決闘 カサンドラの視点
本当に良い機会だと思った。
彼の事を良く知る為のね。
私は現在適当な理由をつけて特等席で決闘を観戦中。
決闘なんて言って盛り上がっているが要するに単なる模擬戦だ。
そんな事にギルド職員の許可や立ち会いがいる訳がない。
そこまで暇ではないのだから。
「次は俺の番だな——————ザント・シュトゥルム」
修練場の砂がカイリの発生させた風に巻かれる。鎌首を挙げた蛇の様に空中でうねり、その後アンジェリーナに襲い掛かった。
「————サンド・スッ!?」
アンジェリーナは砂を操り制御を奪おうとした様だが、突如として中断し回避行動に移った。
オルテ村でロンゾの足を切り取った魔術に似ている。
だが殺気も感じないし手加減はしてくれている様だ。
「クッ、どうして!?何故砂に干渉できない!あんなちっぽけな魔力しか感じなかったのに!!!」
複数の魔術師が同じ物体を操作しようとした場合は込めた魔力の大きい者が優先される。
しかしカイリが操っているのは砂自体ではなく風だ。
支配先は競合しない。
「馬鹿だな。風と砂では単純な引き合いにならないだろうに。だが確かにアイツは全然魔力を込めていなかったな。どう言う事だ?」
「俺もそう感じた。魔術で出現させた風に砂を飲ませるのは面白いアイディアだが、かなりの魔力を喰うはずだ。」
「魔術師じゃねえからわかんねぇよ。魔力もわかんねぇし」
外野の冒険者達が考察する。
私から見てもカイリの魔術には魔力が殆ど使われていなかった。
魔術師が魔術を使う際、自身の魔力を放出する予備動作が必要だ。そして当然ながら強力な魔術には多くの魔力を使う。
放出された魔力の量を見れば術の規模が分かってしまうのだ。
魔術師であれば他者の魔力を感知出来るから。
「飛んだり跳ねたり忙しいな。そろそろ攻撃してくれてもいいんだぞ?」
「クソッ!馬鹿にしてッ!!!」
蜂の群れの様にアンジェリーナを追い掛けまわす砂塵。
これがまずおかしい。
「…………妙だな。あいつは風術師なんだろう?」
「ああ。新たに魔術を使った様子は無い」
「魔術師同士で納得してないで教えてくれよ!俺は馬鹿なんだ!!!」
魔術師らしき男が嘆息し説明する。
「馬鹿に分かるか分からんがな、魔術ってのは大まかには2種類あるんだよ。現象を起こし放つ放出魔術。物質を操る操作魔術。一度の魔術で砂塵を追わせる事が出来るのは操作魔術。放出魔術では撃った時にしか指向性を持たせられないからだ。これで分かったか?」
「分かるわけねえだろ馬鹿!!!」
「だから、風は物質じゃねえだろうが。見えも触れもしない物をどうやって操る?」
一般的な魔術師がカイリと同じ事をしようとするならば、継続して放出魔術を使い続ける必要がある。
しかし彼が魔力を込めたのは一度きり。
これはおそらく操作魔術だ。ならば何を操っているのか?
「それに放出魔術だとしても操作魔術に比べて極端に魔力消費が重いんだ。彼の魔術はあんな微量の魔力で起こせる規模ではない。となると————」
「【ギフト】だろう。魔術に関する能力など羨ましい限りだな」
その可能性も大きいと思っている。
オルテ村での魔術を見る限りでも、彼の能力の範囲は風術から大きく逸脱していた。
死者の記憶を読み取るという力はあくまで私の予想と彼の自称。
冷静に考えれば魔術に関する【ギフト】の方があり得るだろう。
だが————、
——————毒で動けない俺を散々弄んでさ。最後には火をつけて殺したよな?熱くて痛くて熱くて熱くて息ができなくて。熱で骨が軋んでいくんだよ。何が雨乞いだ。笑える。
彼の言葉が耳から離れない。
表情もなく淡々と話す彼に死んだ彼女の姿を幻視した。
能力において彼は嘘をついていない。
私の勘がそう告げている。
それが正しいのなら彼にはまだ秘密があるのだろう。
「フィンガー・バレット!」
「ッ!エアロ・ブラスト!」
風を破裂させて鉄の弾丸を躱すカイリ。
これだって仕組みもやり方も何一つ解らない。
そもそも自分を吹き飛ばして回避するなど、余程の理解がなければ行使出来ないだろう。
————才ある魔術師には見えている世界が違う。
そう言葉に残した偉人がいる。
才人には世界を紐解く力があるらしい。
火とは何なのか?水とは何なのか?地とは何なのか?
そして風とは何なのか?
彼にはそれが見え、且つ理解が出来るのならば。
私にも共有してくれるかもしれない。
私だって父の様に強くなれるかもしれない。
「ふん、泥化の通りにくい地面だったか。運も良いみたいだな」
「…………どうかな?これまで運が良かったと思えた事なんて一度も無いよ」
私もそう思っていた。なんと私は不運なんだろうと。
肉体強度は一流に及ばず、適正魔術は戦闘に向かない風魔術。
ついに目覚めた【ギフト】は詐術でしかない。
私は圧倒的な力が欲しかったのに。
だが彼と出会えた事は本当に幸運。
これからの事を考えると凄く興奮する。
私が風術師であって良かった。今はそう思える。
毒殺事件?ギルドに入り込んだ組織?
全部どうでもいい。彼と関係を繋ぐ為の方便だ。
「チャージに時間がかかるんだな。なら俺の勝ちだ」
「だからその減らず口をやめろォ!!!」
戦闘のまわし方も実に私好みで好き。
わざわざリンを射線に入れさせて挑発するなんて。
本当に私達って気が合うと思うの。
貴方の事を考えるだけでどうにかなってしまいそう。
私って現金な女なんだな。
その力が【ギフト】由来ではないと思った時からずっとこうなのだから。
「ん?」
「なっ!!!?」
彼の掌がアンジェリーナの胸に触れる。
少しだけ嫌な気分がした。
楽しい事を考えて楽しい事を楽しい事楽しい。
嗚呼、あの夜は素敵だったな。
思い出して身体に熱が帯びていくのを感じる。
また飲みたい。
「かはッ…………!」
物想いに耽っている間に決着を見逃してしまった。
彼が負けるなど露のほどにも思ってなかったけど。
あの女も噛ませ犬にしては良い演者だった。
「順当な結果だ。地術師の方も善戦したが終始地力が違った。ギルマスを倒したとまでは思えないけどな」
「確かに面白い魔術だったが【ギフト】ありきなら参考にならないな」
「うおおおおおおっ!俺は馬鹿だけど最後のパンチはすごかったぜぇ!」
周囲の評価も良好の様だ。
彼は名声を上げようとしている節がある。
短い付き合いながら知った彼の性格から考えると違和感はある。調べた彼の経歴からも矛盾を感じる。
だが彼が望むのなら叶えてあげよう。
望むことは何でもしてあげる。だから貴方の全てを教えてね。
彼に歩みを向けながら胸のロケットネックレスに触れる。
私に力があれば何も失わずに済んだ。
弟の遺体は指の先しか残らなかった。
復讐しようだなんて思わない。
ただ私は力が欲しい。
「という事で俺の勝ちでいいよな?」
まずは笑顔で彼の勝利を讃えよう。
関係を深めるのはゆっくりと。
逸る気持ちは胸に留めて。
蛇の様に機会を待つのだ。
「はい。カイリの勝利です——————」




