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サンドワーム


 その後、情報を聴取した俺たちはそのままロンゾの家に泊まった。

 魔獣以外でも山は危険が多い。岩山となれば更にな。

 移動の疲れもあるし、慎重に越した事はない。

 出来れば趣味の悪いこの家に泊まりたくは無かったが仕方ない。

 今は雨季だ。屋根があるのに野宿する馬鹿はいない。

 

「明日の計画を立てましょうか」


「ほうはな。ひょうほうほへいりふるは」


「そのジャーキーを食べてからでいいわよ…………」


 呆れ半分文句半分の目で見られる俺。

 すまんな。腹が減ってはなんとやらだ。

 程々に噛んで飲み込み、手に持った残りを子猫ちゃんに分けてやる。

 俺の手作りよ。たんとお食べ。

 羨ましそうに見るリン。どっちに対してだい?


「じゃあ情報を整理するか」


 獲物はサンドワーム。

 触手の生えた大きな口に長い体。馬鹿でかい縦長のイソギンチャクを想像すればそれで大体合ってる。

 目は無いが特殊な器官があり、それで魔力と鉱物を察知して喰らう。人間も魔力を有するから当然捕食対象だ。

 地属性の魔力を帯びていて名前の通り砂を好む。

 この湿地めいた土地じゃ居処の選択肢もそう多くはない。見つけるのはそう難しくないだろう。


「あの人の話は要領得ないし、実際見てみないと判断出来ないわね」


 ロンゾの話は壮大な上曖昧。無駄な比喩が入っており誇張もあるだろう。具体性に欠けた。

 まあ素人の話はそんなもんだが。


「デカい事と赤い事くらいしか分からなかったな」


 あれで村長(仮)が務まるんだからお金の力ってスゲー。


「セオリー通りに行きましょう。何人も冒険者が死んでるわけだから普通のサンドワームじゃ無いんでしょうけど」


「だな。リンが(喰われながら)注意をひいてる間に俺が魔術をぶち込むと」


「何か変な事考えてない…………?」


 勘の良い美人は好きだよ。


「どの魔術でいこうかと思ってな。ま、切断魔術でいいだろ」


 ばさっと割っちまえば何かしらの臓器との連絡も途絶えるだろう。


「あれね……。凄く痛いのよね……」


 俺とのファーストデスを思い出したのか縮こまるリン。

 痛そうだよねぇあれ。


「にゃおぅ?」


 子猫様が慰めるようにリンの膝の上に登る。

 頭を撫でてやるリン。頬が緩んでますな。

 ちなみに現在は純度100%の子猫ちゃんである。毒電波の受信はない模様。

 

 あのバカは拗ねたのか村に入ってから一切声を上げない。

 今日はよく眠れそうだな。


「それじゃ、そろそろ寝るとするかね」


「ええ、明日もよろしく。おやすみなさい」





 ……………………………………。


 

 ――――――まだか?


 ――――――まだだ。




「あーねみぃ」


 眠い目を擦りながらジャーキーを頬張る。

 朝ジャーキー!これがねえと朝は始まらねえぜ!!!


「おはよ。またジャーキー?よく飽きないわね」

 

 もぐもぐしているとリンが現れる。

 水場を借りたのか髪が湿っている。

 女の子だもんね。


「正直飽きてます……」


「よくやるわ……」



 さて、挨拶もたけなわに身支度を済ませ出発する。

 北方の岩山に向かって進む。村の中ですら高低差がそこそこあり、坂道が続く。

 土の感触も柔らかく地味に体力を使いそうだ。

そろそろ村の敷地を出ようかという所で、石が等間隔で並んでいるのを発見する。


 ――――墓地か。

 すぐに分かったのは墓石を前に祈っている人がいたから。

 

「こんにちは。俺も祈らせて貰っていいかい?」


 ガバッと振り返り驚愕する女。その後驚愕から警戒へ。

 いきなり知らん余所者に話しかけられちゃあな。俺でもそうなる。

 歳はまだ10代か?表情は硬いが顔立ちは整っている。

 例に漏れず痩せてはいるものの、他と比べてではあるが身綺麗だ。

 髪も長めで、ちゃんと手入れもされている様子。


「こんにちは……、えと、どうぞ……」


 俺は片膝を立て両手を握りしめる。

 適当だがこの村に教養なんて無いだろう。

 それなりに見えていれば十分だ。

 横目にリンを見ると掌を合わせ、そのまま2回深くお辞儀をしている。

 俺もそれ真似すれば良かったな。膝が汚れずに済んだ。


「どなたのお墓なんですか?」


 自然に切り込んでくるリン。仕事が出来る相棒で嬉しいぜ。

 もっとも純粋な気持ちなんだろうが。


「……冒険者の方が埋葬されています。村のために亡くなられたので」


「ほー、律儀だねぇ」


 冒険者なんて死ぬ時はロクな死に方はしない。

 墓の下で眠れるのなら悪くは無いな。




 6時間ほど進み森を抜ける。ようやく岩山が見えてきた。

 いくつか野宿しやすい場所を見つけたが、出来るだけ早く済ませてしまいたいものだ。

 今は日差しが強いが山の天気は崩れやすいからな。


「しかし暑いわね。肌を刺すような感じは苦手だわ」


 村の中も暑かったが、湿度も高かったのでこことは違う感じだ。

 俺はカラッとした暑さの方がマシだがね。

 ともあれ直前に涼しい森の中にいたからか余計にキツく思える。

 足の下の感触も柔らかい土から、サラサラとした砂へ変わっており、これはこれで歩くのに体力を要する。


 先程まで樹々に囲まれていたからか違和感が強い。

 ほんの少しの時間で、全く別の世界へ迷い込んでしまったみたいだ。

 禿げた岩山は層が積み重なり、縞模様を作っていて異様な感じ。

 砂も斑らに黒が混じり気持ち悪い。


「…………妙じゃない?どんどん気温が上がっているのは気のせいかしら?」


「確かにな。お前もそう思うか?」

 

 日の位置も俺たちの場所も大して変わっていない。

 なのにこの瞬間にも暑さが増している。

 俺だけではなくリンも感じていると言う事は…………。


「――――――――ッ!」

 

「地震かッ!?」


 いきなりの揺れに足の力を軽く抜き対応する。

 山の上だ。揺れる事は珍しくも無いが――――。


 (…………特徴から考えるとここは堆積岩の山だ。活火山の可能性もないわけじゃないけど――――)


 俺の嫌な予感をミサトが補足する。

 ――――つまるところは。


「ご対面ってわけだな……!」


「なッ!?」


 大量の砂の濤声と共に、サンドワームの巨大な口盤が俺たちに襲いかかってきた。



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