そういえば銀級審査でしたね
こうして俺は巨悪の秘密を暴き、被害者の無念を晴らすべく正義の鉄槌を下したのだった。
やれやれ、ようやく肩の荷が降りた気分だぜ。
目の前には燃え滓に転職されたロンゾ君。
中毒症状に苦しんでいるエキストラの皆さん。
骨折の痛みに苦しんでいるエキストラの皆さん。
「ふっ…………、平和の芽吹きを感じるな」
(いや何処が平和だよ地獄絵図だろうが。無駄にやり過ぎなんだよ)
だってだって?本当に熱かったんだよ?あんな殺され方したら張り切っちゃうのもしょうがなくない?
(だからお前は殺されてないだろうが。何回このやりとりすればいいんだよ)
そんなもん知るか。
しかし溌剌な気分だ。ギフトで死体の記憶を見てからというもの、ロンゾの野郎を殺したくって堪らなかったからな。
我ながらよく我慢したものだ。
結局墓の下の死体は冒険者だったってオチ。
死体の処分なら墓が一番だからね。
「ところで大丈夫なの?外から見たら村を襲った冒険者に見えないかしら?」
いっぱい殴る蹴る出来て冷静になったのか、焦った様にリンが尋ねる。
それは大丈夫だろう。なんせ、
「私が見てましたから大丈夫ですよ」
「えっ?」
振り返ると銀髪の麗人、カサンドラが現れた。
リンは目を丸くして驚いている。
まあ知らなかったらそうなるわな。
「驚かせてすみません。――――確保を」
カサンドラの声に合わせて三人の男が現れる。
三日ぶりだね。元気でしたか?
カサンドラの力で隠れていたのだろうな。
内二人が村人の拘束に動く。
「なるほど。単騎で動いてるとは思わなかったがそういう事だったか」
「リチャードさん達も!?」
「二人ともお疲れ様!いやぁ騙す様な事になって悪ぃね!!!」
謝罪の言葉とは裏腹に、サムズアップで登場するリチャードさん。
そんな中ジョンソンブラザーズが、寡黙にテキパキと村人を縛っている。
「え?どう言う事?えっ?ええええ?」
情報処理しきれずリンの混乱が加速する。崩れてる崩れてる。キャラが。
仕方がない。説明してやるか。
「要するに今回の特別依頼自体フェイクなんだよ。村の秘密を暴く為の囮だったってわけ。俺たちがあくせく働いている間に、このお姉さん達が全部調べてたって事」
昨夜に、カサンドラからあらかたの話は聞いた。
事の発覚はロンゾの家の女中からだったそうだ。
罪悪感から冒険者を助けようとして失敗。ロンゾに折檻の上監禁されたが、その後命懸けで脱出し成功。
村の外で、偶々通りかかった馬車に救助されたらしい。
女中の証言だけでは証拠足りえない為、今回の捜査が行なわれた。
だからあの時、ロンゾは焦っていたという事だな。
ともかくそれを聞いた俺は義憤に駆られ、協力を申し出たってわけ。
報酬も良かったしな。
しかし全くふざけた話だ。何が俺たち向けの依頼だよ。
確かにそのとおり過ぎるけどさ。
まーやる事はいつもと変わらない。美味しい餌の振りをするだけだったが。
「えと……頭が追いつかないわ。ならもしかして視線の正体は?」
「我々三人の物です。こちらの事情で危険に晒すわけですから、護衛のつもりでもありました。カイリさんは最初から気付いていたみたいですけどね」
まて、それは俺に飛び火する予感。
「…………気づいてたの?」
「いやっ、護衛とは思わなかったんだよ?でもほらこの依頼って審査だしな?審査官さんの視線かなって思ってさ。でも確証は無かったから話せなかったんだよ。だから言える範囲で、あの時は油断しちゃダメだぞって発破をかけたっていうか…………」
視線が…………視線が痛い…………。誰かな?俺を見ているのは…………?
「戦闘時の立ち回りを見てからは、護衛の必要無しと判断しましたが。あっ、ちなみにサンドワームに逃げられたってのは嘘です。ばっちり倒してましたよこの人。ビリビリビリドッカーンって。リンさんが気絶したのもその余波です」
ばっ!それはヤバ………………!
