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漸く邂逅


「…………大きな家ばかりね」


「ここらは富裕層の居住エリアだからな」


 見飽きたように嘆息するリン。

 俺たちは現在ヘンリー君のおうちに向かって歩いている。

 場所はアクアパレス南に位置するお金持ちランドだ。

 資料漁ったり観光したり……色々したり。

 一週間はあっという間に過ぎた。


「今までお金持ちの街は結構見てきたけど、この一帯は特に独特だねぇ。こう……ユニークな家が多いというか」


 アクアパレスの金持ちには成金が多い。あとは更生したマフィアとか。普通の感性を持つ方々も勿論いるが、そういう変な家は悪目立ちするものだ。

 見てみろよ。あの家とか屋根から本人(推定)の像が生えてる。伸ばした指が取れてるけど壊れたのか原作再現なのかわかりません。指詰めはマフィアのステータスだからな。


 

「…………大きいわね」


「…………でっかいねぇ」


 そうしてヘンリー邸が見えてきた。

 確かに広大な敷地だ。縄張りを主張するように背の高く無機質な塀が囲んでいる。

 塀の向こうは木々が茂っていてよく見えない。

 隠し事をするには最適の屋敷といった印象。それはまあ決め付けか。


 そのまま正門に近付く。

 門の前に一人、男が立っているのが見える。

 痩せ型だが長身。白髪頭のオールバックに右目にモノクル。それで燕尾服までシュタッと着こなしていて、誰がどう見ても執事って感じ。


「失礼致します。私は執事のアレスと申します。貴方様はクラウディ・ウィリアムズ様でお間違い無いでしょうか?」


 執事が片手を胸に添え、目線はそのままに一礼。クローディアに尋ねる。


「はい。私がクラウディです。二人は私の護衛でして」


「お目に掛かれて光栄に御座います。主人から案内を仰せつかっております。眩しいほどの陽気で御座いますが、もう少々辛抱くださいませ」


 再度アレスが礼をし門を通る。門の内側には男が二人。どちらも強面で堅気とは呼べない雰囲気。門番か。


「ボディチェックはしなくていいのかい?」


「主から礼を失するなと言われております。それに女性に無作法は行えませんので」


 振り返り一言。リンに一瞬視線を向けまた背を向け歩き始める。

 安全確認と失礼は別の問題だと思うがな。

 しかし()()()()()()()()()()()()のか。

 見る限り普通の執事だが所作がおかしい。

 執事は主の顔の様な物だ。客人の前では気を張るのが普通じゃないか?

 こいつは逆に脱力している。何があっても反応できる様に?

 さっきの礼だって目線を下げなかった。

 常在戦場。少なくともこの執事は戦いを知っている。


「……………行きましょう」


 リンも気付いたのか先頭を歩く。自分の役割を理解しているな。

 リンに続いて歩く。流石に広い。屋敷まで大分距離がある。

 

「私ちょっと疲れてきたかも…………いざとなったらおんぶしてね」


「私がするからその時はすぐに言って頂戴」


 小声で話されたクローディアの冗談に秒で口を挟むリン。

 露骨な反応にクローディアも苦笑している。

 というか屋敷まで遠いだの疲れるだの言うのも失礼にあたらんかね。

 木々の間の道を歩く。歩き易いし、馬車一台は余裕で通れる広さがある。現に車輪と蹄の跡を見つけた。

 周りの木は背が高くて葉も多い。緑色のどんぐりが葉の隙間から顔を出している。アラカシの木か。

にーにーと鳴き声が聞こえる。面白い声だ。鳥かな?


