二人芝居
状況を整理しよう。前方にはアレスとヘンリー。アレスはヘンリーを守る様に位置取っている。構えすら見せず戦いの傾向が読めない。魔力を消せる【ギフト】持ち。しかしこれは確定情報ではない。
次に俺の後方にいるヤク中の男。リンが俺の背を守る形で抑えている。恐らく蹴り技主体だが能力は不明。ぶつぶつと独り喋りながら構えている。
最後にクローディア。俺とリンの側で拳を構えているが完全に素人。人質に取られたら面倒だな。リンの動きが鈍りそうだ。
さて整理終了。
まずはアレスの能力の真偽からだな。ブラフかもしれんしもう一度撃って確かめてみよう。
「なぁ、辞めにしないか?カクテルが気になるなら作ってやるからさ。芥子の事は黙っておいてやるし」
「ウィル!?」
「貴方ッ!?」
二方向からの大声に耳鳴りがしそう。
まー黙ってろや。戦いを辞めたいのは100%本音だが。
「へぇ…………。益々気に入っちゃうなぁ、そう言う所。でも先生とリンさんは見逃してくれる様な顔はしていないね」
「そこは説得するさ。まあ俺が————ッ」
発言途中で袖に忍ばせた手離剣をヘンリーに投げる。
アンジェリーナの真似事だが有効な策だ。
そして同時に魔力操作。これも封じられるかな?
「————はっ!」
アレスが強く目を見開いた瞬間に空気中の魔力は霧散。手離剣もきちんとキャッチしている。ダメねこれ。部が悪いわ。
俺は踵を返し入口に向かいダッシュする。
「へ?」
「ちょっ!?」
困惑の声を背に全力で走る。
悪いがリスクとリターンが噛み合っていない。
リンは不死身だしまあなんとかなるだろう。
クローディアは残念だがさよならだ。ばいばい。
「——————申し訳ありませんが命令でして」
「なっ!?」
————速い!走力もそうだが今眼前に迫っている蹴りが速過ぎる!避けられないッ!?
「ぎぃっ!………………かはっ!」
前頭部に衝撃。首を守りながら逆方向に跳びダメージケアを図る。
しかしとても逃し切れない!痛い!!!
跳んだ先で床に背中を打ち付けそうになるもなんとか転がり受け身を取る、
目がチカチカする。こいつ初手で殺しに来やがった…………。
「カイリッ!?………………くっ!」
「そのまま余所見しててくれれば早く終わったのに」
ヤク中男の蹴りをリンがすれすれで回避する。
向こうも開戦のご様子だ。援軍は見込めないな。
「…………ヘンリーさんは"男は殺すな"って言っていたみたいだが?」
「そうだぞ!?殺されたら困るッ!やり過ぎだ!!!」
「失礼。足が滑ってしまいました。しかしその命令はマキシに下された物なのでノーカンでは?」
「〜〜〜〜〜っ!いっつも私の言う事聞かないんだからッ!」
殺し合いの場でコメディみたいな会話をしやがる。あのヤク中はマキシ君っていうのね。
ヘンリー君の言う事が確かなら殺されはしない様だ。
しかし死ぬより恐ろしい目に遭うのは想像に難くないのでどの道同じだな。
つーかあったまいてぇ。ちょっとタイムしてくんないかな?会話だ。会話で場を繋ごう。そうしよう。
「何やら主従関係に不満がある様だな。あんた程の男がなんであのイカレに付き従っているんだ?」
「イカレって…………照れる」
「…………たった今主従を辞めたくなりましたな」
口ではそう言いつつもこちらへの警戒を解いていない。
出来た執事だな全く。
「セバスちゃんは不治の病なんだ。私の作る毒、いや薬がないとすぐに死んでしまうんだよ」
「…………さらに辞めたくなりましたな」
プライバシーって大事だよね!
不治の病ねぇ、とてもそうとは思えないが。
「不思議ですか?私の様な老人が死に恐怖するなど」
何も不思議ではないがジロジロ見過ぎだな。曲解されてしまった様だ。
「いや悪い。えらく丈夫な病人だと思ってな」
「こう見えても主様の薬がなければ三日と待たず骸と化す身なのですよ。そして私は死にたくない。まだ生きていたい」
モノクル越しの眼に強い意志を感じる。老人ほど死は身近にある。すぐ側にある恐怖に抗える奴もいない。諦めるか、そうでないかだ。
こいつは後者なんだろうな。
「さて時間稼ぎはこれくらいでよろしいでしょうか?」
何処から出したのか体を半身にして短剣を構えるアレス。
あらあらバレてましたか。
だがお陰様で痛みも引いて頭も冷静になった。
魔術はダメ。体術でも敵わない。リンはマキシ君の相手で忙しいしクローディアは戦力外。逃げる事も降参する事も出来ません。ヘンリーを人質にしてワンチャン考えたけどそんな隙は与えてくれない。詰みですな。
「はぁ…………」
俺は目を瞑って体の力を抜く。
こうなってしまっては仕方がないだろう。
「なんだ?降参かい?うーん別にいいけどちょっと残念だなぁ」
ヘンリーのつまらなそうな声が聞こえる。
降参ね、確かにそう見えるかもしれない。
だがそんな事は認められない。
仮面野郎をこの手で殺すのだ。
こんなところで躓いてたまるか!
「————————ミサト。憑依しろ」
(———————勝手な奴)
「がっ…………!」
視界が点滅し思考もぐちゃぐちゃ。
数秒前に私が何をしていたのかも分からなくなる。
待て俺は誰だ?流川海里…………違うカイリだ。カイリカイリカイリミサトカイリミサトミサトミサトカイリ。どっちだ?
あー本当気持ち悪い。こんな男の体に入るなんてセクハラの極みだ煩いこっちの台詞だ変な所触るんじゃねえぞは?死ねようるせえお前が死ねお前が死ねお前がお前がお前がお前がお前が
「「あーーーーーサイアク」」
「隙だらけですよ」
アレスが短剣を手に突進してくる。この執事は本当に俺を殺す事しか頭に無いらしい。
だけど大丈夫。私の後ろには井戸があるから。
「————吹っ飛べ」
「ッ!?」
井戸から噴き出した地下水がくの字に曲がりアレスに襲いかかった。
「ぐっ………………!」
間一髪体を投げ出し避けるアレス。ころころと転がり起き上がる。回避行動でぶつけたのか額に赤みあり。お揃いだね。
「初撃の不意打ち外すとかセンス無さ過ぎだろ。クローディア以下じゃねえか?」
「うるさい黙れ!難しいんだよこれ!ていうかお前が普段から貸してくれればもっと上手くやれたのに!氷作る時ばかり利用して勝手な奴!!!」
煩いなその時にドリンク飲ませてやってるんだからウィンウィンやろがい一口で追い出す癖に何がウィンウィンだ馬鹿!
「ここで【ギフト】使うんだぁ!でもその独り言どういう事?」
「………………………………」
「カイ…………リ?」
皆さん困惑の様子。今回は肉体の使用権イーブンの完全憑依だからな。口調がおかしくて申し訳ないが辞めない。頭の中でカイリと会話すると頭おかしくなるから。
というか長く同調してるとどうなるか分からない。
早く決着をつけよう。
井戸があって助かった。
水場の近くなら私の【ギフト】は無敵だ。




