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ボーイ・ミーツ・ガール

残酷描写あり。とばしても問題ないです。

ミサトちゃんの異世界転移編(1話完結)



「――――――――――――ッ!!!!?」


 私は今刺されている。

 アイスピックでじっくり。念入りと。

 今は足背。そこから徐々に上に上にと昇っていく。

 アイスピックなんてここに来てはじめてみたから本物かわからないけれど。

 こうして使うものだなんてはじめて知った。


「ングゥ――――――――ッ!」


 必死に悲鳴を抑える。

 それはこの悪魔を喜ばせない様にとかそういう意地では無い。

 単にそうするのが一番苦痛が和らぐと学習したから。

 叫ぶのには体力を使うから。


「―――ッ!!〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」


 それなりに太い針なのに不思議と血は出ない。

 このふざけた世界にはなんと魔法があり、どんなに私が傷ついても一瞬で治ってしまう。

 だから終わる事なく延々と続く。

 

 今日はアイスピック。

 明日は焼いた鉄を押し付けられる。

 明後日はひたすら殴られる。

 明々後日は切り刻まれる。その次は水。縄。虫。


 ちょうど7回で繰り返されるから、

 この世界にも曜日の概念があるのかなと馬鹿みたいな事を考えた。

 焼いた鉄は火曜日としたから今日はげつようび。


「ン゙〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 右腕のブレスレットを見て正気を保つ。

 合成樹脂の宝石のついた只のおもちゃ。お父さんからのプレゼント。形見。


 

 学校帰りに気がつけば変な世界にいた。

 それがはじまり。

 ゲームやアニメみたいな格好の人々がいて、街の屋台では見た事のないフルーツなんか売られたりして。

 わくわくしたのも束の間。

 酷い眠気に襲われ、目が覚めたら暗い部屋のベッドで寝かされていた。

 硬い石で出来たベッド。ベルトで四肢を縛られていた。


 驚きや恐怖より先に納得がきた。ファンタジーみたいな世界よりはこちらの方が現実味があったから。

 さっきまでの事は夢だったのだろうと。

 そうでは無いと思い直したのは部屋にあいつが入ってきたからだ。


 ()()()姿()()()()


 肩から足首まで隠す様なゆったりとした白いローブ。

 それにより身体のラインが分からないが身長は高い。

 首にはネックレス。金属製の装飾品がジャラジャラと連なっている。

 そして顔は胎児が描かれた仮面で隠れていた。


 非現実めいたその姿に、私は未だに地続きで異界にいるのだと確信してしまった。


「――――――――――――」


 多分挨拶をされたのだと思う。虫の羽音の様な不気味な音で聞き取れなかった。そもそも言葉もわからない。

 でもお辞儀をしてくれたので、私も「こんばんわ」なんて呑気に応えていた気がする。


 それからあいつの遊びが始まった。

 初めのうちは子供の様に泣き叫んだ。

 泣いて許しを乞うても、怒鳴り散らしても、媚びてみても。あいつの手は止まらなかった。

 全く感情も感じさせず、機械的に私を苦しめていた。

 何の反応も見せない事が一番怖かった。


 

 食事はいつも肉と水が出た。ソフトキャンディみたいな食感で何の肉か分からない。微かに塩気があった。

 水もこれまたよく分からない。酸っぱい臭いがするのに味はしない。

 躊躇したのは最初だけ。空腹は最高の調味料なんて何処かで聞いたけれどその通りだなと思った。



 排泄については思い出したくない。



 そんな生活が半年程続いた。

 仮面の悪魔は、毎日甲斐甲斐しく私を壊しにやってくる。

 痛みも恨みも悲しみも殺意も恐怖も。

 ごちゃ混ぜに鍋にぶち込んで煮詰めた様な何かが、私の中に蓄積していった。

 ストックホルム症候群なんて幻だという結論に至りました。


 さて今日の作業もこれでおしまい。

 穴だらけの私の身体を魔法で癒して元通り。男が一礼して退室するまでが日常です。


 だが今日はいつもと違った。


「――――――――。」


 男のため息が多い。思えば拷問も早いし雑だ。子供が嫌な宿題を足早に終わらせる様な印象。

 そして傷だらけの私に対し背を向けると、扉のドアに手を掛けた。


「嗚呼――――――――、()()()()



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 私の視界が真っ赤に染まった。頭の中から憎悪以外の感情が消えた。

 飽きただと?飽きたと言ったのか!?あんなに私を壊しておいて!!!!!


「ぉぉあしえやう!」


 久々に口から言葉を発する。上手く声が出せない。


「ぉして―――やる!」


 男が振り返る。人相どころか表情もわからない。でも関係ない。必ず報いを受けさせてやる。

 その気味の悪い仮面をかち割り顔面に刃を突き立ててやる!!!


「おおしえやるおおしえやんおおしえおおすおおすおおうおほうこおすおさこおうこおうろす殺す!!!!!」


 男が近づいてくる。言葉もなく、足音もなく。

 そうして私の頭を撫で、


「――――楽しみだ」


 そのまま片手で私の頭を掴み、

 

 ぐしゃり。

 

 酷く他人事の様な感覚で私はその音を聞いた。







 気が付くと私は私ではなくなっていた。

 何故そう思ったのかというと、私の目の前に私がいるから。死体だけど。

 幽霊と呼べばいいのだろうか?通説みたいに壁を抜ける事も出来ずに閉じ込められたまま。

 そして酷く自己意識が希薄で曖昧。

 ふっと意識が途絶えたかと思ったらかなりの時間が経過していたりする。

 時間の感覚がわかるのは目の前の死体の腐敗状況から。

 自分の死体が朽ちていくのを生で見せられている。

 幽霊に臭いを感じる機能がなくて良かった。

 仮面への憎悪が死んでからも煮詰まっていく。





 ――――――雨が降っている。

 トントンと。優しい低音が断続的に響いている。

 雨音のおかげでここが地下室である事が分かった。

 もう1人の私は既に白い骨と床の染みになっている。

 体内ガスで膨らんで破裂した瞬間は傑作だった。

 あんなものは見たくなかった。


 

 ――――――――ドンッ!


 何かが落ちてきた音がした。雨風と虫の音以来の物音。

 そしてカツカツと規則的な音が、この部屋に近付いてくるのが聞こえてきた。

 

 ――――――足音だ。


 そう思った時には既に扉が開けられていた。

 10歳くらいの子供。長めの黒髪は雨に濡れていて、いまいち性別がわからない。

 その子は怖がる様子もなく、じっと私の骸を見つめている。


 嗚呼、なんか恥ずかしいな。


 私の中で、久しぶりに人間らしい感情が生まれた。

 それがカイリとの出会いだった。

 


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