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視線の先は


「昨夜はよく寝たなぁ。まだ眠いけど」


 冷水で起き抜けの体を潤し覚醒を促す。

 本当に良い目覚めだ。

 ぼんやり景色を眺めながらそう思う。

 山から日差しが浅く顔を出している。

 陽光に照らされ彩る木々。

 

 美しい…………。人の手が入らないからこその芸術がそこにはあった。

 この光の中で目覚める事が出来たことに感謝しないとな。

 それもこれも誰かさんが夜警を真剣に頑張ってくれたからだなぁ。

 有難いなぁ。憧れちゃうなぁ。


「すぅ…………、すぅ…………」


 その誰かさんは俺が起きるなり敷き布を奪って眠っていった。すやぁ。

 うんうん、昨日は頑張ってくれたもんな。おかげで安心して眠れたし、少しくらい出発が遅くなっても良いだろう。


 (うっわ。白々し過ぎ。お前が安心して寝る為だけにこの子の不安を煽った癖に。よく言うわこのクズ」


 えーーー、だって俺は嘘言ってないしぃ?

 見られてるのも警戒が必要なのも事実ですしぃ?

 ちょーっと言うタイミングとワード選んだだけだしぃ?

 むしろ教えてあげた俺の方こそ感謝されて然るべきでは?

 そもそもリンの意識が戻るまでは俺が警戒してたしな。


 (昏倒させたのはお前だけどな)


 バレてないからセーーーーーフ。


 

 しかし中々尻尾を出さないな。

 リンに話した内容に嘘はないが言っていない事もある。


 ()()()()()()()()()()


 視線の対象は常に俺だった。

 村ではリンも気付きつつあった様だが、あいつ自身が見られていたわけではない。

 その違和感がリンを苛立たせていたんだろう。


 サンドワームの時にある程度見せてやったからな。

 ここで無防備になれば何かしら反応があると思ったが、今は気配すら感じない。

 リンも熟睡するわけだ。


 さてどうするかね。

 サンドワームは倒したが、何処までが依頼になるのか判断に迷うところだ。

 ジャーキーを齧りながら考える。

 硬ぇ…………。昨夜炙ったあと食べずに寝ちゃったからより硬くなってる…………。

 ゆっくり噛むか。顎が痛くなりそうだ…………でも美味い。

 

 元々ミサトのボディ様の為に用意している減塩ジャーキーだが、これはこれで気に入っている。

 もちろん味は薄いが、噛んでいるうちに段々と肉汁が溶け、甘さが口の中に滲んでくるのだ。

 肉本来の旨みを味わえる様な感じ。

 風術を使って乾燥しているから、燻した物と違って癖がなく優しい味わいだ。

 食べた後喉が渇きにくいから、旅先の食事としても食べやすい。

 それほど日持ちはしないが、作るのも手間じゃないからな。


 ジャーキーに気付いたのか、リンの腹の上で寝ていたボディ様が近寄ってくる。

 はいはい、こっちは硬いからな。別のを出してやるよ。


 (ダサいからそのボディ様っていうのやめない?彼には名前もあるんだけど)


 名前で呼ぶと情が移っちゃうでしょうが。


 (もう名前みたいなもんじゃん。頭撫でて説得力ないよ)


 知らん知らん。

 しかしリンは起きないな。気疲れだけでなく疲労もありそうだ。

 ………………待てよ?疲労って細胞ダメージへの脳からの警告じゃなかったっけ?

 それもダメージ扱いになるなら死ねば疲れも取れるのか?

 うーん気になるなぁ。聞けば教えてくれそうだけどなぁ。実証したい気持ちもあるが…………辞めとこう。

 嘘を重ねて疑われても仕方ないしな。

 大事なところで使えなくなったら困る。


 まあ疲労についての情報は復習しとくか。

 ミサト図鑑オープン!


 (オープンじゃない!下らない事で私の記憶を覗こうとするな!反吐が出る!!!そもそも人体については詳しくないんだよ!だから無意味な真似はやめろ!!!)


 君って人に興味なさそうだもんね…………。

 友達でもいたら良かったのにね…………。


(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!)


 華麗に地雷を踏みながら本を開く。

 流行りの恋愛小説だ。

 ちょっと値段は張ったが、文体が気に入っている為後悔はない。期待できそうだ。

 読後に売ればある程度回収出来るだろうしな。

 リンが起きるまで読書に興ずるとするか。

 ひたすら頭に響く呪詛には辟易するがもう慣れっこだ。


 

「んっ〜〜〜、悪いわね。休ませて貰っちゃって。視線はどう?朝には気配は消えていたけど」


「気にするな。日暮れまでに村に入れれば良い。ちなみにあれから気配は無いままだ」


 大きく伸びをしリンが起き上がる。

 良いシーンだったんだがな。続きは戻ってからだな。


「エクレール・ローズ?それって恋愛小説じゃない?意外だわ。そういうのに興味あるの?」


 敷き布を返してもらう時にタイトルが見えたらしい。

 知っていたか。リンも結構教養あるよな。さすお嬢。


「何でも読むよ。でも今回のは当たりだな。雷鳴騎士ブリットと薔薇を愛する少女エクレール。2人のエクレール(稲妻)の恋愛模様を書いた作品なんだけど、設定描写が凄まじく丁寧なんだ。舞台は300年前のガーランド王国。歴史考証がしっかりと行われていてね、異国の、しかも大昔の話なのに違和感なく頭に入ってくるんだ。王国はお前のとこのご近所さんな。ティンゼル王国。名前は架空の物だが、生活様式を見るにモデルにしたのは間違い無いだろう。主人公の髪の色も茜色だしな。お前と同じだ。エクレール・ローズというのは実際にある薔薇の一種で小さく可愛い緑色の花弁をしているんだが、ローズを連想させる為に髪を茜色にしたのかな?土地柄にも合っているし文字通り華がある。おっとストーリーにも触れないといけないな。言ってしまえばよくある身分違いの恋なんだが、さっき言った通り時代に忠実な設定でね。お前には分かると思うんだけど、当時身分の差はとても重かった。それこそ命がかかる程にな。そんな中愛し合う2人と、それに心を動かされた人達が身分を越え寄り添い合っていく。そんな話だ。エクレール・ローズって花はな、小さな花が寄り添う様に纏まって咲いているんだ。だから2人の話ではなくその実は2人を中心に身分を越えて信頼し合っていく人々の様を書いた作品なわけ。恋愛小説だって色眼鏡をかける人はちょっと勿体無いな。勿論恋愛要素も素晴らしくてな、ブリットが騎士の誓いとしてエクレールの手の甲に口付けをするシーンがあって、それがとっても切ないんだ。本当ならすぐさま抱き寄せキスをしたい。それが叶わない2人の精一杯を感じるんだ。だから――――」


「凄くいい作品ね。そろそろ行きましょう」


 (なげぇよ)



 

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