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横恋慕?


「リンさん!俺のパーティに入って欲しい!!!」


「その話は何度も断ったと思うのだけど……。あなたも納得していたでしょう?」


 今日は新しい依頼の確認ついでに冒険者ギルドでランチタイム。

 カーリー案件の確認がまだなので派手に働くつもりはないがな。

 ちなみに別れた日からアベルの姿は見ていない。

 あれでいて人助けが行動原理の様な奴だし、既にここから出て行ったのかもしれないな。

 この都市に奴の助けが必要な奴もそういないだろう。


「あの時は貴女がソロだったから……ッ!こんなクズの何処がいいんだ!?こいつとパーティを組むなんて認められない!!!」


「クズなのはその通りね。何処が良い………?頭は悪くないわね。顔はぱっとしないけど」


 今日のごはんはシェフマスおすすめの冷製パスタ。暑くなってきたこの時期にピッタリの一品だ。

 冷やすという工程は中々出来る事ではない。しかしここアクアパレスにおいては話が違う。

 他の沿岸都市が淡水不足に悩まされる中、山と都市の間に山水を通す巨大な水管橋を建設したのだ。流石の資材と人手の数である。魅力的な都市には物も人も集まるという事だな。

 兎も角、それによりアクアパレスの住人は、常に冷たく清潔な水が利用出来る様になった。

 ギルドにも水管が通っており、シェフマス曰く役得だそうだ。


「リンさんもわかってるじゃないか!貴女の強さと美しさを利用しようとしてるだけなんだよコイツは!」


「その通りなのが否定し辛いわね…………。でも貴方にどうこう言われる筋合いもない」


 給仕のジェイムズさんがパスタを持ってきてくれた。

 何やら呆れ顔だが俺の気のせいだろう。

 料金を払い、パスタと対峙する。


 ——————————————黒いッ!


 第一印象が先ずそれだ。とにかく黒い!

 黒鳥の羽の様な艶やかなソースがパスタに絡んでいる。

 そしてパスタがこれまた曲者だ。

 女性の髪を思わせる程に細く長い。前述の黒色と相待って東洋美女の様な色気を放っている。

 具材は何も入っておらず、それがかえってシェフマスの自信を感じさせた。

 四の五の言わず食ってみろ———ってな。

 鼻腔を刺す磯の香りが堪らないぜ。


「——————ッ!それは…………、そうですけど。でもやっぱり俺は貴女を諦めきれない。貴女となら金級にだってなれる!」


「それも間に合ってるのよね」


 これがネーロ・パスタか。

 話には聞いていたが食べるのは初めてだ。

 見た目の迫力に、俺はどこか及び腰になっていたのかもしれないな……。

 だがシェフマスの腕は信じられる。彼の料理が期待を裏切った事など一度も無い。

 さて、語り過ぎたか。実食に勝るものはない。

 俺の舌でこの暗闇の秘密を暴いてやる。

 さあ行くぜッ!


「お前はッ!何呑気に飯をくってん」


「断ッ!」


 不意打ちでリンの当身をくらいノックダウンする冒険者さん。

 まあどうでもいいな。いただきます!


「旨ッ!!!!」


 口の中に入れた瞬間に広がるコク。

 イカスミの濃厚な旨味の上に、ガツンとくるガーリックの香ばしさがノリに乗っている。

 それでいて涼し気な麺の食感、喉越し。冷製ならではの口当たりが初夏に嬉しい。

 噛めばプチプチと解けていく。この軽快な歯切れの良さも癖になるな。

 なるほど、この味を知らなかったとはな。俺は今まで随分と損をしてきたらしい。

 厨房の方を見るとシェフマスが優しく微笑んでいた。

 …………敵わねぇな。あんたには。


「御馳走様でした。本当に美味かった……」


「それは良かったわね……」


 夢中で食べてしまった。

 口の中の余韻と、食べ終わってしまった物悲しさにノスタルジックな気分になる。

 リンの目がこちらを見て何かを訴えている。はて?心当たりは無いが。

 しかし食べ終わるまで茶々いれてこなかったのは有り難い。

 こいつも俺という人間を分かってきているな。絆を感じる。

 まあ心当たりが無いのは冗談だが。

 

