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賢者様の小間使い  作者: 玉雪 芙泉
第1章 城塞都市エオドール

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6話 旅の目的


 ゼイドがこめかみを押さえている間にアロイスは荷馬車へと移動し、荷台に入ろうとしていた。


「待て。俺が確認する」


 そんなアロイスをゼイドが止める。

何か見落としたり壊してこの後の処理に支障をきたすとまずいからだ。


 そして、すんなりと身を引いたアロイスを横目にゼイドが荷台の捜索をはじめた。

荷台に積まれたカゴはすべて証言通りの薬草だが、


「二重底か」


 荷台はかなり古い木でできているのに、底だけが古木に似せてはいるものの、まだ真新しい木材が使われている。

ゼイドが雑な隠蔽だなと思いながら底板を外すと、そこには小さな檻が5つ。

中に入っていたのは、すべて魔獣の幼体だった。

岩窟熊(クルンデルベラ)が2体と一角兎(ホルンハラ)が3体。

 ただのEランク任務のはずがとんだ厄介ごとが舞い込んできやがった。


 一通り確認をすませたゼイドが荷台からおりると、捨て置いていた護衛たちも全員拘束魔法で一カ所にまとめられていた。

手際のいい奴らだと思いながら、ゼイドは項垂れ座り込む商人の前に立つ。


「随分と大胆なことをしでかしたな。

 城塞都市エオドールに幼体といえど生きた魔獣を故意に持ち込むなんざ、懲役50年、いや終身刑でもおかしくない。

 この魔獣のせいで怪我人でも出た日には実行犯だけでなく、親族ともども連座もありえる」

「家族は関係ありません!!!私が、愚かな私が勝手にやったことなのです…!」


 必死に言い募る商人にゼイドは、はぁと大きなため息を吐いた。


「本当に愚かな奴だな。あんな雑な二重底で検問を突破できるとでも思ったのか?

 俺らに出会わさなくとも検問所でしょっ引かれただろうぜ」

 

 唇を噛み俯く商人にゼイドはもう一度ため息を吐いた。

さて、この状況どうしたもんか…

 

「あの検問所なら突破できるだろう」

「あ゛?」


 わずかに眉根を寄せ、冷酷な光を目に宿したアロイスが口を開いた。


「この近くの検問所では、金さえ出せば荷台の中を確認せず通していた。」

「はあ゛ぁ!?なんだその話は…!!?」


 突然の暴露にゼイドが激昂するが、いや待てと頭の中で呟く。

なぜそんな話を今日エオドールに来たばかりのこいつが知ってんだ。

知る機会があるとすれば─────


「おい、まさかお前らも袖の下握らせて門の中に入ったとか言わねぇよな?」

「俺たちは荷物のチェックを受けた。」

「おい、答えになってねぇが?んならなんで金次第で荷台が調べられないなんてこと知ってんだよ」

「俺たちの前に検問を受けた奴らのやり取りを耳にしただけだ。」


 涼しい顔で答えるアロイスにさらにゼイドが詰問する。


「あそこは前の団体の検問がすむまで外で待たされんだろうが。

 そんなやり取り聞こえるはずが…いや、そういえばそっちのガキも眠り薬のことや魔獣の数までにおいで当ててたな。

 獣人族の特徴はねぇが、獣人の血が混じってんのか?」

「いえ、私は魔法で嗅覚を強化していたんです。」


 剣吞なゼイドとアロイスのやり取りにあわあわと狼狽えていたクロシェがキョトンと目を丸くし、そう答える。


 なぜそんな当たり前のことを?と顔にでっかく書いていやがるが、何言ってんだこいつ。

そんな思いを胸にゼイドは口を開いた。


「魔法で嗅覚を強化?そんな魔法があんのか?」

「え?はい、といっても身体強化を鼻に集中させているだけですが…」


 クロシェの答えに今度はゼイドが目を丸くした。

 ()()とクロシェは簡単なことのように言うが、本来身体強化魔法は生命エネルギーである魔力を全身に一定以上巡らせ、身体の機能を強化する魔法だ。

それを一カ所に集中するだなんて芸当は聞いたことがない。

だが、確かに身体の機能を強化するなら、特定の部位に魔力を集中させるのは戦闘でも役立つし、理にかなった方法だ。

 しかし、"いや、ありえない"とゼイドは脳内で否定する。

本来、身体強化の魔法は体内の魔力庫の蛇口を思いっきりひねって体に巡る魔力量を一気に増やすようなものだ。

意図的に体内に巡る魔力を操作する術ではない。

それはもはや高度な回復魔法の技術に近いだろう。

回復魔法が使えるのはさっきこの目で見たどころか体感したわけだが、そんなことまでできるとは、


「器用な奴らだ。」

「ありがとうございます!あ、でも兄は魔法ではなく普通に耳がとてもいいんです!

