初授業
「さっきのはどうやったんですか!?」
「気温操作の事かい?あれは先生のとっておきだからね。もう少し仲良くなったら教えてあげよう(大嘘)」
「先生って銀級なのに若いですよね。何歳なんですか?」
「もうすぐ20になるな。銀級になれたのは仲間に恵まれたからだね。いつも感謝している(大嘘)」
「…………彼女いますかぁ?」
「今まで出来た事すらないよ。恥ずかしながら魅力的な女性と話すとアガってしまってね…………今も緊張しているよ(大嘘)」
本日は顔合わせという事で、朝礼の余った時間を利用して生徒とコミュニケーションをとっている。
予想通りの質問攻めである。
初対面の掴みがバッチリだったからな。印象は良い様だ。
まあこんな時間は適当に流すくらいでいい。
新任教師にする質問なんてたかが知れてる。
あらかじめ考えていた答えを聞いてきた生徒に合わせて話すだけ。ここまで何の意外性もないぜ。
「…………せんせぇお金好きぃ?」
「好きです(真実)」
意外な質問出ちゃった…………!
尋ねてきたのは先程窓を開けてくれた桃色の子だ。
腰まで伸ばした桃色の長髪と大きな垂れ目が特徴的。あの時も目についたから窓開けお願いしたんだった。
つーか連投での質問だな。ルールがあるわけではないが。
「私いっぱいあるよぉ…………どうかなぁ?」
俺の手を握り上目遣いにこちらを覗いてくる桃色。
手の中に冷たい感触…………これ金貨かっ!?
俺の肩くらいしかない小柄な身長の癖に、よく見るとすんごい場合による大きさをしている。ナニとは言わないが二つの場合が寄り過ぎている。
(おい変態淫行教師!)
あまり俺をみくびるなよ。ちょめちょめするのは嫌いではないが流石に生活捨ててまで溺れる気はない。
…………でもぉ、この子お金いっぱいあるって言ってるしぃ。
どうしよ?好きになってきちゃったかも…………。
おてての中の金貨も僕のこと好きだって言ってる気がする…………。
「こら!モモッ!」
「………………いたぃ」
はっ!危なく誘惑される所だった。
恐るべし魔術学園!こんな危険な罠を仕掛けているとはな。
「すみません。この子強そうな男性を見るといつもこうなんです」
「…………強い種欲しいしぃ」
「だから種とか言わないの!」
「…………いたぁ。マリーがまたぶったぁ」
桃色金貨にチョップを繰り返す女子。
濃紺のショートボブに気の強そうな眼。体型含めて前述の子とは対照的な印象だ。
モモとマリーね、覚えておこう。渾名かもしれんが。
(早速粉かけてる…………これが《夜のウツボカズラ》の本領か)
ただでさえ不名誉な二つ名を進化させないで!
