夜の個別指導
噴水からの氷槍ミサイル。
薄暗いし不意打ちならば当たったかもしれない。
だがこちらはお前の能力を知ってるからな。
水術師なら噴水の水なんて使って当たり前。予想の範疇の攻撃。避けるのは容易い。
回避行動に移ろうとしたその時、
「————ぶれいくぅ」
「チッ!」
気の抜けた声と共に氷槍が砕け散弾と化した。
両腕で頭を守りながら転がり避ける。泥臭いが痛いよりマシだ。
すぐに起き上がるがモルガナの姿が見えない。
代わりに見えるのは湾曲した氷の滑走路。——————上か
「やぁ!」
「ぐっ……」
空中からの踵落としをなんとか腕でガードする。
靴の底が氷でコーティングされている。摩擦を減らして滑り跳んだのか。
モルガナは着地後、まるでスケートの様に地面を滑り噴水の付近へ。
気付けば周りの地面が凍結している。
「中々のお転婆娘だな。パンツ見えてたぞ」
「可愛かったでしょぉ?」
「悪いが暗くて柄まで見えなかったな」
「私に勝ったら明るい所でじっくり見せてあげるよぉ。中身もねぇ」
そう言うと氷で椅子を作り、座るモルガナ。脚を露骨に組み挑発的だ。
さて、攻撃される理由も分からんがどうしようかね。言葉通りの意味なら単純だが。
倒すだけなら簡単だが一応生徒だしな。
お金もくれるって言うし、出来るだけこいつが満足出来る様に相手をしてやろうか。
俺は懐からマッチを出し火を付ける。
何時でも何処でもマイマッチを携帯しておくのがスモーカーの流儀。いや煙草吸わないけど。
「…………なにぃ?マッチなんかで私の氷を溶かすつもりぃ?」
呆れた様子のモルガナだがそのまさかだ。
「——————トーチ・テンペスト」
酸素濃縮。供給。回転。完全燃焼の炎で出来た蒼い大蛇が地面を走り氷を溶かしてゆく。
「うそぉ!火術師ぃ!?」
蛇はそのまま噴水へ向かい鎌首を持ち上げ入水。
水は瞬時に消失。水蒸気爆発を起こし噴水を吹き飛ばした。
「ッ!?きゃああああああああああっ!」
勘が良いな。爆発の理屈なんて分からんだろうにしっかり回避行動に入っていた。避けきれなかった様だが。
吹っ飛ばされた先でコロコロと転がり起き上がるモルガナ。受身の技術もイイネ。
「…………嘘ついてたんだぁ。風魔術師だとか言っちゃってさぁ。だから教室も暖められたのぉ?」
「火術師なら出来ると思うのか?疑うのは勝手だが風には無限の可能性があるんだよ」
「…………へぇ。なら私も試してみようかなぁ。無限の可能性って奴ぅ」
モルガナの戦意は全然消えていない様だ。やろうと思えば今ので殺せた事は理解できたと思うが。水源だって破壊したのにな。
しかも今の口振り…………。
「こういうのはどうかなぁ?…………てやぁ!」
ポケットに手を突っ込んだかと思ったらこちらに何かを投合してきた。
手離剣か?だが投手の才能はないな。ノーコン過ぎる。
「ぶりーぜ・がいすたぁ」
突如として吹いた風に巻かれ手離剣の軌道が変わる。ストライクコースじゃねぇか!
再び転がって避ける俺。
あーみっともねぇ。みっともねぇけど生きてるって最高。
地面に刺さった刃を見ると風の影響を受けやすい構造をしている。風を操って軌道を変えたのか。
しかし風術ね。使える魔術は一人一種類。そのルールを破れるという事はだ。
「それがお前の【ギフト】なのか」
「せいかい。せんせぇは鋭いねぇ」
ぱちぱちと嬉しそうに手を叩くモルガナ。
生徒資料に【ギフト】持ちだなんて書いてなかったんですけどぉ!?
さっきの水術も今の風術も魔力を使った様子はあった。
つまり術そのものが【ギフト】の能力ではない。
考えられるのはルールの破壊か。いろんな魔術使えちゃうわけだ。手札の多い奴め。
「こういう事も出来るんだよぉ——————あいぜん・むれーねぇ」
モルガナが街灯に触れると途端にぐにゃぐにゃと曲がりだし、身を細くしながら蛇の様に俺に向かってくる。
地術も完備してるってわけだ!