 なので2人で外に出る時は兄に聴覚を任せて私は嗅覚で周囲を警戒するようにしているんです」


 クロシェの言葉にゼイドはなるほどと呟いた。

北の森からやってきたと言っていたが、この2人なら護衛がいなくとも相当強い個体でもない限り魔獣の対処も容易だっただろう。

B級冒険者相当はありそうな実力の戦士と戦闘力は未知数だが回復魔法も使える魔法使い。さらに2人とも索敵が得意ときた。

バランスのいい組み合わせだ。


「で、お前らはちゃんと正規のルートで入城したんだろうな?」


 どうも答えをはぐらかすアロイスから的をクロシェに絞り、ゼイドが問いただす。

すると、あわあわおろおろと視線をさまよわせたクロシェがおずおずと口を開いた。

 

「あの、私たち親切な門番さんに特別に通していただいたのですが、もしかしていけないことだったのでしょうか?」

「あ゛ぁ?どういうことだ!?」


 曰く、今まで森から出たことのなかった2人はエオドールで初めて検問を受け、そこで初めて登録証というものを知った。

当然持ち合わせてはいないため、困っていると金貨5枚を払えば特別に通すと言われ、代わりの魔石を渡して門を通った。

登録証は今後も必要だからと冒険者ギルドでつくることを門番(検問官)にすすめられて現在に至るのだという。


「いや、不正入城じゃねぇか」

「え!!?」

「本来、検問所では登録証の提示が必須なんだよ。

 まぁ、国や都市によって違うところもあるがな。

 エオドールでは確か登録証がない場合、一定の資格を持つ保証人がいないと入れないはずだ。

 それをまぁ、金で解決するとは……罰金ですめばいいが、懲役の可能性もあるな」

「ひぇぇぇ…!!?は、犯罪者!!ロロ、私たち犯罪者になってた…!!!

 ど、どうしよう…ヴィ様やブレナに顔向けできない……」


 さっと顔を青ざめ、瞳に涙を滲ませるクロシェ。

そんな妹に眉を下げ優しい手つきでその頭を撫でるアロイス。


 まぁ、悪い奴らではなさそうなんだよな……

そう思いながらため息をついたゼイドは再び口を開いた。


「まぁ、お前らも騙されたようなものだからな。正規の手続きを踏めば厳重注意でお咎めなしだろ。

 ギルドで仮登録証を発行できたってことは犯罪歴もないようだし、こいつらみたいに危険物持ち込んだり城内で犯罪を犯さなければ問題ない」

「本当ですか!!?よかったぁ……」


 ほっと胸を撫で下ろすクロシェを横目にゼイドは伝令用の紙が入った小指よりも小さな筒を取り出した。


風の鳥アヴィスヴェンティス


 風魔法で生み出した鳥の足に筒を付け、空へと飛ばす。

空高く舞い上がった鳥を見送り、ゼイドは木にもたれて腰を下ろすとようやく息をついた。


「今の鳥はどこに飛ばしたのですか?」

「ギルド。この商人たちだけなら連れ帰ってから対処すればいいが、どうも検問所がきな臭ぇからな。

 とりあえず、上の判断待ちだ」


 なるほど、と感心したように呟いたクロシェもまたゼイドにならって腰を下ろすが、アロイスは立ったまま森を見つめていた。

 そうして手持ち無沙汰になったゼイドは、このいろいろアンバランスな兄妹のことが気になり出した。

まぁ、聞くだけ聞いてみるかと口を開く。


「そういや、お前らはなんで旅してんだ?」

「えっと、私たちは私たちを育ててくれた方のお友達を探して旅をしているんです。」

「はぁ?なんでまたそんなことしてんだ。

 伝言でも頼まれたのか?」

「いえ、実は私たちを育ててくれた方は魔法の研究をしているのですが、どうやら魔法を失敗してしまったようで、このままだと10年眠りから覚めないというのです…」

「10年!?いや、命は無事でよかったがよ…」


 魔法の失敗事故は身体の欠損から術者の死、さらには街一つ吹っ飛んだなんて話まであるのだから、10年はまあまあ長いが眠るだけですんだのは不幸中の幸いか。

だが、やはり身近な奴にとっては耐え難いのだろう。

沈痛な面持ちでクロシェが続ける。


「10年ただ待つのは嫌なので、どうにかして目覚めさせようと育ててくれた方のお友達を探しているのです。

 その方も魔法の研究をしていてとても魔法に詳しい方なので、その方ならきっとなんとかしてくれるはずです」

「へぇ。探してるってことはそいつのいる場所はわかんねぇのか?」

「はい…よく各地を放浪する方で決まったお家もないようでして…

 でも、しばらくは南の方で研究をすると仰っていましたので、とりあえず南を目指して旅を続けているのです。」

「南って、他に何か目星はねぇのか?」


 南と言っても広大すぎる。探すだけで10年どころか一生かかんじゃねぇのか?

あまりに無謀な挑戦をしようとしている2人にゼイドがそう尋ねると、クロシェはむんっと胸をそらし得意げに答えた。


「あの方は美味しいものが大好きなのです!

 なので、街で1番美味しいご飯屋さんで聞き込みを続ければきっと見つけることができるはずです!」

「・・・」

「あとは、南の街でアップルパイ屋さんをはじめるのも手ですね!

 あの方は私のアップルパイに目がないので、あちらから嗅ぎつけてやって来てくれるかもしれません!」

「・・・」


 目をキラキラと輝かせ自信満々に語るクロシェにゼイドはアロイスに顔を向け、尋ねた。

 

「なぁ、こいつってもしかして馬鹿なのか?」

「撤回しろ。クロシェは可愛いんだ。」


 真顔でそう答えたアロイスに、「こいつは妹馬鹿(シスコン)かよ」とゼイドは元々広くとっていた心の距離をさらに後退させるのだった。



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