疾風迅雷
雨季が明け、日差しの熱さを肌で実感する様になった今日この頃。俺はアクアパレス東に位置する街道で人を待っていた。
街から距離も近く、昼前な事もあって人通りもそれなりに多い。
俺は木に寄り掛かり、木陰の中で水筒を口に運ぶ。
銀級になり2ヶ月がたった。
依頼はそこそこにこなしているが、前々からやってた事に報酬が付いてきたってくらいの感想しか湧かない。殺しは殺しなのである。
というかリンが予想以上に使え過ぎて俺は特に何もしていない。
俺が接近するより速く近付いてドスン!
俺が魔術を打つ前に近付いてバキッ!
俺がジュースを飲んでる間に近づいてグチャッ!
これなのである。
このままでは《ヒモ》のカイリになってしまう!
(事実だろそれは。というか最後のなんだよ。サボってるだけじゃんか)
やれやれ、どうやら今時の幽霊は水分補給の重要性も理解していないらしいな。
俺は呆れつつ再び水筒に口をつける。あっ、もう空やないかい。
まあいいか。待ち人も来たようだしな。
水筒から視線を戻すと、前方に冒険者らしき集団が一組。
談笑しながら歩いているが、各々一定の距離を空けており歩く速度も等速。
数は5人。先頭を頂点に1人置き、三角形を作るように左右に2人ずつ。奇襲に強い陣形だ。
リーダーらしき男が間抜け面で笑ってるが、視線はリズムカルに周囲を走査している。
なるほど。雑魚ではないな。
ではでは、いっちょ決めてやるとするか。
「やや!あなたはもしや伝説の冒険者!《鎌鼬》のラドック様ではありませんか!!!?」
「なんだてめえは?目障りなガキが、失せろ!」
俺の揉み手コミュニケーションに間髪入れず凄んでくる取り巻き(ハゲ)。
リーダーの男はさっきまでの馬鹿笑いから一転、無表情に黙っていた。
周りの仲間と比べ小柄な体型。長い髪を後ろに纏めている。目元の皺を見るに40手前くらいだろうか。
口元を大きく覆うヒゲがアンバランスに男らしい。
「僕は貴方の大ファンなんですよ〜〜〜。お声だけでも聞かせて頂けませんか?」
両膝をつき、上目遣いにお願いしてみる。
このおねだりに耐えられた奴は未だかつて存在しない。初めてやるけど。
「………………………………。」
「リーダーは機嫌が悪いんだ。斬られねえうちに退きやがれ!」
黙るリーダーとは対照的に怒鳴るハゲ。他のメンバーも殺気立っている。
「こんなにお願いしても駄目なんですかぁ?………………もしかして喋れない理由があるとか?」
「ッ!?」
「例えば………………実は貴方女性だったりして?」
「てめ」
「エアロ・ブラスト」
武器を抜こうとするハゲどもを圧縮空気で吹き飛ばす。
ビンゴだな。間違っていたとしてもギリギリ正当防衛だろう。
いきなりの破裂音に周囲の人々が逃げ惑う。転んで脚を挫いた貴婦人もいる。ごめんね。
さてトドメといこうと思ったらゴミの数が1匹足りない。
「――――シャア!」
「おっとっと」
背後からナイフによる刺突。予測していたので無理なく避ける。
「中々可愛い声をしてるじゃないかラドックさん………いや、賞金首《俊足》のカーリーちゃんよぉ」
「どうして分かったのさ?結構イケてる髭だったと思うけど?」
付け髭を剥がしナイフを構えるカーリー。こうしているとどう見ても女だ。
女が男に化けるのは難しい事ではない。声以外はな。
「もっと立派な髭面に御縁があったからなぁ。まあアンタらの遠征先と強盗事件の発生場所が噛み合い過ぎなんだよ。性別誤魔化せばバレないとでも思ったのか?安直だぜクソババア」
「ばっ!?」
「大体公に活動する方を変装にしてどうすんだ。後先考えろよお婆さん」
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!こっちが本業なんだよクソガキぃ!!!!」
カーリーは攻撃姿勢を継続しつつも接近してこない。
さっき見せた魔術を警戒しているんだろう。
ならご自慢の俊足で逃げればいいのに、怒りがかち合って身動きが取れない模様。ならば次はどうするか。
「………………ははっ!」
「きゃーーーーー!」
カーリーは躓いている赤髪の貴婦人に跳び寄り、後ろから羽交締めにした。人質のつもりらしい。
「ガキィ!この女の命が惜しかったら跪きなァ!!」
「やーめーてーー!」
何故クズはクズの癖に他人の善性は信じられるんだろう。
この女が俺のなんだというのか。それで俺が言う事に従うとでも思っているのか。
まあ実際その女は俺の知り合いなのだが。
「ははん?威勢が止まったね?これだから青臭いガキは楽なのさ!」
「ターーースケテーーーー!」
精一杯の名演を続ける貴婦人さん。
観るに耐えない演技だが役割は全うしたので良しとしよう。
奴の逃げ足の速さは有名だったからな。
元々は伏兵として挟撃する予定だったが、こちらの方が都合がいい。
このままリン諸共討伐してくれる。
大根役者の癖に散々人の演技に文句つけていたのもムカついたので諸共成敗してくれる。
元々チャンスがあれば巻き込みを気にせず殺るように言われているので罪悪感無し!
(罪悪感の意味知ってる?感じた事ある?)
