確かに雨の勢いは増している。小声で話したら何も聞こえないだろう。
「だから聞きたい事があるんだけどぉ…………あの女は何?」
変わらぬ笑顔のまま変わった声色で尋ねてくるモルガナ。
物凄い力で腕を抱き締めながら俺の目を見つめてくる。怖い。
「…………同じパーティのリーダーだよ。さっきコーヒー飲みながら紹介しただろ?」
「そういう事が聞きたいわけじゃないの分かるよね?恋人なの?」
口調まで変わってます。怖い。いつもの語尾が恋しい。というかやっぱりキャラ作りかい。
「お前に話す義理はあるか?一夜過ごしただけで勘違いするくらいなら同じ学生相手に恋愛するんだな」
「…………マリーの店は結構高いよ。ネックレスを買いたいならあと一枚は必要だね」
「勿論恋人ではないぞ。同じパーティの都合上便利だから一緒に住んではいるが。他に何か聞きたい事はあるか?」
まあ隠す程の事じゃないからな。調べればすぐに分かる話だし。
可愛い教え子の為なら答えてやろう。
っていうかそんなに高いのそのお店…………。そんなお店に知り合いを連れて行こうとするマリーゴールドちゃんも実はやばい奴だったりしない?
「恋人ではないね…………でも寝てるんでしょ?」
「寝てるけど?」
痛えっ!こいつまた引っ掻きやがった!
「はぁ…………。まあそんな人だから私が入り込める余地があるわけだしね。仕方ない。惚れた弱みだなぁ」
「言っておくがお前に気はないぞ。可愛いとは思うがな」
「可愛いと思ってくれてるならいいよ。絶対振り向かせるし。私なしじゃ生きていけないくらい良くしてあげる」
舌舐めずりをしながら笑うモルガナ。そのまま俺の手を持ち上げ、引っ掻き傷に舌を這わせてきた。
中々上手な舌使いだ。
でも先生が評価したい点は、舐めながらもさり気なく手の中に金貨を握らせてくる所。ここがポイント高いです。
しかし"振り向かせる"ねぇ。無駄だと思うが。
金くれれば付き合ってやるって言っているんだからそれでいいじゃないか。
愛とか恋とかに熱を上げる奴の気持ちはわからない。
まあモルガナは使える奴だし悪い話ではないな。
刺されない程度に期待を刺激させてやろう。
(過去に本当に刺されてるからウケる)
刺されてねえよ!あの時はちゃんと避けただろ!?そんな事実はありませーーーん!
「カイリ」
リンが振り返りこちらを呼ぶ。聞かれちゃってたかな?
通り雨だったのか雨は上がり、日が差してきている。
目の前には二階建ての大きな建物。ここが目的地か。
「着いたみたいだけど様子がおかしいわ」
「変なんです。カーテン掛かってて、閉店の立札も…………そんな予定ないのに」
「それなのに人の声はする。微かだけど言い争う様なね」
それを聞き、改めて建物の外観を観察する。
看板にはリトルジェム装飾店と書かれている。
花の名前を冠してるのか。
名前の割に大きな店だ。400平米以上はあるか。王都有数の名に恥じない建物だな。
建物正面には大きな窓がいくつもあるが、マリーゴールドのいう通りカーテンが掛かっており中の様子は伺えない。
カーテンの端からランプの様な光が漏れているので誰かは居そうだ。
…………面倒な予感しかしないな。
「————ウェーブガイド・ドローイング」
店と俺を繋ぐ空気のトンネルを作る。別名マジカル糸電話。これで店内の状況を調べよう。
…………いいか?静かにしていろよ?仲間が奥の金庫からお宝かっぱらって俺たちが逃げるまでのほんの数分だ。たったそれだけ大人しくしてれば家に帰れるんだ。
…………はいぃぃぃ!分かったから殺さないでえええ!
…………黙れって言ったのがわからねえのか!
…………おいやめろ。怒鳴ったら逆効果だぞ。くそ!ここが室内でなければ私の炎でお前らなぞ
…………残念だったなぁ。お前一人逃げるだけなら可能だっただろうに損な性格だ。
あーーーこれってあれでしょ?覆面被って武器突き付けてお金とか色々拝借する奴。つまりその…………強盗事件じゃん?
そうこう考えてるうちにマリーゴールドが扉の前へ。まずいな。
「開かない…………鍵が掛かってる?師匠ー!ミレーヌさん!誰かいるんでしょ!?開けますよー!」
…………ッ!入ってきたら取り押さえろ。
…………了解。
指を鳴らし魔術を解除する。
面倒だが仕方がないな。
精々高級店に恩を売るとするか。
「んぐッ!」
「せんせぇ!?」
俺はマリーゴールドを抱き寄せて口を抑える。
「しっ。……声を出さない様に」
「………………ッ」
こくりと頷くマリーゴールド。
聞き分けの良い子は好きだよ。
彼女の手から鍵を奪いリンに投げ渡す。
「店内にE3以上。H2以上」
リンは無言で頷き、俺と入れ替わりに扉の前まで進んだ。
敵勢力三人以上。人質二人以上。
敵アジトに乗り込む際の合図だ。
「…………」
察したモルガナが傘から大剣に氷の形状を変える。
俺はお気に入りの帽子を脱いでマリーゴールドに被せ下がらせる。
リンは上着を脱ぎ、スカートを切り裂いた。
それぞれが戦闘態勢に。
「行け」
俺の声に応じてリンが扉を開ける。
あーあ、折角の休日なのになぁ。