「あんなにご執心だったのに容赦ないな」


「あそこで私がやらなかったら殺してたんじゃないの?皿が無事で良かったわね」


「まさかぁ。飯食う場所でそんな派手な真似はしないよ」


 そもそもゲーニッツの料理を台無しにする様な奴がいたら俺でなくても殺しているだろう。

 タグを見るに銀級の様だが、そのランクでここの流儀を知らないのはおかしいな。

 となると、


「こいつはお前の追っかけか」


「…………他の街でね、同じ依頼を受けた事があるのよ」


「へぇ、意外だな」


 こいつの性格的にも能力的にも他者と組むなんて想像出来ないな。

 【ギフト】使って不死身タンクをするならアリだが、そこまで能力は開示しないだろう。


「勘違いしないで欲しいわね。()()()()()()が起きたのよ」


「そういう事ね」


 俺は口元を布巾で拭き、冷水で喉を潤す。

 スタンピードとは簡単に言えば魔獣の一斉暴走だ。

 何か強力な魔獣が現れたか、それとも災害か。

 理由は色々あるが、生活圏を脅かされた魔獣は群れの様に揃って暴走する事がある。そこは人間も同じか。

 しかし暴走進路の先に村や街があれば堪ったものでは無い。

 規模にもよるが魔獣の殲滅、或いは進路の変更をさせる為に、ギルドは冒険者に強制的に依頼を受けさせる事がある。

 そんな中出会っちゃったんだろうな。

 強く凛とした麗人に。


「……急に黙り込んでこちらを見ないでくれる?」


「いや、美人だなって思って」


「頬でも染めて見せましょうか?」


 胡乱な眼で溜息をつくリン。

 本気で言っているのにな。

 今日はいつもと違い、三つ編みにした赤髪を右に寄せている。

 そして装いは白いデイ・ドレス。

 買い直してやがる。気に入ったんだね……。


 (女の服装よりパスタの感想の方が長いとか流石は非モテだね)


 じゃあもっと肉付けしてやろうか?

 白いドレスはゆったりとしていて、身体のラインが分かりにくい。しかしそれでも彼女の女性的な魅力は隠せず、灘らかな双丘が初々しくも主張していた。

 ドレス映えする薄らと褐色の肌はきめ細かく張りがあり、少女と淑女の間のモラトリアムを遊んでいる様な妖しさが————(キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい)

 ほらね?こうなるわけですよ。


「ハッ!俺は何を…………」


 そうこう話してるうちに冒険者さんが起きちゃった。

 意外とタフだね。俺ならリンに落とされたら一晩目覚めない自信がある。


「ひゅう〜〜〜ひゅひゅ〜〜」


 リンはそっぽを向いて下手くそな口笛を吹いてる。

 君クールビューティー気取ってるけどそういう所あるよね?むしろ酔っ払った時の方が素に近いのでは?


「首が痛い……くっ、貴様の仕業か!?卑怯者め!!!」


 あなんか飛び火した。こういうタイプって面倒くさいんだよなぁ。

 改めて男を見てみる。

 身長はそれ程高くなく俺と同じくらい。

 それなりに鍛えられた肉体をしているが、切った張ったをする様な感じじゃないな。魔術か【ギフト】がメインウェポンかな?

 服装は一般的な冒険者って感じ。

 軽装だが関節を守るガードはしっかりと付けていて、腰の帯剣ベルトには小ぶりのナイフ。これは戦闘用ではなさそう。

 黒い長めの髪を後ろで縛っている。

 リンとお揃いを狙ったのカナー?髪型違って残念だったねぇ。


「さて、飯も食ったし帰るか」


「待てッ!逃げるな!俺と勝負しろッ!!!」


 あーもう彼の中でストーリー出来あがっちゃってる奴だわ。もう彼の中で主人公なんだわ彼。

 どうせ俺が勝ったらリンを寄越せとか言うんでしょ?


「俺が勝ったらリンさんを解放して貰う!」


 ほらね?こうなるわけですよ。

 こういう輩は無視して帰るに限る。

 なんかやってきてもリンが止めるだろ。本当に便利な仲間だなぁ。


「それ面白いわね」


「は?」


 何言っちゃってるのかなこの人。


「私カイリの戦う所あまり見てないのよね。負けたし強いのは分かるけど。ていうか最近私が戦ってばかりだし?ちゃんと見たのはギルドマスターと戦った所くらい?サンドワームでは()()()()()()()()()()()()


 何故?何故かなぁ?何故なんだろう?

