男女の話は難しい
結局決闘する事になってしまった。
面倒だが知名度を上げるという意味では良いか。
ゲーニッツに膝を付かせたのは事実だが見ていない奴にとっては眉唾な話。精々華麗にぶっ飛ばして信憑性を補強させて貰おう。
リンの家のモナド料理も食えるしな。
家庭料理というのはプロによるものとは違った良さがある。
地域差による具材の違いだったり、好みによる調味料の変化だったり。前日の残り物のアレンジで作ったりな。
そういう家ならではの顔を見るのは好きだ。
家庭には恵まれなかったからな。
リンの腕前は少し心配だが大丈夫だろう。強い武術家は料理も上手いものだ。
さて、カサンドラから"喧嘩では無く決闘なのでクールダウンしましょう"という提案を受けて決闘は明日の午前中に行なう事になった。
俺は英気を養うべく自宅のリクライナーに座り、林檎ジュースを飲んでいる。
シロップを炭酸で割った美味い奴だ。実は少し乾燥ミントを混ぜている。清涼感が足されて良い感じ。
「その椅子は私のなんだけど…………もう遠慮もないわね」
2ヶ月も住んでますからなぁ。
もう実質俺んちみたいなところある。
(俺んちみたいじゃねーよ完全にヒモじゃんか)
あーうるさ。幽霊のロジハラは聞き流して家主にもジュースを振る舞ってやる。
リンのはシロップ多めで炭酸軽め。入れるハーブはリンの故郷で馴染みの深いレモングラス。
俺からグラスを受け取ると薄く微笑み家主は黙った。
ね?俺にしか出来ない仕事なんですよこれ。
とてもヒモだなんて呼べないよなぁ?
(家主の金でカクテル振る舞うとかプロのヒモの所業なんだよなぁ)
「ところであの主人公君はどれくらいやるんだ?」
「主人公君……?あの子の事なら悪くはないわね。しつこく誘ってくるから一度相手をしてあげた事があるわ」
「リンから見てそこそこの評価か。強い奴とやるのは嫌だなぁ」
「ええ。良い音の出るサンドバッグくらい殴り甲斐があったわね」
それって褒めてるのかなぁ……。見た目に寄らず頑丈そうではあったがね。
まあリンが手の内を知ってるなら都合が良いな。色々聞いとこ。
「タフなのは分かったがどんな戦い方をするんだ?」
「教えないわよ」
「はぁ?」
澄まし顔でジュースを飲みながら質問を拒むリン。
なんなの反抗期なの?お兄ちゃんは寂しいです。
「どうせ聞いたらそれを利用して罠に嵌めるつもりでしょ?私は狩りが見たいわけじゃないから。キャシーさんもそう思ってるんじゃないかしら?」
えーそういう事?俺に気があるわけでもないのに面倒臭いな。
ぼっち同士唯一の友達で「こいつ俺以外遊ぶ奴いないんだろうなー(笑)」って思ってたらいきなり自分以外の交友関係がある事が判明して妙に焦り出す奴な。
(ボッチプロファイリングはやめろ)
無造作に放った弾丸がぼっちに当たってしまったらしい。なむなむ。
ちなみに俺は友達なんていないからこの発言で自傷する事はない。やったね!
「知らない間に随分と仲良くなったみたいね」
「まあシェフマスと絡んでたら自然とな。立場上友人も作り難いみたいで俺みたいなのが珍しかったんだろ」
「…………そういえば朝まで帰って来なかった日もあったわね。お酒と香水の匂いをさせながら。そういう店に行ったのかとも思ったけど。私がタオさんの手伝いに行った日だったかしら」
怖ッ!なんで1ヶ月も前の事覚えてるの!?
ていうかそん時何も言わなかったじゃーん?
(え?お前まじなの?朝まで銀髪眼鏡とやりまくりなの?キモ過ぎて吐きそうになるんだけど…………?)
朝までやれるわけねえだろうが!!!
くそう……味方は!味方はいないのか!?
「…………………………」
視線が痛い!これではまるで俺が浮気のバレたヒモ野郎みたいじゃないか!!!
俺が何を言っても響かなそうだ。リンは結構ウブな所があるから最悪追い出されるかもしれない。
だがこの快適な持ち家生活から離れるわけにはいかない!
