作戦会議
「いや怪しいでしょ。毒に詳し過ぎ。犯人確定よ」
「リンちゃん決めつけは良くないよ!…………怪しいけど」
「んー話が面白かったから無罪かな」
俺の冗談に向けられる四つの白い眼。
ひどい!君達の方が聴き入ってたじゃんか!
あの後も講談が続いた。どれも興味深い話だったが当初の目的もある。程々に切り上げて父親であるアイザックについて質問した。
あまり父親に関心が無かったのか本人はよく知らない様子で、執事であるアレスに確認しながらの返答となった。
嘘や誤魔化しの雰囲気は無かったが芝居かもしれない。
役者の才能はありそうだからな。
そして俺たちは今ヘンリー邸の来客用の部屋にいる。午後から用事がある様で彼は出掛けていったが。
"まだ話し足りないので泊まっていくのはどうか?"そう誘われ、怪しみながらも俺たちはそれに応じた。
リンとクローディア。俺は一人。そういう組み合わせで二部屋借りている。今は俺の部屋に集まり会議中というわけだ。
しかし犯人だとしたら脇が甘過ぎる。一体どういうつもりなのか?
本当に無実なのか?それとも探られても痛くないという自信か。はたまた親の罪に気がつかなかっただけという可能性もある。
それにしても毒について語り過ぎだが。
俺から見ても黒寄りである。
というかぶっちゃけるとだ。
あるんだよなぁ地下室。
この屋敷に入ってからずっと床下から空気の流れを感じる。下に大きな空間がある証だ。たぶんめちゃデカい。
おまけに入口はこの部屋だ。淀んだ気が異常に多く下から漏れ出している。恐らく扉はここ、ベッド側面の床下。
俺が気体を知覚できるからこそ気付いた様な物だがな。
そんな部屋に部外者を置くんだから脇が甘過ぎるという事だ。
見た目にはまるで分からない。叩いてみたら僅かに他と違う音がしたくらい。
絡繰仕掛けだろうが調べてみても開閉方法が全く分からなかった。
屋敷に秘密の部屋があるのは珍しい事では無い。だが広さを考えるに普通の地下室ではない。
入り口も複数ありそうだ。森の目隠しを考えると外にもあるかもな。
「何か見つかったの?ウィル?」
見過ぎたか。面倒な事になっても嫌なのでとぼける事にする。
「いや事件の事を考えていた。どんな毒を使えば馬車を崖から落とせるのかと思ってな。ヘンリーに聞いて見れば良かった」
「それは直球過ぎるよぉ…………」
直球って君が言うのぉ?
なんか聞けば教えてくれそうな感じあったけどな。
「それは謎よね。【ギフト】で操られた可能性って話だけど、相手が毒に拘っているのならそれにも毒を使いそうだわ」
俺もそう思う。なんとなく美学めいたものを感じるからな。
そういう毒はなんかないんですか?解説のミサトさん?
(知るわけないだろ…………。女子高生だったんだぞ私は)
わけないだろってプラズマやダウンバーストの仕組みを詳細に知ってる方が女学生としてはおかしいと思うんだけどなぁ…………。おかげで助かっておりますが。
(…………はぁ。距離感や認知機能を狂わせる毒キノコとかがあった気はするけどね。この世界にあるかは分からないよ。しかもそういうのって個人差あるしそんなに上手くいくかな?)
知ってんじゃんか。さすがジョシコーセー。
動植物は向こうとほぼ同じだしあるんじゃないですかね。
「物の距離間や認知機能を狂わせる毒キノコの話を聞いた事がある。それに類する毒かもな」
「へぇ、冒険者としての知識って奴?今度よく聞かせてよー」
「貴方って結構博学よね」
尊敬の目線が気持ちいいぜ。もっと褒めてくれて構わんよ?お小遣いくれたらもっと色々話してあげようか?
(情けな……人の褌で悦に浸ってる…………)
「ところで何か気付いたの?ベッドに視線がいっていたけど」
「ああ、そろそろお昼寝の時間だという事に気付いた」
「そこに地下室の入口があるのかな?」
「え?」
誤魔化せませんでした。リンならいけるのになぁ。
というか気付くの君?いや目視で気付くような物ではない。またカマ掛けか?
