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事件考察


「探偵…………?本当に?」


「うん!」


「食べカスついてるけど……?」


「食べカスついてるけど名探偵!」


「えー」


 やりとりを見るにリンには全く信じられていない様だな。

 まあおそらく半分は冗談だろうけど。


「《曇空の名探偵》は"殺人貴婦人"に登場する探偵の異名だ。本気にするなよ」


「おっと読者がいたんだった。失敗失敗」


 頭を掻きながらにへらと笑うクローディア。

 こいつどこまで本気なのか。少なくとも10年前に書物に齧り付いていた少女とは同一視出来ないな。


「だが"殺人貴婦人"は物語と呼ぶには臨場感が行き過ぎている。何より()()がつまらな過ぎた。…………あれはノンフィクション小説だったんじゃないか?」


「へぇ…………。君の方が余程探偵に向いてそうだね、ウィル」


 布巾で口元を拭いながら格好つけるクローディア。

 お前本当に格好悪いよ。


「その通りだよ。()()()()()()()から観察癖がついてしまってさ。おかげで殺人鬼の正体を暴く羽目になっちゃったんだ。まあ現実はドラマティックにはいかなかったけどね。書き留める上で盛っても良かったけど歪めたくは無かったから」


 "殺人貴婦人"はクラウディ先生の2作目の小説だ。

 若い婦女子を狙った連続殺人。犯人は良家の夫人だった。

 探偵の主人公に犯行手順も動機も丸裸にされるも本人は否定。

 否定し続けたまま彼女は憲兵に捕まり投獄。投獄された先で他の囚人から()()を受けて獄中死した。

 そんな結末だ。


「それ以来ね、資料整理の手伝いを頼まれる様になったんだ。未解決事件のさ。だから探偵ってのは半分本当。実際は地味な役回りだけどね」


「それって大丈夫なの……?いいところの夫人が犯人なんでしょう?そんな晒す様な真似をして怒られたりしないの……?」


 至極普通な意見だがな、リン。

 それこそそれが通じるのは普通な奴だけなんだ。


「こいつの実家、滅茶苦茶太いから」


「まー敵はいないねぇ。というか私は書きたいものを書くだけだから」


 おい、そこのお前!鉱山バトルしようぜ!持ってる鉱山の数で勝負な!ってなったらまず無敗だ。

 何鉱山持ってるんだよ、あの家。

 まあおかげでランドルお爺さんの蔵書の数は凄かったし、権力最高としか言えない俺であった。


「なんかすごいせかいなのね…………」

 

 お目目ぱちくり驚いてるリン。

 でもお前も良いところのお嬢疑惑は消えてないからな。

 かー!ほんと金持ち育ちに囲まれると惨めになるぜー!


「ともかく資料整理という事は事件の資料は読んでいるわけだ」


「そうだよ。だから君が毒酒を振る舞った事も知ってる。流石読書家だけあって発想がユニークだねぇ。子供の頃には無い変化だ」


「10年だぞ。比べんなよ」


「それは無理だよ。でも件の冒険者がウィルだって分かった時は流石に混乱したけどね」


 そこまでの調査資料を入手出来るとはな。

 国かギルドか。依頼元がどちらにしても相当に能力を買われている様だ。


「それで?今日はどこを当たるんだ?行先は決まっているっていう事はある程度調査の目星はつけてあるんだろ?」


「うーん今日はやめておこうかな。ウィル達が話せる人だって分かったし情報の擦り合わせをしておきたい。……リンちゃんも調子悪そうだしね」


「えっ!?…………なにも悪くないわよ」


「昨日と比べて歩き方が変なんだよねぇ。それに客室の壁って案外薄いから気を付けた方がいいよっ」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