「くっ」
「うーん。すばしっこいなぁ」
距離を離すほど蛇は細くなり視認し辛くなる。威力は落ちるがその方が厄介だ。
現在はもはや糸状の何かだ。蛇というか鉄製のレーザーの様にも見える。
「ならもう一本追加ぁ」
別の街灯に触れ鉄線が二つに増える。
これ以上は避けるのも怠いな。
仕方ない。お金持ちみたいだしこいつに弁償して貰おう。
「——————エアロ・ブラスト」
「魔術ぅ!?」
俺の十八番の圧縮空気の炸裂。
いきなりの魔術の発動に身構えるモルガナだが狙いはお前ではない。この生意気なガキにはもっと楽しい方法でワカラセてやらないとな。
「えっ!暗いぃ!?」
狙ったのは街灯の親機だ。子機の灯りが全て消え、辺りは暗闇に包まれる。
これで詰みだ。
「闇討ちするつもりぃ?考えが足んないよせんせぇ!ここまで魔術が使えて火だけ使えないと思ぅ?——————りひと・ぶりっくぅ——ああああああああああ!!!」
突然右腕に火を付けもがき始めるモルガナ。
デカい松明だな。
照明を落とすと同時にあいつの周囲の酸素濃度を爆上げしておいた。
水風地ときて火を使えない事はないだろうと踏んだ。
なんだか承認欲求が強そうだし、使う機会を与えてやればすぐに披露すると予想したが的中。
しかしトーチ・テンペストが良いヒントになったと思うんだがなぁ。
俺の前では火気厳禁って奴だ。
これも学びだね。
「あつっ!あついあついあついいい!!みず!みずはどこ!?みずっ!みずがないいいぃ!!!」
さてこのままだと死んでしまうな。
先生自ら消火してやるか。そうすれば間に合うだろう。
「——————オキシア・ヴォイド」
炎の周辺に無酸素のドームを作り消火させる。
やはり風には無限の可能性があるなぁ。
「消えっ…………ッ!偉大なる神よ…………我らに罪を犯す者を我らがゆるすごとく、我らの罪をもゆるしたまえ」
火が消えた瞬間、祈りを捧げるモルガナ。
それに呼応する様に腕が光り火傷が癒えていく。間に合って良かったね。
資料通り法術のレベルも高い様だ。
しかし松明の次は電灯とかお前の右腕は忙しいな。
俺が感心していると、ちかちかと街灯が点滅し、一斉に灯りだす。
衝撃を受けて一時的にシャットダウンしただけか。これで弁償しなくて済むな。モルガナが。
灯りのおかげで彼女の腕がよく見える。服は半袖になったが火傷もない。本当に良い腕してる。洒落ではないが。
「よぉ、文字通りの火遊びって奴だな」
「せんせぇ。…………わたしは火を使わされたんだねぇ」
流石に負けた事は理解しているらしい。理屈まではわからないだろうが。
モルガナは膝をつき肩で息をしている。相当な疲労だな。
まあ無理もないか。魔術使いまくりで右腕が火事になった挙句セルフ法術で治療。疲れて当然である。顔も紅く熱っぽい表情。発熱もしたかな。
「今夜の事は授業の一貫って事で黙っておいてやる。だから分かってるよな?約束通り俺に渡すものがあるんじゃないか?」
「…………うん。うん。わかってるよぉせんせぇ…………」
目を潤ませながらも応じるモルガナ。
なんだ素直な良い子じゃないか。
金貨沢山くれるみたいだし弱味までプレゼントしてくれた。
今後もそこをくすぐれば良い感じに教員生活を送れるだろう。
(教え子の腕燃やして金たかって弱味を握るとかさすクズ)
略すな!正当防衛だからいいの!
「よし。じゃあ取り敢えずこの場で貰えるだけ貰おうか」
「…………この場って…………ほんきぃ?」
「ああ、自己紹介の時でも言っていただろう?とにかく今だ。今すぐ欲しいんだ!」
「自己紹介ぃ?…………あっ!」
そうそう。せんせぇはお金が大好きなんだぁ。
俺は金貨を催促すべく膝をついているモルガナに手を伸ばす。
もったい振りやがって。さっさと渡せクソガキが!
何のためにここまで来たと思って——————
「せんせぇ好きぃ!!!」
「は?」
俺の手を取ったかと思うといきなり抱き締めてくるモルガナ。やばい。でかい。やわらかい。
「そんなにわたしの事魅力的な女性だと思ってくれてるんだねぇ。わたしもせんせぇのこと好きだよぉ!!こんなに強い男の人はじめてぇ!好きぃ、大好きぃ〜〜〜!!」
え?魅力的?あー自己紹介の時言っちゃった気がする。確かに君のバストは魅力的だけど方便だよ。社交辞令。
いやでも君力強すぎない?踵落としの時も思ったけどフィジカル鬼じゃない?全属性魔術使えて法術使えて力強くてお金持っててお胸がデカいとか君は一体何を持ち得ないんだい?
ヤバ…………押し倒される。
「せんせぇえ!恥ずかしいけどぉ、せんせぇが望むならここであげちゃうねぇ…………私のハジメテ!」
「は?いや金貨を…………金貨いっぱいって…………」
(じゃあ私は彼の所に行ってるから。ごゆっくり)
罵倒すらなく去られるのが辛い。
とんでもない馬鹿力でホールドされていて逃げられない。
いや流石にお外は無理お外は無理お外は無理!
「いっぱい愛してねぇ、せんせぇ!ちゅーーーーー!」
せめて灯りが消えたままなら良かったのに…………。




