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リン


「…………なんで生きてるの?」

 

 あの後山で一晩野宿し、街に戻ったのは昼前だった。

 眠る必要の無いミサトは見張りとして機能するし、目覚ましとしても優秀だ。うるさいが。

 

「モルドール達はどうしたの?なんで無傷なわけ?」

 

 ちなみに薬草はしっかり集めてきた。仔猫たん大活躍。

 流石に獣様は格が違った。匂いを頼りに見つける事見つける事。

 今日はタウリンたっぷりの魚介類を御馳走しなきゃな。

 

「ねぇ貴方――――」

 

「あーーーうるせえ!俺は今から依頼完了させて香辛料たっぷりのソーセージとビールを味わうんだよ!股まで鋼鉄で出来てそうな不感症女に用はねえ!!!」

 

「ふかっ!」

 

(サイアク…………セクハラ男)

 

 まさしく鉄の様に固まったお嬢さんを尻目に受付に進む。今日も空いてる。嬉しい。

 

「依頼終わったよ」

 

「昨日の今日か。山歩きが得意なのは本当みたいだな。見せてみろ」

 

 受注書と薬草をおっちゃんに渡す。

 こんななりの俺を差別しないし、薬草の状態確認も丁寧だ。優しい。

 薬草なら依頼元に確認させるのが普通だが、手慣れた手付きだ。薬学も納めているのかも知れない。

 このおっちゃん只者ではないな。

 

「問題ない。依頼完了お疲れさん。また頼むぞ」

 

「ありがとう。とりあえず今日は飯食って寝るけどな」

 

「ここのソーセージは絶品だぞ。分厚いの皮にハーブソルトが練り込んであってビールに良く合う」

 

 聞かれてたか。ちょっとだけ恥ずかしさを感じながら銀貨3枚を受け取る。

 2日分の飯代か。まあ悪くない。

 給仕のおっさんに子猫の食事も合わせて注文する。

 昼時には少し早いからかテーブルが空いていた。

 席に座ると幾許もなく給仕のおっさんが食事を持ってきた。ソーセージを選んでよかった。腹ペコなんだよ。

 

「おまちどう。この子のは床に置いておくぞ」

 

「おーありがとう。こいつのはいくらだい?」

 

「いいよ。猫は好きなんだ」

 

 ビールとソーセージ代だけ受け取ると他の客のオーダーに去っていった。

 かっ、かっけえ…………。

 なりたい!…………ああいう大人に!

 視線を落とすと仔猫がガツガツとごはんを食べている。

 白身魚を細かく切って焼いた物のようだ。

 御飯時は無条件で体を返す。それがミサトと仔猫の取り決めらしい。

 

「さて、それじゃあ俺もいただき――――」

 

「相席いいかしら?」

 

「…………どうぞ」

 

 ちょっと嫌な気分になった。冷徹が服を着て歩いてるような女だ。一緒に食べると味に影響しそう。

 まあ食うが。

 

「パリッ」

 

 はぁああああああああああ。

 口の中に入れた瞬間広がるハーブの香りと塩味。

 皮は分厚く少し力を入れないと噛み切れないが、それも不快な事なく心地よい反発として小気味良い。

 何より噛んだ瞬間に溢れ出る肉汁。旨味の暴力装置と言って良いだろう。

 

「ぜっっっっっっぴんだぁ…………!」

 

 こうしちゃいられない。この料理に礼を失する事なくビールをお口にお迎えせねば!

 

「ごきゅっ」

 

 合う〜〜〜〜!めっちゃ合う〜〜〜〜!