 テーブルに突っ伏して動かなくなるリン。腕で顔を隠しても真っ赤な耳は隠せてない。

 こりゃ今日は護衛は無理だな。


「お前酔い潰れてたんじゃなかったわけ?壁に聞き耳立ててたの?」


「あーーー!やっぱりそういう仲なんだ!やらしーんだっ!」


 こいつカマかけてたのか…………。

 油断ならないな。探偵を自称しただけの事はある。

 俺は指を鳴らし魔術を解く。


「これ以上は飯を食いながら話す事でもないだろ?部屋に戻ろうぜ」


「確かにこれ以上は明るいうちに出来る話じゃ無いね!」


「もう勘弁して…………」


 やはり先生は悪戯好きの様だな。

 しかしこんなに明るい奴だったかね。しっかりと覚えているわけでは無いが違和感が拭えない。

 まあクローディアには興味はない。

 俺は思考を切り替えて席を立った。





 



「泥炭?」


「そう!オルテ村の村民はオルテンシアと泥炭を売って生計を立ててたらしいの」


 3人集まり俺の部屋のテーブルでティータイム。もとい作戦会議中。

 泥炭ね。確かに砂丘では見かけた。

 あんな物売っても暮らしてはいけないと思うがな。

 というか何よりもオルテンシアだ。綺麗ではあるが野草だ。毒もあるし村民から買ったところで売れはしないだろう。


「そこで周辺の都市で泥炭を扱っていた商人を調べて貰ったんだー。そしたらアクアパレスのある商人がヒットしてね。馬車の特徴も村民の話と一致したの」


 一ヶ月以上掛かったけどね……と溜息。

 しかしよくもまあ遠い土地から指示だけで捜査を回せるもんだ。

 俺が舌を巻いている横で相棒の視線はチラチラとこちらとベッドを往復している。

 目が合うと爆発するので目を伏せる必要がある。

 めんどくせぇ。


「本当に探偵みたいだな、お前」


「探偵なのっ!……でもここからが面白いんだよ。泥炭の販売歴はあってもオルテンシアの行先がわからないんだ。そしてその商人は()()()()後に不審死して息子に代替わりしている」


「不審死ね。毒殺ってオチに一票」


「二票だね。毒性の花を集めていたのに用途はわからず行先不明。本人は(推定)服毒死。におっちゃうよねぇ…………」


 本当に嬉しそうだ。こいつ倫理観ぶっ飛んでやがるな。

 そのおかげの文才と考えれば全然受け入れますけど。


「村人全殺し事件の犯人は()にかなりの拘りがある様に思える。そう考えるとオルテンシアの用途は毒薬の生成か?」


「流石幼馴染!気が合うねぇ。そして毒の生成には知識と設備、沢山のお金がいるよね。毒死商人(仮)の息子さんと話せたら結構絞り込めるんじゃないかと思ってるんだ」


 なるほど。息子が関係していれば大当たりだし、仮に何も知らなかったとしても親の動向を多少は把握しているだろう。条件を照らし合わせて、容疑者を狭めていけば後は虱潰しに調べればいいという事か。

 まあ俺の場合は親御さんに聞いちまえば一瞬だろうがな。

 だがクローディアの前で【ギフト】を使う訳にもいかない。聡いこいつの前でリスクは踏めないな。毒殺なら情報が出るとは限らないし。

 それに前提として事件がどうなっても俺は困らない。

 あくまで依頼内容は護衛だからな。


「なんか捜査って地味なのね。もっとダダン!って解決するのかと思っていたわ……」


「こんなもんだよ。この世界にシャーロック・ホームズはいないからな」


「シャロ?何それ!この世界にって事は小説!?探偵物かぁ!えっ、詳しく教えてよ〜!」


 俺の失言に食いつくクローディア。しまったこいつは文学少女(19)だった。

 掻い摘んで内容を教えてやってもいいが、こいつがあの名作を読む機会は一生来ない。

 そんな残酷な真似は出来ないな。


 (…………写本)


 ん?なんか言ったか?

