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切り札


  水面から飛び跳ねる魚の様にサンドワームが向かってくる。

 洞窟のような大口を開けこちらに突進。動きとしては蛇の跳躍に近い。

 こんな奴に喰われたら骨も残らないだろう。

 

 横に体を逃がそうと跳んだ瞬間、リンから体当たりを受けた。

 良い判断だ。勢いが乗りサンドワームの攻撃圏内から容易に脱出。受け身をとる。

 その一方でリンは俺を逃がした硬直で回避しきれない。

 体の芯は避けた様だが、衝突により左半身が抉られ逆時計回りに回転。

 遠心力も加わり、断面中から血液がポンプの様に噴射した。

 独楽のように動いたのち砂場に倒れこむ。

 それを後方にしサンドワームは再び砂の中に潜っていった。

 あらら、死んだか。だがすぐに蘇生が始まる。


 リンの【ギフト】は無限復活。所謂不死身だ。

 死亡したその瞬間から【ギフト】が発動する。

 バラバラになっている場合は、繋ぎ合わせる様に蘇生する。

 しかしパーツが遠く離れていたり、結合が不可能な状態であるならば、頭部を基点として体組織が生成され、他部分は世界から消失する。

 リン自身が自分と認識している姿で復活するらしく、服ごと復活するのはこの為だ。


 紛れもない反則技だが、その本領はここから。

 復活後100秒間は【ギフト】の発生契機となった攻撃を無効化できる。

 俺の切断魔術を弾く事が出来たのはこの為だ。

 どの攻撃がどの様に分類されるかは、流石に当たってみないと分からないらしい。

 

 だが、それで充分。最高の前衛だ。


「リンッ!プラン通りでいく!死ぬなよ!?」


「あなたの冗談は本当につまらないわねッ!」


 無事復活したリンを確認し、後方の離れた岩場の上に移動する。

 奴は直接俺たちの足元から攻撃しなかった。地中では探知能力に制限が掛かっている可能性がある。

 加えて砂の中の移動。体を振動させて、砂を流動化しているんだろう。先ほどの揺れはそのせいだ。

 リン()が砂場にいるのに岩場を優先して狙うとは考え難い。

 それに奴の出現には予兆がある。そこまで気を張り詰めなくてもいいだろう。


 呼吸を落ち着かせ視認した情報を整理する。

 ロンゾの言っていた通りの巨体。全長30mはありそうだ。

 体は赤く光っていた。多分赤熱だ。摂取した鉱物を表皮に吸収しているのかもしれない。

 あの熱量では接近戦は難しい。

 それに表皮も硬い事だろう。切断魔術では倒せないかもしれないな。

 ともあれまずは作戦通りに。リンの耐久性も確認したい。

 

 リンは服のスリットに手を入れ、忍ばせてある帯剣ベルトから4本の鉄杭を引き抜く。

 そして懐から小瓶を取り出し、中の液体を一本に振り掛けた。

 毒だな。俺とやった時も暗器と一緒に隠し持っていた。

 リンの能力なら所持していて当然。合理的だ。

 

 残りの杭をどうするのかと見ていると、それらを3方向に投げ、リンを中心に三角形を作る形で地面に突き刺さる。

 いつの間にかに指輪を嵌めていた様で、3本の手指と杭が糸で繋がり、それを張らせる様に腕を掲げている。

 …………なるほど。揺れから方向を割り出すつもりか。


 そして揺れがくる。

 リンは方向を察知したのか、指輪を外し左後方に振り返り毒杭を構える。

 その刹那サンドワームが出現。

 唸る様な低音と砂の雨音を上げ飛び出してくる。

 奴に声帯は無い。

 開いた口蓋から反響音がするだけだが、それが尚の事奴の不気味さを増していた。


 二度目の突進は獲物に当たる事はない。

 方向さえ分かれば避けるのは容易いだろう。リンは眼もいい。

 熱さに顔を顰めながらも避けるリン。

 擦れ違いに毒杭を奴の尾の先端に突き刺した。

 上手いな。一瞬で攻撃目標を選別したのか。

 さて何処まで毒が効くか。少しでも動きが止まれば御の字。

 すると奴は鞭の様に体をしならせた。その直後、


「なっ―――――――!?」

 

