自己紹介バトル
「さて!訓練場に来てもらったわけだけど、今日はここで自己紹介をしてもらうよ」
この学校には部活動などはない。このグラウンド染みた広場は文字通り訓練の為だけの空間だ。
障害物となる岩や金属の敷いてある床。水術師の為に大きな水路まで用意されている。
今ここにいるのは俺とアンジュ。初回という事で付き添いに来たジェイス主任。そして生徒21名。わいわいがやがやしている。
今から俺たちの初授業だ。
「…………自己紹介やるのに訓練場までくる必要あるのかよ」
ボソッと怠そうに愚痴る赤髪の生徒。
長い後髪を二つのおさげにしているのが特徴的。あとは生意気そうな吊り目。初対面の時のアンジュみたいな印象だ。
地術師のサイカ君だったかな?
座学はそれなりだが実技は芳しくない。そして若干反抗的…………資料通りで笑えるな。作った奴は見る目あるぜ。
「黙って」
「痛ッ…………カハッ!……テメェ!何しやがる……ってモルガナ!?」
モルガナがサイカ君の尻尾を引っ張りながら膝裏を蹴り飛ばした。
サイカ君ダーーーーーーーーウン!!
「せんせぇが困っちゃうでしょぉ。真面目にしないと潰すよぉ?」
「ああ!?不真面目の代表みてぇなお前に…………」
「殺すよぉ?」
「ッ!…………わーったよ。すんません先生。続けて下さい」
激ヤバな殺気を受けて萎縮するサイカ君。立ち上がって頭を下げてくれた。
いやあれ本気だな。本気で殺す気だった。
思えば出会って初日のせんせぇの頭に氷槍ぶち込もうとするヤバ星人だった。
あ!今日は友引だから何人か殺しとくか!みたいな発想になってもなんら不思議ではない。
生徒は静まり返っている。先程の賑やかさが嘘の様。
「いやいいんだ。君の意見はもっともだからね。分かり難い言い方をしてしまったな。自己紹介というのは比喩だ。今から先生と模擬戦をして貰う」
自己紹介といいつつ事前に三人ずつの七組のグループに分けて整列させている。番号まで振ってな。
鈍い奴でなければただの自己紹介ではないと分かる筈だ。つまりサイカ君は残念枠。
「えええええええぇ!またせんせぇと戦えるのぉ!?」
「ちょっとモモ静かにっ!…………ってまた?」
桃色娘が余計な事を口走ろうとしている。
いや戦った事くらいはいいけどその後の事まで口を滑らされても困るな。遮ろう。
「はい!マリーゴールド君の言う通りだ。ちょっと静かにして切り替えていこう!三人組を組まされたのは分かるね?つまりスリーマンセルでの実戦想定訓練という事だ。仮想敵はもちろん先生。一組五分間制限の模擬戦。ルールは特に無いが殺傷力の強過ぎる技は使用しない様に。とは言っても線引きが難しいから危険だと思ったら僕が止める。以後は使わない様にね。…………では一番の組は前へ。他のみんなは後方に離れて」
「よーしぃ、リベンジがんばるぞぉ」
「チッ、モルガナと一緒なら俺がいる意味ねえだろうがよ…………」
「また?先生とモモの間に何が…………いや集中しないと!」
一組目はモルガナ、サイカ、マリーゴールド。
属性が地に偏ってるが仕方がない。単純に資料上での強さを見て分けさせて貰った。
モルガナが強過ぎるからげっぽの二人が必然的にセットになった感じ。
力が均等になる様に分けた訳では無い。
誰と組ませてもモルガナが圧倒的過ぎて他二人の評価が難しくなるからな。実力的に弱いサイカとマリーゴールドに犠牲になって貰っただけ。
二人には言えない理由だがね。これも実力主義の結果だ。
「ではお願いします!アンジェリーナ先生!」
「うん。よろしくお願いします」
今日の主役はアンジュ先生だ。昨日に比べて大分緊張が解けている様子。まだガチガチで使えなかったら釣具ごと海に沈めている所だ。
「えええええぇ!せんせぇじゃないのぉ?」
「僕は斥候やサポートがメインだからね。戦闘はアンジュ先生ほど得意ではないんだ(大嘘)」
「…………心にも無い事を」
「…………うそつきせんせぇだぁ」
そこ!静かに!!
