これまでのあれこれ
「すっっっっっきりしたああああああ!」
両手を天に突き上げ叫ぶ。
ざまあみろ!死ね!周囲に漂うオゾン臭すら心地良い。
俺を殺した報いだ。とくと死ね!
(いやあんた殺されてねーじゃん)
鞄から子猫が飛び出す。
呆れた様にこちらを一瞬見上げ、後ろ足で器用に体を掻いている。
「うるせー!この気持ちはお前にはわかんねーよ!ペッ!」
清々しい気持ちに水をさされ唾を吐き捨てる。
俺に与えられた【ギフト】。
それは死体に触れるとその記憶を追体験するという物だ。
一人称視点でバッチリ痛覚on!痛みあり憎しみありの上映会だ。
たかだか記憶と侮るなかれ。
本当に殺されたのと同じ苦しみが俺に襲い掛かるのだ。
毒で自由を奪われ嘲笑され最期は雷で黒焦げだ。
もう殺すしかないだろ。不倶戴天だよ!!!
つまりこのヒゲ殺しは俺にとって逆襲そのものだったのだ。
「はっぴぃいいいいいい!」
(あーうるさ、てかコロコロ人格変わって気持ち悪いわ。なんなのギルドでの小芝居?鳥肌たったわ)
「あーうるせーうるせー。お前が喋ると頭に響いて気持ち悪いんだよ!このクソミサトが!」
喋ってるように見えるこの猫。
実の所猫じゃない。
ミサトという女の幽霊が猫に乗り移っているだけだ。猫かわいそう。
(本人も納得してるんだからいいじゃない。私と彼との関係に口を挟まないで)
「餌代は俺の財布から消えるんだがなぁ……」
ちなみに猫の体に乗り移ってはいるものの取り憑いてるのは俺自身なわけ。
俺のこう命とか魔力だかを吸って存在しているらしい。
なんでこんな事なっちまったんだか…………。
(私の死体からアクセサリーを盗もうとしたからだが?)
「うるせー!!!」
ちょっとした出来心だったのだ。
あれはまだ俺が無垢な少年だった頃。
毒養父の虐待に耐えかねた俺は、コッソリ練習していた風魔術で一家諸共惨殺し家出。
逃亡した先の森でとても綺麗なブレスレットと出会った。
これは神のお恵みに違いないと思ったね。
付属のこう白くて硬くて気味の悪いパーツを外そうとした瞬間だ。
【ギフト】に目覚めたのは。
しかもこの女の死に様が凄惨その物だった。
以降数多くの死に出逢ってきた俺だが、文句無しのぶっちぎり一位の苦しみだった。
いや苦しみだ。
過去ではない。俺の脳に刻みつけられた怨恨は、持ち主を離れてもこの身を焦がす。
ひりついてしょうがない。
この苦しみをあのクソ野郎に味合わせる為ならどんな事でもしてやる。
(殺されたのはあんたじゃねーけどな。でも好都合。私の復讐にせいぜい利用させてもらう)
「けっ、お前の思惑なんか知らねえよ」
だがこちらも利用させてもらう。
俺たちの思考は繋がっている。
そのせいか意識すれば記憶や知識などを参照する事ができる。
どうやらミサトは向こうでは天才だったらしい。
その天才が納めた異世界の知識を俺は使う事が出来る。
(この変態。女の子に対して配慮はないのか。お前こそ覗き野郎だ!)
「悪いけど骸骨のイメージが強すぎて女の子って感じしないんだよね」
「がぶっ!」
「痛ってえ!てめえ反撃出来ない事をいい事によくも!よーし怒ったぞ!今からてめえの貧相な入浴シーンを参照してやる!!!」
(やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろおおおお!)
「だからうるせえええええええええええ!」
あたまきんきんしてきた。
「はぁ」
不毛な事はやめて目的を果たすとするか。
俺は炭化した死体に近付く。
今からコレの記憶を読み取る。
俺を殺したクソ野郎は仮面をしていたので素性は分からない。
だが冒険者タグを集めているイカれ野郎だった。
だからクズ野郎の冒険者の死体を作って記憶を漁れば、手掛かりが掴めるかもしれない。
人間は嘘吐きだが死体は正直だからな。
ちなみに俺が読み取れるのは死ぬ間際だけってわけではない。
そいつの生きてきた中での死に関わるシーン。
死に掛けたとか、誰それ殺したとか。
そういう記憶を抽出する。
さて、やるか。
【ギフト】の発動に大仰な動作はいらない。
使う意志を込めるだけだ。俺なら右腕。ヒゲ面は左腕だったな。
能力によっては脚や頭の奴もいるだろう。
「――――――――ッ!」
ひもじいさむいにいちゃんはらへったやめてぶたないでにいちゃん!にいちゃんしね!しんだ。おや迷子かい?うちにおいで。何で親切にしてやったのにだまされたほうがわるいこれで金持ち。やめて!はなして!ひははたのしいたのしい雑魚をいたぶるのはたのしいちくしょうおれをみくだしやがっていい声いい顔だぁざまあみろたのしいたのしいたのしいたのしい楽しい!
「楽しいッ――――――う……おええええっ……!!」
砂利に膝をつき吐瀉物をぶちまける。
楽しい?楽しいわけがない。俺はモルドールじゃない。
俺はカイリ。19歳。男。牧羊の家に産まれて父さんと母さんが大好きだった。事故で2人が死んで親戚に引き取られた。地獄だった。抜け出した。そこで出逢った。綺麗な骨、骨、骨。
「クソがッ!俺は俺だ!」
はーいつもながら最悪な気分だ。
毎度の事ながらクズの生涯なんて見るもんじゃない。
防衛本能なのか俺自身が殺したシーンは見れないのが救いか。
どっちなのか分からなくなったら困るし。
(それで、手掛かりはあった?)
「スカだよ。ゴミみたいな記憶の福袋だ。てめえに見せられないのが残念で仕方ない。」
(あっそ。まあ地道にやるしか無いね。予定通りアクアパレスを拠点にしよう。港街なら情報も集まるだろうし)
「簡単に言いやがる…………」
しかしそれには同意見だ。飯も美味いしな。
(可愛い女の子もいるしね)
はーーーうっぜーーーーーー。