意味くらい知ってますー。まあそう言うわけでくらえや。
俺は大気に魔力を浸透させ魔術を―――――
「――――その手を離せ、小悪党」
「なッ!?」
「え?」
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!?」
(うわ……)
瞬きの間に、男がカーリーの眼前に立っていた。
「東に悪党いらば撫で斬りに!西に魔獣いらば微塵切り!この世に悪に栄える華は無し!!!」
金髪のマッシュヘア。爛々と光る蒼眼。
錆色の騎士鎧は故郷の騎士団から脱退する時に盗んだもの。
そしてその姿には似合わぬ腰に差した東洋の大太刀。
奴の名前は――――、
「流離の無職!《疾風迅雷》のアベル。――――ここに見参!!!あっ、この場合は撫で斬りになるよ!今僕は西から来たから!!!」
馬鹿だ。
俺が知る限りかなり上位の馬鹿。
しかしかなり上位に強い馬鹿でもある。
大太刀を抜き天に向けてポージングしてる。
馬鹿だ。
馬鹿だが刀を抜いたならもう終わりだ。
「チッ!新手だろうがこっちには人質がいるんだ!アンタも跪きな!!!まさか騎士様が見殺しになんかしないよねぇ!?」
普通に考えて人質なんて袋小路なのにな。色々と気付かないままイキるカーリー。
「これでいい!?」
「「は?」」
「クッ……なんと言う屈辱的なポーズ。鎧姿のままやると腰の未来が心配になる…………!」
一瞬で納刀し五体投地の姿勢をとるアベル。あまりの速さに呆然とするカーリー。リンまで呆気に取られている。
「次は!?次は何をすれば良い!!?腕立て!?このまま腕立て伏せしようか!!!?」
「…………なんだい、馬鹿が1人増えただけかい?おら!そこのガキもはやくしな!!!」
助太刀が機能せずに調子が戻るカーリー。
だかそれを心配そうにアベルが腕立て伏せをしながら見つめる。
「あの…………そんなに動くと落ちるよ?」
「落ちるって何がだ!?馬鹿は黙ってな!!!」
「何って、首がだけど」
「は?」
ゴトッと重いものが落ちる音ともに激しい噴出音が響き渡る。
自分の終わりにすら気付かずにカーリーは死んだ。
アベルが刀を抜く時は獲物を斬る時だけだ。
悪戯に刃を見せる事はせず、抜かれたなら既に斬撃は終わっている。
「ふっ…………また一つ悪の芽を摘んでしまった。ふっ、お嬢さん、礼には及びませんよふっ、」
この馬鹿はいつまで筋トレ続ける気なんだろう。
対するお嬢さんは新品の白いデイ・ドレスが血に汚れて泣きそうになってる。
「あれあれ!?そこにいるのは我が刎頸の友のカイリでは?」
「…………よう久しぶり。相変わらず重そうな鎧と軽そうな頭してんな」
「暫くぶりだね!いや〜また会えて嬉しいよ!」
腕立て伏せから起き上がりサムズアップをするアベル。
大変遺憾ながら知り合いなのである。これと。
《疾風迅雷》のアベル。
これは自称ではなく奴の故郷で付けられた二つ名だ。
その名の通りの速過ぎる剣速を由来としている。
奴の大太刀に首を斬られれば、痛みすら知らずにその生を終える。比喩では無く本当に斬られた感覚すら無いのだ。
何故俺が詳細に分かるのか。
それは俺が奴に殺されたからに他ならない。
俺の【ギフト】は死体の記憶を読む。
主に他殺体を対象に使っているが、死体を作るのはなにも悪党だけではない。
俺が読んだ悪党の首をこいつが刎ねたというだけ。
もちろん殺された恨みはある。
あるのだが、あまりにも綺麗に首を斬られたものだから痛みはおろか殺された実感すら薄かった。
現に死体さんも最後まで斬られた事に気付かなかったようだし。
「会って早々で悪いんだけどお金貸してくんない?いやー3日くらい水と葉っぱしか食べてなくてさ、そろそろ限界だったんだ。カイリに会えて良かったよーーー!適当に魔獣捌いてお金作るから待っててね!!!」
「俺が貸す前提で話進めんな馬鹿」
「へへ、ありがとう。カイリは本当に優しいなぁ」
俺が弾いた銀貨を掴むアベル。チッ、額に当てるつもりだったのに。
「えっと……知り合いなのかしら?」
気を持ち直したリンがおどおどと尋ねてくる。
分かるよ。知り合いの知り合い程微妙な関係ないよね。
「あいや、僕とした事が挨拶もせずにごめんなさい!僕の名前はアベル!カイリとは無職仲間です!どうぞよろしく!!!」
「知り合いなのは確かだけどね……無職じゃないの知ってるよね……?その蔑視線はやめようね……?」
俺は昔アベルの故郷でちょっとしたヘマをした。
その時こいつに助けられ、借りが出来てしまったのだ。
以来恨みと借りがまぜまぜになってしまい複雑な感じ。
「そんな堂々とした無職には初めてあうわね……。リンよ」
「無職でしか護れない光があるのさ!」
格好つけて馬鹿を言っているが、悔しい事に本当に格好いい。
元々は人々を護るべく騎士団に所属していたアベル。
しかし団内の汚職や、命の優先順位、命令により身動きの取れない窮屈さに我慢できず出奔。
かと言って報酬やギルド等のしがらみに縛られる冒険者になる気もなく、無償で日夜人助けに勤しんでいる。
お金が無いのはそのせい。本当に馬鹿。
ちなみに騎士団を抜ける際、クズ上官をタコ殴りにして出て行った為に故郷では指名手配されている。
「カイリにこんな綺麗な知り合いがいたとはねぇ。もしかして出過ぎた事しちゃったかな?まあその辺も詳しく聞きたいし呑もうよ。奢るからさ!」
自信満々な笑顔で摘んだ銀貨を見せてくるアベル。
いやその銀貨俺が貸した物だし、3人で呑むにはお金足りないんじゃないかなぁ。
(私こいつ苦手なんだけど……)
それ僕もです。




