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連戦


「はぁ………………」

 

 俺は浴槽に浸かり、深くため息を吐きながら伸びをする。極楽極楽。

 ただいま入浴中である。しかも貸切の!

 公園での戦闘で汗だくぐちゃぐちゃになってしまった俺とモルガナ。

 彼女の提案でエステサロンに行く事となった。

 なんでも"パパの出資した店だから融通が効く"という事らしい。

 その通りに多大な歓待を受け、無料で入浴中なのである。お金の力ってすごい。

 汚れたまま寮には帰れなかったから助かる。大衆浴場があいてる時間ではなかったからな。

 浴槽には花弁や薬草、果実が浮いておりとても鮮やかだ。

 体を温めたりリラックスさせる効果があるらしい。

 あまり実感は湧かないが、見た目は綺麗だし良い香りもする。良い物であるのは間違いないな。


「せーんせぇ」


 身体を洗い終わったモルガナが浴槽に入り抱きついてくる。

 やばい。でかい。やわらかい。

 時間をずらすには夜も遅い。そもそもお嬢様のオマケの身なので仕方なく混浴をしています。仕方なくね。


「このハーブとかぁ、からだを()()にさせる効果があるらしいよぉ?せんせぇはどぅ?わたしは熱くなってきちゃったなぁ……」


 そう言い薬草の葉先で胸をくすぐってくる。

 君はたった今浸かってきたばかりだけどね?

 この底なしのピンク頭にはこれ以上付き合いきれません。


「お前なぁ……。さっき言った事覚えてるか?」


「勿論だよぉ。"学生と付き合うつもりはない。これは俺が教員だからじゃないぞ。そもそも俺は冒険者だ。学生連れて金級なんか目指せないだろうが!"でしょぉ?ストイックでかっこいぃ〜〜〜惚れ直しちゃぅ!」


 ぐえっ。強く締めてくんなこの馬鹿力が。

 なんで俺の周りの女はフィジカル神に愛されたフィジカル戦士しかおらんの?その力ぼくにもわけてよ。

 しかし言ってる事は一字一句合ってる。記憶力も良い様だ。学園評価一位は伊達ではないな。


「わかればいい。学園では引っ付いてくんなよ?俺は真面目な先生なんだからな」


「うん!我慢するぅ!…………だからぁ、たまには愛してねぇ?」


「金貨をくれたらな」


「やったぁ!」


 なんだ素直な良い子じゃないか。

 一カ月間教員をやる上でモルガナを懐柔出来たのはラッキーだったかもな。怪我の功名って奴か。

 明日から授業が始まるし色々聞いてみよう。


「なぁ、他の生徒の話を聞きたいんだけど」


「他の生徒ぉ?よく知らないんだよねぇ。みんな弱っちぃから興味なーぃ」


 まあお前に比べたらそうだろうな。

 単純な能力だけならアンジュより強そうだ。戦えばアンジュが勝つだろうが。


「知ってる限りでいいよ。マリーゴールドって子とは仲良さそうだったじゃん」


「マリーのことぉ?マリーは強くないんだけどねぇ。地術の腕が良くて綺麗なアクセサリーとか作れるよぉ。そういうお店を開きたいんだってぇ」


 それそれそういうのが聞きたかった。

 資料は出自と能力評価くらいしか書かれていなかったからな。


「"危なっかしいから"って付いてくるんだよねぇ。うざかったからお金渡して消えてって言ったんだけどぉ、すんごい怒って突き返してきたんだよねぇ。それからも付いてくるけど今はあんまりうざくなぃ」


 本当に仲は良い様だな。性格は真面目で世話焼きって所か。こいつとの関係はバレない様にしないとな。


「マリーには言うなよ。それで他の生徒は?」


「はぁい。他かぁ、…………うーん。じゅ……

 じゅび?じゅり…………じゅじゅじゅ」


「ジュリオか?」


「そぅ!そいつぅ!頭でっかちのジュリオ!」


 ジュリオ。部屋を暖めた時にぶつぶつ言ってた奴だ。


「あいつはちょっとだけ強いよぉ。すぐ勝負勝負言ってくる火術師だねぇ。私は基本水使いだから完封だけどぉ。…………せんせぇの青い火は水より強かったなぁ。なんでぇ?」


 この話だけだと上昇志向なのかプライドが高いのかわからないな。あまり興味がないみたいだしこれ以上聞いても無駄だろう。


「さあ?水より火の方が強いからじゃないか?」


「真面目に教えてよぉ。生徒を誤魔化す悪いせんせぇにはこうだぁ!こちょこちょこちょ〜〜〜!」


「おいっ!やめ…………そこ弱いんだって!」


 子供みたいな表現で際どいところ刺激しやがる。こっちも天才かよ。

 はぁ…………ゆっくり浸かってられないみたいだし上がるか。






 モルガナと別れ夜道を歩く。今は日付が変わる前くらいか。

 "送ってくれないのぉ?"とか言ってきたが、この時間に一緒にいられる所を見られたら面倒だしな。

 風呂行く前も微妙な時間だったけど。

 そもそも送りなんて必要なんでしょうか?疲れは見えたがあの強さなら熊の巣で歩き回っても安全だろう。

 段々と学園が見えてくる。生徒数に比べてかなり大きい。3倍人数がいても問題ないくらいだ。

 昔はもっと生徒がいたのかね。精鋭校ではなかったのかもしれない。

 さて、学園を前にして右折し小道に入る。しばらく進んだ先で我が家に到着。寮といっても共同生活するような建物ではない。本当に一室あるかと言うくらいの小さい家。それが四つ離れて並んでいる。外には共同のトイレ。公共の水汲み場も歩いてすぐだ。一カ月暮らしていくにはまずまず上等だね。

