幼馴染とのひととき
「…………うまぁ」
現在クローディアを連れてお昼ご飯の真っ最中。
場所は初日にも訪れていた"オストリカ"。メニューも同じ子羊のローストを頼んだ。
「それ好きだよねぇ…………。家が牧羊してたのに美味しく食べられるの?」
「何年前の話してるんだっての。そもそも羊飼ってても美味いもんは美味いわ」
脂身の少なくキメの細かい赤身肉は、こちらの予想に反して驚く程柔らかく口の中で溶けた。
羊特有のミルクを思わせる甘さが、牡蠣出汁のソースと溶け合い濃厚な風味を作り出している。海のミルクと言われるだけあって相性が良いな。
適当に振られたスパイスとハーブも料理の味わいを邪魔する事なく、肉の旨味を引き立たせるアクセントになっている。
リピーターが多いのも頷ける程の一品だ。
「海上ギルドでの話はどうだったの?」
「あー途中で面倒になってリンに任せて帰ったんだが…………」
「何でも押し付けて可哀想でしょ!…………恋人なのに」
えー?私たち恋人でしたっけ?違う世界のリンさんとカイリくんの話じゃないのぉ?
「あーうるせえな。大まかな話は終わったからいいんだよ。リーダーはリンだしな」
「その大まかな話を聞きたいんだけど」
面倒だがクローディアは今回の件の主役みたいな物だからな。
知る限りの話はしてやろう。
「…………アイザック商会の人間が殺されたのは知っての通りだがな、屋敷の人間もあの夜全員殺されていた。死体は焼けていたそうだがな、頭蓋や頸部の骨が砕けていたんだと。殴り殺された可能性が高いそうだ」
「…………マキシと呼ばれていた男だね。"手筈通りに"か。目的は証拠の隠滅?でもこれから死ぬつもりだった人がそんな無駄な命令するかな?」
「さあな。イカレの頭ん中なんて考えるだけ無駄だろ」
本当に何が手筈通りなのか。派手に殺しやがって。
今度あったら頭の中解剖して覗いてやる。
「全員黒焦げだから定かではないが執事の死体も見つからなかったらしい。今回の聴取はここらがメインだったな」
「犯人一味の生き残りだ。野放しには出来ないね」
首謀者とされたヘンリーは裁かれる事なく死んだ。
アムスネツィアとしても面子が大事だ。殴るところを周りに見せる必要がある。生き残りを血眼になって探すだろう。ご苦労な事だ。国からお尻を叩かれる海上ギルドには同情するけどね。
「けどとりあえずは解決だ。二人には本当にたすけてもらっちゃったよぉ。何かお礼をしないとね」
「なら新刊出来たら送ってくれよ。毒をクラウディ先生がどう料理するかは楽しみだ。勿論金も貰うが」
先生の著書は本当に素晴らしい。初めて読んだ時は何故もっと早く出会えなかったと嘆いた程だ。
今回その人間性を知れたおかげで、深く作品を味わえている様な気がする。
「本当にファンなんだねぇ……ちょっと感激。私の作品のどんな所が好きなの?」
「やはり人間模様かな。死について考えさせられる点も良い。読んでてかなり影響受けたよ」
"人生とはどう死ぬかだ"
作中のセリフだが読んでいて衝撃が走った。
【ギフト】によって今まで色んな死を味わってきた。
自身の最期は果たしてどんな物になるのだろうか。
「じゃあ"蔵書の火葬"は結構刺さったんじゃない?」
「あれは良かったな。叔父の虐待と偏愛の狭間に…………」
「——————ッ!」
突然口元を抑えて大きな目をさらに開くクローディア。
あーまずっちゃったな。
そういや彼は"蔵書の火葬"は読んで無かったんだっけ?
興奮してつい口が滑っちゃったな。失敗失敗。
ここんところ暇で先生の作品を読み漁ってたから仕方ない。
「…………あなたウィルじゃない。誰なの!?ウィルは無事なのッ!?」
「まあ落ち着きなって。周りの客に迷惑だよ?」
まずカイリくんの心配をする所が本当に優しい。
どろどろとした作風からギャップあり過ぎて好き。
やっぱり私も君みたいになりたかったなぁ。
「ッ!!!!なんでっ!?なんで誰もいないの!?」
ようやく気付いたか。周囲の違和感が目に入らない程張り詰めてたんだね。ちょっとだけ罪悪感。
やっぱり最初から疑われてたかな?
「途中から貸切にして貰ったからねぇ。ほら、お金を沢山握らせれば許してくれるって奴だよ」
「ッ!?」
大金チラつかせたからって急に店を閉める飲食店もどうかと思うけどねぇ。
まあ元々隠し切るつもりもなかった。
素の彼女と幼馴染として会話して見たかっただけだ。
それも叶わないみたいだし潮時だね。
「——————セバスちゃん」
「承知致しました」
「ぁ…………」
背後からセバスちゃんが毒を染み込ませた布でディアちゃんの口を塞ぐ。
抵抗する暇もなく彼女は意識を失った。
「我ながら結構良い演技だと思ったんだけどなー。なんでバレたんだろ?」
「完璧な演技をしたとしてお嬢様の醜悪なオーラは隠せなかったのでしょう」
「完璧な演技ッ!そこまで褒められると照れちゃうなぁ」
ディアちゃんを背に乗せる。いわゆるおんぶって奴。
眠っちゃった幼馴染をおんぶする男の子。
いいよね〜〜〜こんなシーン。
さて、仮宿まで少し距離がある。
頑張って運ぶゾ!




