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海上ギルド


「帰港予定日過ぎて半年経つぞ!ルートと船員を洗い直せ!!!」

 

「コグ船の中に悪臭のする植物?毒草かもしれん。少量とって商工ギルドと冒険者ギルドをあたれ。詳しい奴がいるだろ」


「入港待ちの船の船員が咳と顔面紅潮?絶対に入れるな!強行してきたら燃やせ!船だけじゃないぞ!船員全てだ!!!」


 なんと人の多い建物だろうか。誰も彼もが大声をあげて活発に動き回っている。

 俺たちは首だけになったカーリーさんとその一味のハゲとチビを連れ、アクアパレスの海上ギルドに来た。

 依頼元がここなので達成証明を受けに来たのだ。

 何故海上ギルドが依頼元なのか?

 それはアクアパレスの実態から説明しないといけない。

 

 俺達が拠点にしているアクアパレスは()()アムスネツィア王国の都市だ。

 一応が付く理由は所属と呼ぶには形骸化しており、都市全体が王国の支配を受けない独立特区とかしているからだ。

 

 ゲーニッツが旗印となりアクアパレスは清浄化された。

 しかしそれで元通りに王国領となるにはこの都市の価値は重過ぎた。

 アクアパレスは殆どの大国への海路を持っている。

 さらには特殊な海流と迷路の様な岩礁があり、地形を知らないと辿り着く事は難しい。天然の要塞だな。

 つまりは前哨基地として非常に優れているのだ。

 勿論貿易を考える上でも魅力的だし、資源も豊富だ。海洋資源は勿論のこと、背後に位置する山々からの木材や鉱石も申し分ない。

 まさに各国からしたら垂涎ものというわけだ。


 犯罪都市として、ある意味では均衡が取れていたアクアパレスはゲーニッツらの手によって空白となった。

 その空白を狙った各国の緊張は、人々に戦の到来を予感させるには充分なレベルであった。

 元々ならず者の皮を被って諜報員を置き、パイの取り合いをしていたのだ。はいそうですかと後に退けるはずもない。

 普通に考えたらアムスネツィアの領土だが、アクアパレスを欠いた彼の国は減退の一途を辿り、主権を強く訴える事が出来なかった。他国はアムスネツィアが見捨てた、見放したからこそ悪都と化したと主張したわけだ。また同じ事の繰り返しになるぞと。

 そこでアクアパレス及びアムスネツィアは火薬庫から脱却すべく実質的な独立宣言を行なったのである。

 

 ひとつ、アクアパレス及び50kmの土地は独立特区とし王国の法は適応されない。

 ふたつ、政治形態は冒険者ギルド、海上ギルド、商工ギルド、選挙により選ばれた市民の代表、アムスネツィア代表による評議会制度とする。

 みっつ、関税は原則として、各国がアムスネツィアに掛けた値の10%とし、これはアムスネツィアが領収する。

 よっつ、いかなる軍隊も独立特区の地に侵入する事は出来ない。これはアムスネツィアにも適応される。

 