というか致死的攻撃は俺が止めるってさっき説明しただろがい。
そう言う判断は俺の方が得意だからな。何も楽をしたかったわけじゃない。そんな気持ちは少ししかない。
「では10数えたら合図をする。良い自己紹介になる事を信じているよ」
距離をとり向かい合うアンジュとモルガナ達。
スリーマンセルと言っとるのに陣形も取らず横に並んで構えてるだけ。モルガナに至っては構えてすらいなくスカートのポケットに手を突っ込んでいる。
「はぁ…………せんせぇじゃないならつまんないやぁ。ただの銀級じゃ満足出来なくなっちゃったなぁ」
「モモ!失礼でしょ!」
「はぁ…………適当に流すか」
全く緊張感がないな。
モルガナは言うまでもなく他二人も単なる授業みたいに思っている印象だ。
だがそいつはそこまで甘くはないぞ。
「…………君はカイリと戦ったそうだね」
「あれぇ?せんせぇ話しちゃったのぉ?…………はっずかしいなぁ、わたしの手の内バレバレな感じぃ?」
「そんな事教えてくれる様な優しい奴じゃないよ。…………ただね、こう言われたよ。"手加減しなくていいぞ"ってね」
「2……1……はじめっ!」
「はぁ〜!?」
「なんだこれッ!」
「泥ッ!?」
俺の合図とともに生徒達の立っている地面が泥化する。
アンジュは開始前からこっそり地中から魔力を馴染ませ準備をしていた様だ。目視では分からなかっただろう。
こいつはこういう奴だ。
真面目そうな顔して不意打ち上等なんでもあり。
だから気が合うのかもしれないな。
「ストーン・バレット」
「ガッ!」
「キャッ!」
泥に気を取られた隙に飛んできた石礫で二人はダウン。お疲れ様でした。
アンジュは余程モルガナを警戒しているのか遊びがない。
残念だが評価すら出来ないな。仕方がない事だが。
「マリー!!…………わたしを狙わないって舐めてるのぉ?泥なんて半分こっちの領域なんだよぉ———あいん・ふりーれんっ!」
泥化した地面の水分を凍らせるモルガナ。
そのまま氷上を高速で滑りアンジュに近づき飛び蹴りを放つ。
「お顔の傷を増やしてあげるぅ!」
「それは勘弁願いたいな————マグネティック・エンチャント」
「えっ?きゃあああああ!!」
突然足先から地面に落下したモルガナ。
何が起こったか分からない様子で混乱している。
「なにぃ?なんでぇ?靴が地面にくっついて…………!?」
「…………珍しい靴をしているなと思ったよ。いや驚いた。滑る為の靴だったのか。だから凍らせ易いように鉄製だったんだね?」
モルガナの靴は大部分が鉄で出来ていた。高速移動の為、蹴りの威力を上げる為、色々理由はあるだろうがそんな靴フィジカル戦士しか履けねえよ。
だがそこに目をつけられたな。
磁力を集めて靴を地面に縫い付けた様だ。
これではモルガナは身動きが取れない。
急いで靴を脱ごうとするも、その隙を見逃すアンジュではない。
「それじゃあこれで終わりだ」
「うっ」
腹部に踏み蹴り。とても教師の絵面ではないが決着。
アンジュの勝利である。
「——————そこまで。アンジェリーナ先生の勝利!」
「うおおおおおおおおすげえええええ!」
「モルガナに勝った?嘘だろ!?」
「秒殺だよ秒殺!強過ぎるよぉ!!」
「馬鹿な…………この教師、一体何者…………?」
あれ?なんかおかしいな?
アンジュちゃんがチヤホヤされてる…………。
褒められてお顔もホヤホヤしてるし…………。
そこは僕の席じゃない?確かにガキどもと戦うの面倒で押し付けちゃったけどさぁ。
これじゃ本当に主人公君じゃん?
はーーーつまんな。帰ろっと。
(人間がちっさ過ぎる…………)