 そしてコソコソ話なのは分かるけどこいつの前で耳打ちは火に油ァ。


「貴様ァアアアアア!!!!!」


 ほらねええええ!こうなるわけですよおおおお!!!

 愛しの彼女はよく分かって無い様でキョトンとしている。そう言う所だぞ。


「表に出ろ!化けの皮を剥がしてやる!!!」


「…………あのな、盛り上がってる所悪いんだけどさ。俺になんのメリットがあるのよそれ。何か提示出来るのか?」


「クズがッ!こんな時でも金をせびるつもりか!?良いだろう!俺に勝ったら好きなだけくれてやる!!!」


「間に合ってますぅ。じゃあな」


 金は好きだが面倒事に付き合ってまで欲しい物じゃない。リンという財布もあるしな。


「この前言ってたモナドの家庭料理。作ってあげるわよ」


「乗った」


 ハッ!つい条件反射で乗ってしまった。

 というかこの流れでそれはまずい!


「リンさんの手料理だとッ!このヒモ野郎が!!!」


 タイミング悪すぎて謂れのない悪評が俺に突き刺さる。

 やっぱり誤解されやすいんだ俺は…………。


 (いやヒモは事実だが?)


 マジ謂れねぇなぁ!


 ……おい、またあいつが戦うらしいぞ!

 ……おお!あのルーキーか?俺ギルマスとの勝負見てないんだよなぁ!

 ……酒持って行こうぜ酒!どっちが勝つか賭けようぜ!


 あーいけません!先輩方も乗っちゃってます!

 わいわいがやがやと話が急速に伝播していく。

 勝手に大きくなる話に元凶のヒロインはアワアワしてます。そういう所だぞ!


 ————————パァンッ!


 突如として発された破裂音に振り返ると、眼鏡姿の悪鬼(カサンドラ)が両掌を合わせて微笑んでいた。

 

 ————————お前ら良い加減にしとけよ?


 無言の圧に一瞬で静かになる先輩方。

 人間って眼だけで会話が出来るもんなんだなぁ。

 主人公君まで毒気が抜かれた様にポカンとしている。

 あ、近づいてきた。


「やあ、助かったよキャシー。見世物になるのはごめんだからな」


「キャッ!?」


「どういたしまして。カイリは相変わらずの様子ですね」


「カイッ!?」


 どこら辺が相変わらずなのか気になるがまあいい。

 こいつの権限で俺との小競り合いを禁止にして貰えば解決だな。職位で言えばただのギルド職員だが、実質的なNo.2だ。

 主人公君も流石にギルマスの娘だという事は知っているのか縮みこんでいる。カサンドラ自体も結構有名な実力者らしいしな。

 ギルマスがシェフをしている事は知らなかった様だが。


「まあ新参の銅級がいきなり銀級に昇格して八面六臂の大活躍ですからね。こういう事はあり得ると思っていました」


「うんうん、だから君の権力でズバッと解決しちゃってよ」


「ですので良い機会だと思います。見世物にするつもりはありませんが修練場での決闘を許可しましょう」


「は?」


「いやー、実は私も父がボコられた所見てないんですよね。だから改めてカイリさんの戦いを見てみたいというか……」


 嘘だ!絶対能力使って隠れて見てた癖に!

 だって現れるタイミング良過ぎたもの!!

 というか君のお父さんをボコボコにしたのは君自身だけどね…………。


「まあ良いじゃないですか。友人の私に格好いい所を見せて下さいよ!」


 父親譲りの下手くそウィンクをかますカサンドラ。

 これがどういう化学反応を起こすかというとだ。


「他の女性にまで手を付けているのか!下衆め!!!」


「…………………………………………………………」


 血圧高そうに吠える主人公君と無表情のヒロインちゃん。

 うーんこの無表情はオルテ村の村民の骨をひたすら砕いていた時と同じ無表情ですね。折りやすい骨に目線がいっています。

 でも怖いのはコイツらではない。

 一番怖いのは————————


「………………………………………ふふふ」


 気配もなく俺の背後を取りながら笑うキャシーパパさんでしたー。


 

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