(因果応報だね)
「…………………色々と話し合う必要があるわね、私達」
美人の無表情って凄く怖い。
カサンドラを見ると舌を出しながら中指立ててる。そっちが素の性格ですか。
墓場で虐めたのが余程ムカついていたらしい。
「でもそれじゃあ、私が毒入りごはんを食べるのも見てたって事………?」
懐疑的な目でカサンドラを見るリン。
あ、それもヤバ。
「流石に服毒させられようとしたなら止めますよ。でもカイリさんがこのまま見ておけって言うので…………」
なんとカサンドラ女史は村民に化けてあの場に居たのである!
だがロンゾ君ロースト作戦を邪魔されたく無かった俺は釘を刺したのだった!
「………………………………カイリ」
逃げようとした後ろからリンに肩を組まれる。やだ…………強引なんだから!キュン!
って違うそのまま首絞めに入ってる!これ目玉がギュン!ってなる奴!
「いや、あの。ほら、お前顔に出そうだし何も言わない方がリアリティあるかなって。それにお前なら(死んでも)大丈夫じゃん?というか俺がここ来て一切飯食わなかった事で察せるくないか?冷静に考えたらバカスカ美味そうにスープ飲んでたお前が悪グェッ!」
やめて!色々出ちゃうから!
そうこうしてる内に捕縛が終わった。
半死半生の様な物だったからな。手間も無い。
犯行に加わった者が明確で無い為、捜査が終わるまでは、他の村民にも村から出ないよう厳命するらしい。
村ぐるみの犯行だろうがな。だが村から逃げたとしても、どのみち生きてはいけないだろう。
逃げられるとも思えないが。
昨日の時点でギルドに報告したらしく、明日にはギルドと憲兵の合同捜査が始まるらしい。
どうやって連絡したのかは秘密との事だが、予想はついている。
カサンドラの能力は幻影。おそらくギフトだ。
個人にかける幻影ではなく、空間に作用するタイプ。
それを応用したと見ている。
目視出来ない程の長距離で発動出来るとは考え難いが、あらかじめ作った幻影の保持は可能かもしれない。
そしてそれを任意で消す事が出来れば、簡単な合図くらいは送れるだろう。
あくまで推測だがね。
「さて審査の結果ですが」
カサンドラが眼鏡の縁に触れ位置を整える。
え?今から?ここでやるの?
リンの表情が緊張でかちんこちんに。
やめて!うちの子もういっぱいっぱいなの!今日は休ませてあげて!!!
「依頼主への言葉遣いも悪く態度もぶっきらぼう。万全を期す為とはいえ仲間の犠牲を前提とした作戦。仲間への虚偽の報告。夜警の交代前に無駄に相手を脅す言動。私に対するウザ絡み。犯行に加わった人物の範囲が定まらないまま多数の容疑者への毒物混入。蘇生の為とはいえ残虐な方法での仲間の殺害。重要参考人の私的感情での焼殺…………などなど」
あれ?なんかぼくの事ばかりじゃない?
私的感情指摘しておいて、自分の私的感情も混ざっとりますけど?
「どう見ても不合格…………ですが、ロンゾの殺害は命を狙われた正当な反撃とも言えますし、自供を引き出しても頂けました。そもそもの依頼のサンドワーム討伐については申し分有りません。それを考慮して合格という事に致しましょう」
「……………………良かったぁ」
「まー妥当だな」
余程疲れているのかリンの言葉が砕け気味。
油断してると偶に出る。こっちが元々の口調なのかな。
しかしまた一歩前進だ。ギルドの中核にここまで見せたんだ。
銀級に昇格したてでも、大きい依頼の認可は降りやすいだろう。
ロンゾを燃やした手が震える。
あれは良かった。
形取られた殺意が相手に刺さる感触。
苦痛に惑う仇を眺める愉悦。
殺した瞬間の怨恨が消えていく解放感。
復讐の後はいつも、酷く許された様な感じがする。
自分をがちがちに縛る何かがほどける様な――――虚妄かこれは。
仮面を殺したら終わるのだろうか。
終わってしまうのだろうか?
……………………今は考えるべき事ではない。
得体の知れない感情は胸にしまい、今は余韻に浸ろう。
その時になればわかる事だからな。