 口の中の塩気を攫っていく炭酸の波。

 互いに相手の為に生まれ、存在したかの様な調和。

 素晴らしい。美味しくて涙出ちゃう。

 

「幸せそうね…………」

 

「幸せだもん」

 

 呆れた調子で呟く鋼鉄女。飯が美味いのは幸せな事なのだ。

 

「昨日と性格が全然違うようだけど?」

 

「そうだったか?言う程関わっちゃいねえだろ」

 

 何が聞きたいのか。察しは付くが胡乱な物言いに付き合ってやるつもりは無い。

 

「あー、めんどくせぇな。あのヒゲ面は俺が殺した。これで満足か?消えな」

 

「なッ!?」

 

 鉄面皮を崩し女が驚く。だが知ったこっちゃないね。

 冒険者同士のいざこざは自己責任が常識。口出し不要である。

 殺しが公にバレたら流石に面倒だが、その時は記憶あさりで見つけた犯罪の証拠でも突きつけてやればいい。

 あのヒゲは相当殺してる様だったしな。因果応報って奴だ。

 

「消えねえならとっとと注文でもしたらどうだ?俺とお前はお知り合いじゃねえんだからな」

 

「……………すみません、こちらにコーヒー一つ」

 

「コーヒーまであるのか!?」

 

「えっ、まあここは割と何でもあるわよ…………」

 

 なんてこった。ここは楽園か。

 しかし今日はこの一食に浸りたい気分だ。楽しみは明日だな。

 

「情報提供感謝するぜ、鋼鉄女」

 

「…………リンよ。その呼び方は2度としないで」

 

 給仕がコーヒーを持ってきた。銀貨1枚を渡すリン。

 まじかぁ。コーヒー1杯で2食分…………さらりと払いやがって。こいつ稼いでやがんな。

 

「カイリだ」

 

 付け合わせのポテトフライを頬張る。

 主張の少ない素朴な味わいだ。だがそれが良い。主役はあくまでソーセージ。分相応を弁えた名脇役。薄味ながらしっかりと揚がっている。美味。

 

「リンね。服装からして南部出身かな?名前も向こうじゃ良く聞く響きだ。顔立ちが彼らとは違うが…………ハーフか。ならその髪色を考えるとティンゼル王国との国境近いモナドの産まれかな?」

 

「…………随分明け透けに言うわね。やっぱり貴方ナンパのセンスは無いわ」

 

そう溜息をつき、気持ちを切り替える様に前髪をかき上げ続きを口にする。

 

「それで…………、モルドールを殺したってのは本当なの?アイツはクズだけど強いし狡猾だわ。銅級に勝てる様な相手じゃない」

 

「ならお前も弱いのか?」

 

「…………そうね。私は貴方の事は何も知らないわ」

 

「それでいいだろ。冒険者は仲良しこよしじゃない」

 

 勿論愛や絆を謳いながら仲良く冒険するパーティもいるだろう。

 何しろ命懸けだ。仲間は信頼出来るに越した事はない。

 だが俺にとってはそうでは無いというだけの話。おそらくこいつにとっても。

 

「邪魔したわね。これは詫びよ」

 

 そう言って銀貨1枚をテーブルに置くリン。

 

「君は天使か!?」

 

「ひぇッ」

 

 思わず手を握り締めてしまう。が――――――、

 

「――――――――――ッ!」

 

 お兄ちゃん!お兄ちゃん!!せめて、妹だけでも……ひぎっ、がああああああ!痛い痛い痛い許して助けてお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん痛い熱い痛い熱い痛い「飽きたな」死ぬ死死死死死生きてる何で痛い痛い終わらないなんでなんで「おお【ギフト】が。面白いね」わらってるわらってるわらってるわらっている!!!許さないよくもよくもよくも!絶対殺してやる!!!「楽しみだ」

 

「なッ!!!」

 

 はぁ……はぁ……。動悸が止まない。ここはギルド。俺はカイリ。俺は哀れにも兄を殺され生き延びた少女では無い。いや、死に延びたか。

 【ギフト】の制御が効かなかったのは久しぶりだ。相性が良いのか悪いのか。しかしまあ、

 

「お前死体だったのか」

 

「貴様ッ…………」

 

 呆けた表情から一変、視線に警戒と殺意が入り混じる。

 少々デリカシーの無い発言だったからな。

 まあいい。

 

「腹も膨れたしな。場所を移そうか」

 

 胎児を模した気味の悪い仮面。虫の羽音の様な声。

 俺(・)を(・)殺(・)し(・)た(・)あ(・)い(・)つ(・)だ(・)。

 どうやらこの女もイカレ仮面に遊ばれたらしいな。


 (カイリ…………!?)


 ああ、わかっているよ。

 折角見つけた情報源。逃すつもりもない。


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