「自切しただとッ!?」


 自切。トカゲなどが外敵から逃げる為に行なう生存戦略。

 だがサンドワームが毒対策に自切するなんて聞いた事がない。

 再び砂中に潜航する姿を見て警戒度を上げる。


「ちょっと!今狙えたんじゃないの!?」


「悪い!お前に当たりそうで撃てなかった!」


 眺めていただけの俺に対して大声を上げるリン。

 もう少し観察していたかったんだがな。

 リンの耐性時間も終わるし潮時か。

 このまま悪戯にリンを攻撃させるのも非効率だしな。


 しかしあの様子じゃ切断じゃだめっぽいな。衝撃波も微妙だし、コインバレットじゃ文無しになっても倒せないだろう。

 はー。面倒だが大技行くか。

 あれって本当に疲れるから嫌なんだけどなぁ。リンの自己犠牲に免じましょう。


 ――――――――やるか。

 

 右腕を起点に空気を操作。空気中の物質を高速で回転、摩擦させる。

 さらにそれを圧縮。押し込められた空気が断熱圧縮を起こし、超高温に跳ね上がった。

 ジジジ……と不穏当な音ともに熱で空間が歪む。

 手元に青紫色の光球が出現し、中心からバチバチと無数の小規模雷光が発生する。

 

 っと。揺れてきたな。そろそろか。

 リンが緊張の面立ちで構えている。囮に徹したか。

 何回死んでも死ぬのは怖いよな。


 砂上のリンに腕を向け狙いを定める。

 餌がいるとやり易いね。今こそ俺たちのパートナーシップを見せるときだ。

 揺れが増大し、爆音と共に奴が現れる。その勢いで周囲に砂塵が巻き起こる。都合がいい。


 俺はリンに向け超高速の突風を放つ。リンが吹っ飛ぶが御相子という事で勘弁願いたい。

 突風により射線上の空気を弾き飛ばす。真空の砲身の出来上がりだ。

 俺は圧縮を加速。分子は限界を越え電子とイオンに別たれる。

 

「――――――――プラズマ・ドライヴ」


 超高圧のプラズマが炎色反応によって黄金と化し照射される。

 真空のルートを通り砂塵を通過。堆積岩由来の砂が連続的に発火し粉塵燃焼が起こる。

 鼓膜を揺さぶる爆発音と共に衝撃のキックバックを受け、俺は後方に弾き飛ばされた。受け身も取れず砂岩に背中を打ち付ける。

 

「――――――痛ッてぇ~~~!」


 背中痛いしオゾン臭で頭チカチカするし前髪焦げてるし超疲れるし!!!

 やるんじゃなかった!!!!!


 (…………何回見ても飽きれる。私の頭の中の知識だけどさ。何でプラズマなんか起こせんだよ。変態か)


ふははは。もっと褒めろ。だが褒め言葉に変態を使うのは辞めなさい。


 ダメージの確認をし体を起こす。煙で状況は見えない。

 だがま、プラズマと爆発のマリアージュだ。

 この火力を前に存在できる生物を俺は知らない。

 ヒゲを殺した時の術だが、さらに強度を増してある。

 1000回殺しても御釣りがくるだろう。

 念のため煙が晴れるのを待ってから、俺は着弾点に近づいた。

 


 うーん、黒焦げボロボロぐちゃぐちゃ。

 さっきまで見えてた岩とかそこらも見当たらず。所々が火の海に。

 飛散した黒い肉片のような物があちこちに散乱。

 これって討伐の証拠になるのかなー?まあ大丈夫だろ。多分。

 とりあえず酸素を飛ばし消火する。山火事は洒落にならん。


 ところでリンは何処にいったの?ちゃんと死ねた?蘇生出来た?

 起こした突風の延長線を歩くと、岩場の陰に脱力したリンを発見した。

 

 Oh……、全身打撲して気絶してる。

 やっぱ俺のせいかな?謝ったら許してくれるかな?

 今すぐ殺したらダメージ回復してノーカンにならんか?

 まあ死ぬのはいつでも出来るだろうし、一先ずは介抱してやるか。


 俺はリンを背に担いで森に向かう。この環境で休ませる事は出来ないだろう。

 野宿の準備を一人でするのは嫌だなぁ。

 しかしこいつの体柔らかいな。重いけど。

 でも歩いて揺れる度に、忍ばせてある暗器が体に当たって痛い。

 剥いてから運べばよかった。

 でも柔らかい。重い。


 (私の頭に女体の感想ラジオ垂れ流すの辞めてくれない?知能が変態に汚染されそうなんだけど?)


 あー爆発音で鼓膜がアレしてきこえないなー。


 (ちなみに褒め言葉じゃないからな)


 きーこーえーなーいー。

 


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