「よし!顔合わせはここまでとする。両先生の授業は明日から設定している。これから一ヶ月間は実戦重点のカリキュラムを組ませてもらった。この機会を無駄にせずよく学ばせて頂くように!」
アンジュと共に一礼し退室する。
今日はこいつと共に明日のリハーサルだ。今見てきた顔と合わせて生徒のパーソナルデータの再確認もしないとな。
アンジュは未だに緊張が抜けていないようだ。手と足が同時に前に出ている。
彼女の現在の格好は一般的な黒のスカートスーツだ。
ちなみに俺も同じ様な男物のスーツを着ている。
学生服も同じような色と造りだし意識しているのかもな。"由緒正しい"とかジェイス君言ってたし厳格な感じに。
しかしこうして見るとすらっとした美人さんだ。
初対面の時に男と勘違いした事が不思議でならない。
それだけに左頬の古傷が残念だな。
カサンドラキックの痕は消えなかったのね…………。
そうこうしてるうちに目的地についた。
教育資料室。ここが一ヶ月間の俺たちの城だ。
「はああああ………………」
大きく溜息をつき椅子に座るアンジュ。
胸元のボタンを外し椅子に背を預け大きく反り返っている。だらしがないな。
「そんなんで大丈夫か?緊張し過ぎだろ」
「逆にどうして君はそんなに落ち着いているんだ。なんだよあの魔術。相変わらずずるいなぁ」
あの決闘の後ちょくちょく顔を合わせたり、飯食ったりと繰り返し、最初の頃のギスギス感はさっぱり消えていた。
元々実力の無い俺がリンに寄生していると思い込んだ事からの突っ掛かりだったらしく、決闘で力を見せてからは嘘の様に穏かになった。
ちなみにあの日以来一度も男言葉を聞いていない。
余程罵倒とキックが堪えたのだろう…………。
「お前だって何かみせてやれば良かったのに」
「簡単に晒せる程手札は無いからさー。というかそっちの手札多すぎ。どうなってんだよ、ほんと」
「そろそろ打ち止めなんで困ってるんだ。種が割れた奇術師の気分さ」
「よく言うよ」
軽口を交わしながら椅子に座り生徒の資料を確認する。
事前にチェックはしておいたが顔と名前は一致させないとな。会ってみて印象が変わった奴もいるし。
俺たちが担当するのは卒業を控えた三年のクラスのみ。
そこまで人数も多くないので把握するのも難しくはない。
一学年につき一クラス。合計三つのクラス。60人余りがアムスネツィア魔術学園の生徒数だ。
首都の学園としては少なく思えるかも知れないが、精鋭校故の人数だ。
完全実力主義での生徒募集。入学した生徒は苗字を名乗る事を許されない。
家の力を使えず自身の能力のみで身を処する事が求められる。
まあ名乗れないだけだ。金持ち程学習環境は揃っているから入学者には富裕層が多い。当然顔見知りはいるし派閥もある。
ジェイス君が釘を指していたのもそういう理由からだろう。
俺が派手にパフォーマンスをしたのも舐められたら困るからだ。
あくまで本校は実力主義。家の力で生きてきたボンボンには甘い言葉だ。
否応なしに力を見せ付けられたら認めるしかないのさ。
実力者を認めるのも実力だなんてぬるい考えだがね。
ペラペラとページを捲り目当ての資料に辿り着いた。
"モルガナ・モレッティ"
やっぱりモモは渾名か。貿易系の商会の三女ね。どうやら本当にお金持ちらしい。
授業に意欲は見られないが成績は優秀。教員にとっては扱いにくそうだ。
へぇ、水術使いか。氷まで使えると。そのレベルなら学園の授業は退屈だろうな。
「…………」
アンジュがこちらをじっと見ている。
おいおい初日にアガアガした上にそんなだと困るぞ同僚。
「お前も確認しとけよ。教育ってのは単に知ってる事教えるって仕事じゃねえんだ。生徒の顔くらいは覚えとけ」
「ああ…………そうする。でも意外だな。君がここまで熱心だなんて」
「知り合いの親が教師だったんだ。それの影響かもな。死ぬ寸前まで生徒の事ばかり考えてる困った奴だったが」
(………………)
まあ仕事として任されたのならそれなりにやらないとね。
ゲーニッツの顔を汚すわけにもいかない。
ただでさえ前年度に汚すどころか血塗れにしてるんだからな!