 ここは厳密には教員寮ではない。元々客人の一時的な寝泊まり用の家だったらしい。

 実際の教員寮は学生寮と併設されている為、トラブル防止の為に非常勤の俺たちはこちらに住まう事になった。

 まあ昨年に最大級のトラブルもあったしな。

 ん?窓からランプの光が漏れている。まだ起きているのか。面倒だな。アンジュ先生はちゃんと言い訳出来たでしょうか。

 うん、鍵も開いてる。そこは閉めとけよとも思うがそのまま扉を開ける。


「ただいま」


「おかえりなさい。遅かったわね、()()


「…………にゃあ」


 扉を開けるとリンさんが出迎えて下さいました。

 胸にボディ様(ミサトの猫)を抱いている。

 口角は上がっているが目は笑っていない。偽物の笑顔である。こわい。

 てかずっと立ってないよね?立って数時間扉を睨んでたとかじゃないよね?


「ああ、アンジュから聞いてただろ?言伝を頼んでおいたはずだが」


 言い訳の内容は指定していない。嘘や誤魔化しが苦手なあいつだ。細かく言った方がかえってボロが出ると考えた。


「ええ、授業の事で主任さんに呼び出されたって聞いたわ。こんなに遅くまでかかるなんて思わなかったけど」


 おーナイス。及第点以上の言い訳だ。

 アンジュにしては頑張ったじゃないか。


「そうなんだ。前年にカサンドラが暴れたのは聞いたろ?その件で強く念を押されたのと、再発がない様に対処方法をシステム化した所の説明だな。あれは生徒側にも問題があったから」


「…………今のは嘘。アンジュは"カイリなら一人で釣りに行った"って言ってたわ」


 おまえなああああああ!釣り?なんで釣りなの???言い訳が下手にも程があるだろ!!!

 というか初っ端カマかけかい!疑われ過ぎて涙が出ちゃう。


 (この子ずっとお前の悪口言いながら私の事撫でてたからね)


 とても聞きたくない情報ありがとう!


「…………学園側は俺を代表と考えているみたいでな。俺だけ呼ばれたんだけど、あまりアンジュのプライドを刺激したくなかったんだ。それで思わず誤魔化したんだけど苦しい言い訳だったな。はは、本当に苦しかった」


「それならどうして石鹸の匂いがするの?」


「浴場に寄ったからな。実は帰り際に生徒に絡まれたんだよ…………実力を見せろってな。そいつが結構強くてね、下手に傷付ける訳にもいかないから手加減してたんだが、そのせいで揉み合いになった。汚れたまま帰りたくなかったから浴場を探して入ってきたんだ。まあ、途中で食事もしてきたからな。それも遅くなった理由だ」


「首筋のキスマークはナニ?」


「キスマーク?何を言ってるんだお前は」


「そうね。首筋には何もついていないわ」


 危ねぇ反応する所だった!こいつ更にカマをかけてきやがった!!!

 というか恋人でも何でもないのに気を使うのは疲れるな。

 でもリンは便利だしお金たくさん持ってる。何よりこいつの存在は復讐に必要だ。

 ご機嫌はとっておかないとな。


「なんだよ、他の女と会ってないか不安になったのか?俺達はそういう関係では無かったはずだよな?」


「それはっ…………そうね。ごめんなさい、変な事を考えていたわ。貴方も疲れているのにね。少し頭を冷やしてくるわ」


 猫を床に下ろし、俺とすれ違う様に扉に向かうリン。


「待て」


「ぁ…………」


 後ろから抱き締めてやる。嫉妬に狂われるのも厄介だが、程々には依存して貰わないと困るからな。


「確かに俺たちは恋人ではない。俺はな、お前と()()()()()()()()()()()。それで幸せになってしまったらこの胸の復讐心がどうなるのか分からないからだ。お前なら分かるよな?」


「ッ!…………ええ」


「俺はずっと孤独だった。復讐しか生きる道が無かったから。だがお前に会えた。同じ道を歩むお前とな。…………嬉しかったよ。一緒の気持ちで偽りなく共に居られる関係は。だからな…………時折どうしようもなくお前が()()()()()


「…………んっ」


 抱き締める力を強め耳元で囁いてやる。こうされるのは好きだろう?

 お前と生活を共にして半年以上経つ。身も心も操作するのはもはや容易い。


「確かに俺とお前は恋人ではない。なってはいけないと思う。でも俺の全てを曝け出せるのはお前だけなんだ。だからさ…………たまには依存しても良いか?」


「…………うん」


 腕を解くと自然にリンが振り返る。

 目を潤ませ頬を紅潮させている。ちらりとベッドに視線を向け、その後恥ずかしがる様に顔を伏せた。

 はーーー。明日早いのにな。


(じゃあ私は散歩してくるから。ちゃんと換気しとけよ猿)


 へいへい、いつもすみませんね。



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