 (この声は山雀だね。たぶん木に着く虫を食べに寄ってきたんだ)


 自動で開くミサト図鑑。科学関係ではないのに詳しいな。


 (お父さんの趣味だったから。よく付き合わされて歩かされた。どんぐりは山雀の好物だから秋になったらもっと騒がしくなるよ)


 そうですか。枝に留まる小鳥を発見。ふーん。こいつが山雀か。思えば捕まえて食った事あるな。小骨が多くまずかった記憶しかないが。ミサトパパもよく趣味にした物だ。


 (野鳥観察だよ!発想が異世界過ぎるわ)


 だって異世界だもん。

 くだらない事を話してるうちに山雀が近くに降りてきた。

 まあ観察に足る可愛さはあるな。


「見て見て!小鳥がいる!お腹の色オレンジだよ。可愛いねぇ!」


「本当。何の鳥だったかしら……?」


「山雀らしいぞ」


「らしい?山雀って言うんだ。初めて見たよ」


「ここらじゃ珍しくないけどな」


 今から大量虐殺したかもしれない奴に合うのに呑気な空気だな。

 まあゲーニッツの紹介の上でここに来ているんだ。

 派手な事にはならないと思うが…………やはり前方の男の存在が気にかかる。

 当然ながら殺気など欠片もない。

 だが一定のラインより上にいる奴らは殺気なんて微塵も漏らさない。気付いたら殺してるなんてあるある。アベルなんかはその典型だな。

 だから殺気を感じた方が安心できるくらいだ。まあ性格にもよるがな。

 ミニチュアの森を抜けると屋敷が見えてきた。

 思ったより小さい。他の家屋に比べれば勿論でかいが敷地の広さを考えると控えめな印象だ。


「………………はぁ」


 アレスが溜息を吐き立ち止まる。

 執事として完璧な応対であった男のこの反応。

 意外な気持ちで表情を確認すると眉間に皺を寄せ目には呆れの色。


「…………………………おーーーい」


 困惑していると屋敷の方から声がする。

 確認すると扉の前で大きく手を振る男が一人。


「——————————————はぁ」


 目の前で大きく二回目の溜息を吐く男が一人。


「…………失礼致しました」

 

 アレスは立ち止まった足を再び動かし屋敷に進む。

 追従すると声の大きさに比例して男の姿が見えてくる。

 季節に合わない大袖の赤いガウン。

 肌に密着した群青色のタイツ。

 ぱっつんと揃えられた前髪が特徴的なおかっぱ頭。

 どうみても成金。ロンゾなんぞ目ではない成金オブ成金。

 その割に体型はそこそこに鍛えられており、意外にもだらしなさは無い。

 屋敷の前に着くと男はニコニコと嬉しそうに目を輝かせている。

 

「ようこそおいで下さいました!私がこの屋敷の主、ヘンリー・ミラーです!!!」


「どっ、どうもお招き頂き有難うございます…………」


 予想以上のデカい声にクローディアが押されている。

 流石は商人とデカい声を褒めるべきか来客対応を諌めるべきか迷うところだ。まあどちらも無しだが。


「おお…………!君が例のッ!?」


「はぁ?」


「え?」


 いきなり俺の両肩に手を乗せ鼻息を荒くするミラー氏。

 え?どゆこと?


「…………主様。クラウディ先生はこちらの女性で御座います」


「ん?…………ああっ!そうだったな!いや失礼。噂の先生がこんな可憐な女性だとは思わず勘違いしてしまったよ!」


「いえ…………お気になさらずに。良くある事ですから」


 普段の快活な様子が吹き飛んでいる先生。

 ドン引きしているご様子。

 というかクラウディ先生が女性なのはファンなら知っている筈だが。

 鼻息荒くする程近づく様な奴が知らんのか?

 まあ本だけ読んで作者に興味が湧かないタイプもいるからな。

 勘違いと言いつつも熱視線を感じるのが相当に気持ち悪いが。


「…………」


 すっと無言で俺の前に立つリン。

 ちょっと護衛対象間違えてませんかね?

 君にまでそう言う対応されると怖くなっちゃうじゃん?俺に男色趣味は無いんだからさぁ。


「改めてようこそ、クラウディ先生。ささっ、今日は日差しが強い。中に入って早速お茶にしよう!」


 クローディアにそう言いつつも綺麗なウィンクを俺に決めるヘンリー。

 せめてウィンクは下手くそであって欲しかった。

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