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「移り気」「心変わり」「無常」


 日が西へ僅かに傾いた頃、ようやくオルテ村が見えてきた。

 村からの距離も近いので休息と作戦相談の為に一度戻る事になったのだ。

 真実はどうあれ、魔獣には逃げられた事になっているからな。

 


「思ったより早く着いたわね」


「まあ一度通った道だしな。斜面でもたつく様な事もないし」


 行きとは違い帰りは道を知っている為、脳の処理負担が減り時間が短く感じるらしい。帰路現象というのだとか。

 だがそんな現象関係なく、冒険者の我らは物理的に早く帰れたのでした。重力万歳。フィジカル万歳。


 そうして村に着くと、見事に咲き誇るオルテンシアの秀麗な景色が俺たちを迎えてくれた。


「何度見てもここの花は綺麗ね。言っては悪いけど、この村にはあまり似つかわしくないわ」


「そうかな?オルテンシアだって単に綺麗なだけの花じゃないぞ。オルテンシアの大きな葉はカタツムリの絶好の隠れ家でな。その立派な葉の裏側には彼らの粘液や糞に塗れてたりする」


 そう言って枝を引き、リンに葉の裏側を見せてやる。

 うん。きらきらヌメヌメだね!


「あまり知りたくはなかったわ…………」

 

 顔を引き攣らせるリン。こういうの苦手か。

 まあ何事も裏側はどうなってるか分からないって事だな。


 それにそもそもの話。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 天然の花畑を抜けると、その先には墓地墓石。行きの時も通ったな。

 改めて見ると石のサイズはまばらで形もチグハグ。

 まるで急拵えに作ったかの有様だ。


「彼女、今日もいるわね」


「いるなぁ。何してるんだろうな」


 昨日墓の前でしゃがんでいた女だ。

 昨日と全く同じ格好で、大事そうに花を抱えながら歩いている。

 アイビスの花か。長い一本の茎に薄桃色の花弁。それが鳥のアイビスの様に広がる事から名付けられた。

 花言葉は献身。献花にはぴったりの花だな。


「何って墓参りでしょ?昨日も祈っていたじゃない?」


「そういえばそうだったな」


 貴方って変な事ばかり言うわよね……と言わんばかりの呆れた視線を感じる。

 やれやれ、俺は誤解を受けやすい性格だからな。

 たまに辛くなるぜ。


 (お前を誤解する奴なんか餌にされた奴くらいだろ。《ウツボカズラ》の)


 不名誉なあだ名でバカにされる…………こういう所からイジメがはじまるんだね。

 せめて二つ名なら《ヴィーナス・フライトラップ》が良かった…………。


 (それも長いし大概な上にハエトリソウの事だけど?)


 ケッ、やだやだ賢い奴は。すーぐそうやって知識をひけらかして。でもヴィーナスフライトラップはやめておきます。


「こんにちは。今日も墓参りですか?」


 アホな会話してるうちにリンが話しかけていた。

 こいつ取っ付きにくいし人当たり悪そうなのに、ぐいぐい知らんやつに話しかけるよな。


「こんにちは。彼には良くして貰いましたので…………」


「冒険者の方と知り合いだったんですか?」


「ええ、まあ…………」


 話しながら件の墓の前まで歩く。

 他の墓と違って草が殆ど生えていない。

 墓掃除を頑張っているというより、出来立ての墓だな。

 土の上に小さく芽が出ている。


 女はアイビスの花を墓前に供え、立ったまま両掌を握り合わせる。そして一礼。黙祷。

 中々堂に入った動きだ。興味深い。

 心の底から死者を悼む気持ちを感じる。


 黙祷を終え、目を開ける。

 女は横で見ていた俺に気付き目を伏せた。


「その…………恥ずかしいです」


「すまないな。いや一つ気になっちゃってさー。聞いてもいい?」


 女が首肯する。そかそかなら遠慮なく。




 


「昨日と祈り方が違うのはなんで?」


「えっ?」


 


「昨日墓の前で座ってたじゃん?そういう祈り方なんじゃないの?だから俺もあの時真似したんだけど?」


「いや…………、あれは…………お墓に目線を合わせて…………お話する為で…………」


「目線ねぇ。目線は大事だよな。相手と頭一つ違ったら首痛くなりそうだもん。あんた小柄だしさ、俺と話してても首いたくなんない?」


「はい…………、実は少し、」


「おかしいな。こうして会話してて全く顎なんか上がってないけど?」


「いえっ、………………その」


「冗談だよ。俺たちにそれ程身長差ないだろ?揶揄っただけさ」


「…………………………。」


「邪魔して悪かったな。しかしアイビスの花ね。良い花を選んだな」


「アイビスの花言葉は献身――――――そして幻の愛」


「きちんとお供えできて良かったな。()()()()()()()()()()()()冒険者さんも喜ぶと思うぜ」


「それじゃあ――――ごゆっくり」



 





 ……………………………………………………。











 クソがぁッ!!!!!!!!!!



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