 昨夜きり黙っていたミサトからの毒電波を受信する。


 (だから写本だよ。私の記憶覗けるんだし作ってあげればいいじゃん)


 写本なんて考えた事無かったな。

 確かにありかもしれん。この世界に向こうの著作権は存在しない。

 クラウディ先生には沢山楽しませて貰えたからな。

 恩返しって考えればなくはない。

 個人的にページを捲って読み直したい気持ちもある。


「あー、今は手元には無いけど写本なら用意できるかも」


「ほんと!?とっても嬉しいわ!ウィル!!!本当に楽しみにしてるからねっ!」


 泣き笑いの様な表情のクローディア。

 …………ひとつ違和感の正体が分かった。口調が違うんだ。

 あの頃のこいつは明るく冗談を言う様な奴ではないし、人を食った様な喋り方もしない。

 物静かな本好きの少女だった。

 …………10年か。こいつにとっても長い時間だったんだろうな。


「ちょっと……黙られると不安になるわ。本当に約束よ?」


「はいはい、分かったよ。今度な」


 大層感情が動いたせいかクローディアの頬が赤い。

 くりっとした月色の目を潤ませ、上目遣いにこちらを見ている。

 年齢の割に少女めいた顔立ちだが、二連の泣き黒子がアンバランスに色香を放っていて吸い込まれる様な魅力がある。

 こいつ結構美形だな。そう思っていると、


「ぐっ!」


 足に鋭い痛みあり。強い力で踏まれた模様。

 容疑者の方を見ると面白くなさそうな顔でそっぽを向いている。

 君って案外嫉妬深いタイプなのね。


 (ふん。女の情動を甘く見たね。せいぜい刺されない様に気をつけてろ)


 さすが骨になるまで生娘を貫いた方が言うと説得力が違いますなぁ。


「…………脱線したな。それでその商人の名前は?」


 幽霊の罵詈雑言ラジオに精神的ミュートをかけて話を戻す。


「ヘンリー・ミラー。アイザック商会の現代表。ちなみに死んだ父親の名前はアイザック・ミラー。名前の通り父親の起こした商会だね。色々と手広く物を売ってるみたいだけど、一代で育てた割に資金力が大きい。販路はそこまでじゃないのにね」


「公に言えない稼ぎがあるのかもなぁ」


「私もそう怪しんでる。何にせよ会ってみないとね。簡単に会ってくれるかは分からないけど。私の名前がどこまで通用するかなぁ」


 クラウディ先生は素晴らしい文豪だが一般層に有名かと言われると苦しいところだ。

 せめてあと30年……いや20年あれば記念館が建つレベルに名は広まるだろうが。


「ならギルドマスターに頼めば良いんじゃない?あの人の紹介を断れる人はこの街にいないと思うわよ」


「いやーリンちゃん。まずギルマスさんに会うのが大変だよぉ。あんな大物アポイントすら受けてくれるかどうか。御多忙だろうしねぇ」


 確かに毎日御多忙に料理を作ってはいるが。

 ギルマスシェフは公然の秘密ですら無いと思っていたが、外部の人間には伝わってないのか。そもそも地元民ですらないしな。

 というか口振りを見るに、この件にギルマスは絡んで無い様だ。

 今回の依頼は表向きは護衛のままだし、クローディアの依頼元はカサンドラの個人的な繋がりか?


「すぐ会えるし頼みも聞いてくれると思うわ。私ゲーニッツなんでもやってあげちゃう券持ってるし」


 得意気に懐からカードを取り出すリン。

 ゲーニッツのサムズアップしたイラストが下手くそに描かれている。

 暗器と同じ扱いで忍ばせてるのはウケるな。


「えと…………何コレ?」


「故郷の料理のレシピを教えたら貰えたわ。これを使えばギルドマスターが大抵の願いを叶えてくれるの」


 コスパ良過ぎかよ〜〜〜〜〜!

 というかもしかしてシェフマスの腕でリンの家庭料理が食えるのか!?リンの料理は…………うん、あれだったから。


「…………なんというか面白いギルマスさんなんだねぇ」


「酒場でシェフしてるくらいだからな」


「は?」


「今の時間なら会えるわね。今日のおすすめメニューは何かしら」


「へ?」


 話をよく飲み込めていない様な感じのクローディア。

 まあそうなっちゃうよねぇ。

 取り敢えずギルドに向かうとするか。


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