「…………何か誤解があるようだな。取り敢えず酒でも飲みながら話さないか?リンの好きそうな組み合わせを思いついたんだ」
「…………飲む」
よし!予想通りに乗ってきたな!
こいつは異常に酒に弱いし、酔った後の事は覚えてねぇ!
ウザ絡みさえ我慢すれば有耶無耶に出来る!!!
(……………お前本当にヒモの才能あるよ)
自分でもちょっとだけそう思ってきた。
そして翌日。
二日酔いのダメージと戦うリンを連れて修練場に向かう。
「痛ぁ……飲み過ぎたかしら」
「見事に脱水してるな。水飲め水」
「ん。ありがとう」
俺が投げた水筒を受け取り、少し照れ気味に礼を言うリン。
ばっちり仲直り出来ました〜〜〜。
今朝目が覚めてからも聞かれたがな。
そこはこんな感じで————
え?昨日話しただろ?覚えてないの?…………シラフで言うの恥ずかしいんだけどな。ほら?俺も男なわけだしさ?お前といると辛い事もあるわけジャン?あ、違う違う!全く俺は誤解されやすいな。あ〜〜〜恥ずいなもう。美人といたら辛い時もあるって話だよ!いつも言ってるだろ?お前は本気にしてないけどさ。だから解消する必要もあるわけで…………詳しく聞くなよ?お前とは同じ目的に向かう仲間だからな。あんま気持ちに不純物いれたくねんだわ。それでもリンの想いを考えなかったのはマジに反省してるよ。カサンドラとは友人だけど仲間じゃない。お前だから信じられるんだ。これからも信頼してるぜ、相棒。だから主人公君の得意技を教えてね?
(鳥肌が酷い)
お前猫やないかーい。
リンは中々使えるからな。仲良くしておくに越した事はない。
まあ対戦相手の予習も出来たし怪我の功名という奴だな。
修練場に着くと既にカサンドラと主人公君が待っていた。
「遅いぞ!」
「まあまあ、まだ時間前ですから。でも今回は私の方が早かったですね」
怒る主人公君とぺろっと軽く舌を出して笑うカサンドラ。
あーもう夏が来るのに寒くなって来ちゃったなぁ。冷気を感じるなぁ。主に隣から。
「少しリンの体調が悪くてな。まだ時間前だし許してくれよ」
大嘘である。
遅れたのは単純に俺が朝はゆっくりしていたいタイプだからだ。
「えっ!リンさん大丈夫なんですか!?」
「ええ……まあ。私は見てるだけだし」
焦った様に心配しリンに近寄る主人公君。こいつ良い奴かもな。
良い奴は好きだぜ。読み易いからね。
精々心配して集中力を欠いてくれ。
……あいつが噂のルーキーか。
……妙な魔術を使うらしいぞ。近接も凄腕でギルマスを失神させたとか。
……そりゃありえねえだろ!尾鰭付いてるだけで大した事ねえかもな。
貸切というわけでもなく他の冒険者も利用している様だ。
だが前回に比べたら全然許容範囲内。むしろ程々になら見られていた方が今後の為にも良い。
そしてギルマスを失神させたのは俺ではなくカサンドラであると主張したい。
「さて、決闘の許可は出しましたがそれだけです。命に関わる事態にはある程度責任は持ちますが、それ以上は関与しません。いいですね?」
「はい!」
「あいよ」
要するにこの戦いに何が賭かっていても知りませんと言う事だ。
最悪俺が負けてもリンを失う事は無いって話。
まあそんな事は訪れないだろうが。
俺たちは向かい合って距離を取る。
何せ魔術師同士の戦いだからな。
これも戦闘準備の様なものだがカサンドラは何も言わない。互いに都合が良いしな。
「では————————始め」
「うおおおおおおッ」
開始と同時に奴は地面に手をかざし魔力を通した。
「————————サンド・スモーク!」
奴の魔力を帯びた砂煙が俺に襲い掛かる。
まずは目眩しか。思ったより堅実な戦い方だな。
これでは煙が邪魔で狙いがつけられないし、目に入れば隙になる。入ったのが肺ならばそれだけで行動不能だ。
だが俺だって黙って見ているだけの的じゃないぞ?
「エアロ・ブラスト」
空気を圧縮し解放。破裂音共に砂煙が飛び散り視界が晴れる。
目の前には驚愕の表情の主人公君。
おいおい、こんなのは予想通りだろ?
さて。次は何を見せてくれるのかね。