無言で生徒の情報を確認する俺たち。
確認は必須としても後で授業内容も詰めて置きたいな。
「じゃあ予定通りに明日は能力含めた自己紹介って事でいいな?」
「うん。どこまで出来るのか分からないと教えられないしな。生徒たちも私達の力を知らない事には素直に話を聞いてくれないだろう」
話もまとまり夕暮れ時。
初日に自由に出来る時間を貰えたのはありがたい。
本当にこういった受け入れに慣れている様だ。
「んじゃま、明日からよろしく。俺は用事があるからここでばいばいな」
「ん、わかった。彼女は知ってるのか?」
「秘密の用事だよ。だから上手く言い訳しといてくれ」
「…………君ねぇ。もう私からとやかくは言わないけどさ。寮にまで連れて来てるんだからきちんとしなよ」
「あいあい。現在目下疑われてるのはお前だから大丈夫だろ」
「意外に嫉妬深いんだな…………彼女。決闘した時はこんな関係になるなんて夢にも思わなかったなぁ」
俺も思わなかったなぁ。
アンジュちゃんは第一印象に比べてずっと話せるし教養もある。会話していて楽だし楽しい。顔も良い。
実力も年齢にしては高いし伸び代もある。
友達コレクションにするにはもってこいだ。ちなみにため年でした。
(なに?セがつく友達の話?)
アンジュちゃんはおうちが怖そうだからナイナイ。
絶対お金持ちの貴族とかだよこの子。ごはんの食べ方とか美し過ぎるもん。
まあ実力面では信用できるし、磁力操作は唯一無二だ。
仲良くしていて損はないな。
「んじゃまた明日」
「うん、また明日。…………嘘とか苦手なんだよなぁ。彼女を誤魔化せるだろうか」
こんな感じで簡単な頼み事くらいは聞いてくれる。
末長くお付き合いしていきたいね。
日が落ちるのもだいぶ早くなった。
吹き付ける風が肌を刺す。冬も間近だな。
早めに済ませてちゃっちゃと帰りたい。
俺はスーツのポケットから金貨を取り出す。
"放課後、ピエール・ドゥ・ロンサール公園にて。金貨を沢山持って待っています"
こんな熱いラブレターを貰った日には行かないわけにはならんでしょ?
小娘一人満足させて金貨ガポガポとかちょろ過ぎ。
(さっきまでの教師談義はなんだったの?このクソロリコンが)
えー?僕はオールラウンダーなだけですし?
それに結構遊んでそうだからな。いざと言う時の言い逃れも簡単よ。三女らしいしな。
(本当にクズ過ぎる…………。初めて会った時は女の子と見紛うくらい華奢な男の子だったのになー)
そういう君も作り物と見紛うくらい華奢な骨してましたよ。
到着する時には日は落ち切っていた。
ピエール・ドゥ・ロンサール公園。かなり広いな。
薔薇の名を冠してはいるが、植物などは植っておらず広場や運動場のような印象を覚える。目立った特徴は噴水くらいか。
宵の口にも関わらず辺りの様子が見えるのは所々設置されている魔道具が照らしているから。公園中央に魔道具の親機があり、そこから子機である街灯に力を送り照らしている様だ。流石は首都だな。設備も素晴らしい。
公園の中には誰もいない。
一人を除いて。
「…………せんせぇ。やっときたねぇ、待ちくたびれちゃったよぉ。かれこれ5時間くらぃ?」
「放課後と書いてあった筈だけどね。しかしサボるのは感心しないな」
寝そべっていたベンチから起き上がりこちらを向くモルガナ。
こんな寒空に若い女子が一人とか危険極まりないだろ。
何故か公園には誰もいないが。
「きょろきょろしてぇ、誰もいないの不思議ぃ?…………ここはねぇ、先週殺人事件が起きたんだよぉ。犯人は捕まったんだけどねぇ。だから人気はないと思ったのぉ」
「…………外でする趣味はないんだけどな。でも君は随分とやる気の様だ」
前方からガンガン殺気のラブコールを感じる。
隠すつもりも全くない様だ。
はぁ…………ちょめちょめして大金ゲットするだけの予定だったのにな。
(お前ってお金が絡むとIQ下がるよね?)
うるせえ!…………自覚はある。
「うふふぅ、銀級冒険者とやる機会なんてあまりないからなぁ。…………それじゃあせんせぇの種が私のナカに相応しいかどうかぁ。思いっきり調べさせてねぇ!!」
その刹那、噴水から伸び出た氷槍が一直線に俺に襲い掛かってきた。