 これらをベースに各勢力の妥協点を探りながら制度が作られていった。

 発足はおおよそ30年前。当然ながら色々と問題もあった様だが、今ではかなり落ち着いている。冒険者ギルドのマスターが酒場でシェフをするくらいだからな。


 少し思考がずれたか。海上ギルドの説明に戻そう。

 平和が訪れたアクアパレスだが平和の維持には力がいる。なにせ常時腹ペコの獣に見つめられているに等しいからな。

 背後は全面アムスネツィアなので攻撃される恐れはあまりない。関税の領収という飴のおかげだな。他国もアムスネツィアを飛び越えて侵略は出来ない。

 となると仮想敵は海からやってくる。

 故にアクアパレスの戦力は海戦に偏っており、それを支配する海上ギルドが中心となって都市の治安を守っているというわけだ。

 犯罪の取り締まりもこれにあたり、犯罪者に賞金をかけているのも海上ギルドなのだ。

 別に冒険者ギルドを通さなくても報酬は貰えるがね。

 まあランクにも関わるし、所属組織に喧嘩を売るつもりもない。


 長くなったが、海上ギルドに生首とその友達を連れて来た理由がこれだ。

 ちなみに他2人は正当防衛って事にして殺して埋めておいた。管理が面倒なので。

 死体の座標も報告しないといけないな。


「はぁ……はぁ……重い……重過ぎる……。なんで僕が男2人を背負って歩いてるんだ……?」


 ぐるぐるに簀巻きにされたハゲチビを背負って馬鹿が呟く。

 こいつの馬鹿力を利用しない手はない。馬鹿とハサミは使い様ってな。


「なんでって金貸しただろ?それに俺だって頭目の奴1人抱えてんだから文句言うんじゃねえよ。それともリンに運ばせるつもりか?」


「ぐっ……、女性にそんな真似は……。仕方ない。どっちかが2人運ばないといけないなら僕がやろう。だから銀貨2枚追加で貸してね?」


「おーおー、今の借金を返したらな」


「わぁい。これで銀貨3枚だね!これだけあったらなんでも出来ちゃうよ!!!」


「どこから突っ込めばいいのか…………」


 (本当に馬鹿なんだこいつ…………)


 アベルの馬鹿さ加減に呆れるリンとミサト。

 馬鹿は馬鹿として目的の受付を探す。

 冒険者ギルドが四つは入りそうな建物だ。受付も部署で区分され複数ある。今回は治安維持科なので…………あそこだな。

 俺はリンの肩を叩き目的地を指差してやる。

 リンは溜息をつき、受付に向かって行った。

 こういうのはリーダーが顔を売らないとね。


「こんにちは。冒険者ギルドで賞金首討伐の依頼を受けた《鋼鉄の風》ですが……」


「こんにちは。わざわざ冒険者ギルドに通すなんて律儀だな。マージン取られるだろうに」


 リンから受注書を受け取る初老のギルド員。

 人の良さそうな雰囲気だ。だがここは治安維持科である。犯罪者の切り売りが生業だ。優しげな声の裏に何が潜んでいるか。


「…………《俊足》のカーリーか。女性って話だけどそこの2人が女装でもしてたのか?人相書とも違う様だけど」


「惜しい!カーリーちゃんならこちらにいるよ。普段は男装して冒険者やってたんだと」


 訝しむギルド員に間髪入れず包みを開いて見せる。

 ここからは俺の仕事だ。間違ってもリンに大根演技をさせるわけにはいかない。


「殺したのか。……確かに人相は近いな。だが生死問わずといっても確証が無いと君達が手配される事にもなり得る。大丈夫か?」


 元々はカーリーだけは生かしておく予定だった。運び易くした後自供させるつもりだったのだが、アベルの馬鹿が殺しちまったからな。

 まあ親切にも証言してくれる方が2人もいたので問題はない。


「おっ、おれ!俺が話します!この首は確かに団長の物です!なっ、なんでも話します!俺たち団長に脅されててッ!!!」


「いや俺が!俺に話させてくれぇ!!!この女が悪いんだ!死にたくねぇよおおお!!!」


 吾先にと競う様に叫び出すチビとハゲ。ギルド員は呆気に取られている。

 どれだけカーリーから酷い扱いを受けてきたのだろうか。心中察するぜ。あのババアは短気だし人使いも荒そうだ。

 2人とも身体中に包帯が巻かれていてとても痛々しい。

 ハゲなんて右の掌から指が生えていなかった。本当に可哀想だな。


「こいつらが話してくれるってさ。カーリーの手下なんだがどうやら無理矢理加担させられていた様でな。逃げる時にもこいつらごと攻撃してきて…………やむ無く殺す事になった」


 上手くいかなかった時の為のスペアにと2人用意したが、どちらも良い仕事をしてくれそうだ。

 結構頑固だったが指の先からスライスしてやったら、すぐに心を開いてくれた。

 先に素直になった先着2名様と仲直りし、他2つ分のストックを処理した。

 それを眺めていた2人は泣いて喜んでたなぁ。


「奴の仲間か。尋問後話の裏取りが出来たら達成と認めよう」


「暫くは小まめに顔出すさ。あ、それと首から下と他の仲間は地中で寝てるから。座標と目印も伝えておくよ。……言っておくと先に武器を抜いたのはこいつらだからな。何人か見てただろうから、探せば目撃者もいるはずだぜ」