「別にウィルにカマ掛けしたつもりはないよ。地下室の存在は疑ってたんだ。山雀がいた道に馬車の跡があったでしょ?あれ途中で途切れてたからさぁ。あそこの近くに入口があったのかなって思ってた。それなら屋敷の部屋にも通じていた方が便利だよね」
「本当に探偵みたいね…………」
そういうのもカマ掛けっていうと思うの。人の心読みやがって。
本当に油断のならない奴だな。
油断のならない枠1のリンは感心した様にポワッとしている。まあ君は武力担当だからね。
「その通り。地下への扉はあるな。開け方なんて皆目分からんが。それでどうする?」
「まずは開け方を調べてみようか。話はそれからだね。」
開け方が先って入る気満々じゃん…………。
結論からいうと開閉方法は見つかりませんでした。
「何もないわね…………本当に扉なの?」
「空洞があるのは音で確認しただろ?何かがある可能性は高い」
俺は確信しているがふんわりとした返しになってしまう。能力の事は無駄に話したくはないからな。
「仕掛けがこの部屋にあるとも限らないしね。そもそも扉自体が魔道具の可能性もあるよ」
魔道具というのは【ギフト】能力者によって生み出されたアイテムの総称だが割愛。要は科学を介さない不可思議アイテムみたいなもんだ。
「まあ手詰まりだな。壊して入るわけにもいかないだろ」
「いや壊すよ。壊して入って調べる」
「はぁ?」
「ちょっ」
いきなり何言い出してるのこの野蛮人。
「私の独断だからね。ウィル達は単なる護衛で暴走する私について来ざるを得なかった。こういう筋書きでいこう」
「いやいこうって犯罪だぞ。屋敷壊して部屋に侵入とか洒落にならんわ」
「やめましょう。絶対捕まるわ…………牢屋って怖いのよ…………?」
頭のおかしい探偵にビビりまくるリン。
いや牢屋にビビり過ぎだろ。君の過去に何があったの…………?
「相手は商人だからね。お金沢山握らせれば許してくれると思う。紹介状もあるしね。話を大きくはしてこないでしょ」
私お金持ちだからさーと薄い胸を張るクローディア。
いや例えそうなってもゲーニッツの顔を汚す事になるだろうが。捕まるより余程こええよ。
「それにここに来てからずっとある違和感がある。お金払ってごめんなさいだなんて和やかな結末にはならないよ。勘だけどね」
「違和感って…………?」
「確証がない事は言えないよ。リンちゃん顔に出やすそうだからさっ」
「…………失礼ね」
クローディアの冗談染みた返しに膨れ面で返すリンちゃん。君が何言っても説得力ないよね。
それはそうとして違和感ねぇ。
「まあ言いたい事はわかったが今やる必要あるのか?準備と計画建てて慎重にやるべきだろ」
「馬車の跡をみると相当に往来が激しかったみたいだよね。多分一週間大急ぎで支度したんだろうなぁ。これ以上時間はかけられないよ」
こちらの提案は梨の礫か。
まあ俺もそう思うけどさ。なんとか心変わりさせたかったが無理らしい。頑固者め。
「名前を上げたいんでしょ?私についてきたら凶悪犯確保の名誉をあげるよ。あとお金」
思わずリンの方を見る。そっぽを向きながら下手くそな口笛を演奏中。
お前本当にどこまで話したの?
はぁ————————。
「仕方がない。何かあってその文才が失われたら世界の損失だ。お金も勿論貰うが」
「ありがとうウィル!賛成してくれるって期待してたっ!」
まあ間違いだったら全部クローディアのせいにすればいい。こいつが暴走して侵入した。止められなかったが悪戯しない様に見張ってましたってな。ここまで付き合わせたんだ。さっきも言ってたし口裏くらい合わせるだろう。
そして黒だったとしても問題ない。
地下室なんて誰が相手でも瞬殺出来るボーナスステージ。気体を操れる俺にとって有利すぎる。
「そこは"幼馴染だから心配"とかいう所じゃないの?カイリらしいけど」
「俺の過去に馴染み深いものなんてないからなぁ」
「そういう所は昔のまんまだねぇ。変わってなくて安心するべきか寂しむべきか迷うところ」
一瞬リンが悲痛な表情を見せるが、クローディアの発言を聞いて緩む。
この二人相性いいかもな。
「よし決まり!行動を起こすのは人の動きの少ない夜中にしよう。音は響くかもしれないけどそれは何とかなるよね?」
消音魔術の事も当然覚えている様だ。抜け目が無いな。
しかし今日は夜更かしかぁ。
陰鬱な気持ちになりながら俺はベッドに向かい体を投げる。
「じゃあ本番は夜だな。俺はお昼寝の時間だからお前らは部屋に戻れよ」
「それ本当の話だったんだ…………」
すやぁ。