「そこまで疑ってないから心配しなくて良いよ。銀級だしな」


 銀級様々だな。初めてランクアップの実感が湧いたぜ。

 

 

「じゃあ後は頼んだ。コイツらもある意味被害者なんだ。お手柔らかに頼むよ。あんたが決める事じゃないだろうけどさ」


「協力的な姿勢を見せれば配慮はしてやれるさ。奴隷落ちは免れないだろうが」


「だってよ。わかってんな?」

 

「ヒッ、……はっ、はいっ!なんでも話します。本当にカイリさんのおかげです!!!」


「話すッ!話しますゥ!だから助けてくれぇ…………」


 うんうん、大変協力的な様子だし大丈夫だろう。

 そもそも自分の命が掛かっているからな。

 普通なら死罪だろうが逃げ道を作ってやった。場合によっては生き延びる道もあるだろう。俺に不利な発言もしないはずだ。

 三文芝居だったが海上ギルドの心象はなるべく良くしておきたいからな。

 まあ俺の手入れがバレた所で大した問題ではないが。


「よし、では君達のいずれかは小まめに顔を出してくれ。協力者だろう金髪の彼では達成印を押せないから気をつけてくれよ」


「あいよ。じゃあ頼むぜ」


「よろしくお願いします」


 ギルド員が呼んだ屈強な男たちに荷物を引き渡し、俺たちは海上ギルドを後にする。

 こういう場所は肩が凝るし落ち着かないな。


「ようやく終わったわね。ギルドの捜査資料を確認したり遠征して聞き込みしたり…………衣装用意したり。本当疲れたわ」


「もぐもぐ…………」


「現行犯でぶっ殺すのと訳が違うからなぁ。だがその分報酬も良いし評価も上がるはずだ」


 溜息が多いリン。新衣装が駄目になったのが相当堪えたらしい。あれはあれで綺麗だったけどな。赤と白で。今では酸化して酷い色してるけど。

 当然ながらリンは着替えていつもの故郷の衣装になっている。今日は深緑色だな。


「もぐもぐ…………」


「ところで彼ずっとイカの干物噛んでるけど…………」


「ああ、喋ると煩いし妙な事言われても困るからな。渡しといたんだ。おい、もうやめて良いぞ」


「もぐもぐ……ごくん。…………はー助かった。これ美味しいんだけど硬くて顎が痛くなるんだよね。味もしょっぱくて飽きやすいし。カイリがくれるオヤツはいつも変だよねぇ」


 乾物噛ませとけば静かになるからな。こいつと関わる上での必需品だ。


「よし!じゃあ呑みに行こうよ!道中で良さそうな店があったんだよね。依頼も成功したみたいだし景気良く行こう!ちょっとくらい呑みすぎても大丈夫だよね?」


 奢られる気満々のアベル。こいつは常に自分の都合の良い様に記憶を構築する天才なのだ。


「まあまて、俺のおすすめの店があるんだよ。海老は好きだっただろ?ちょっと値段は高めだが、アクアパレスでガーリックシュリンプを食うなら此処だって程の名店だ」


「おお!海老!!!」


「俺たちは冒険者ギルドに報告に行くから後で落ち合おう。部外者が同席するのも変な話だしな、わかるだろ?」


「わかる!!!」


「じゃあ中央広場の銅像の前で待ち合わせな。腹空かしとけよ?」


「空かしとく!!!」


 じゃ、待ってるね!と迅雷の速度で駆けていくアベル。

 速く走っても早く食べられるわけではないのだが。

 胃袋と脊髄で物を考えてる様な奴だからな。

 さて、馬鹿もいなくなった事だし。

 

「よし、今からタオさんとこで達成祝いだ!呑もうぜ!」


「途中からどういうつもりなのかわかったわ…………。良いけどタオさんは私にはお酒を出してくれないのよねぇ」


 だからタオさん所で呑むんすよ。

 料理も美味いしな。疲れた体にはあの店の酸味が恋しくなるぜ。

 あの馬鹿は30分もしたら忘れて買い食いでもしている事だろう。

 色んな意味で関わりたくはないものだ。


 (正直助かる。あいつ見ていると疲れんだよね…………)


 それわっかるぅ〜〜〜。

 

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