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賢者様の小間使い  作者: 玉雪 芙泉
第1章 城塞都市エオドール

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43話 告示


 クロシェ、アロイス、ゼイドの3人は聖堂の端に立っていた。


 3人はこれから始まるという冒険者への説明を今か今かと待っている。

レイが欠けているのは、冒険者ではないことと、個別依頼の件でレイもまた別室で説明を受けることになったからである。

聖堂では、ゼイドたちと同様、大侵攻に関する説明を待つ冒険者たちの低いざわめきで満ちていた。


 導師見習いの話では、そろそろ説明が始まるはずなのだが…

そう思いつつ、ゼイドは隣を見下ろした。

見下ろした先のクロシェは、ぼおっと聖堂の奥にあるステンドグラスを見つめている。

見事なステンドグラスに見惚れているだけかとも思ったが、どこか上の空なことが気にかかった。


「…おい、大丈夫か?」


 ゼイドがそう声をかけると、パチリと瞬いたその瞳に光が宿った。

 

「…はい。大丈夫です。

 ただいろいろと情報が飽和状態というか、衝撃が強くて、…ただ、とにかく教会に気をつけなければいけない、ということはわかってよかったです!」


 そう言ってクロシェはにこりとゼイドに笑みを向けた。


「エオドールの皆さんは優しい方ばかりで嬉しいです!

 私、最初に訪れた都市がここでよかったです!」


 その何の陰りもないクロシェの笑みに、ゼイドは内心ほっと息をつく。

しかし、フィオナの最後の言葉が脳裏をよぎり、優しい???と首を捻った。

 どう考えてもヤバい女だっただろ……

そう内心で呟いたゼイドは、そういえばクロシェはエオドールにはじめて入城した際も検問官に騙され、宿の客引きにも騙され、と割と碌でもない連中とばかり出会っていたことを思い出す。

流石にクロシェの言う"優しい方"にこの3人は含まれていないだろうと信じつつ、チラリとクロシェを挟んだ先に立つアロイスに目を向けた。


「さっきはよく黙って聞いてたな。

 お前が暴れ出したり、クロシェを連れてエオドールの城門を強行突破することにならなくてよかったが…」


 一体何を企んでいる

その言葉は声にならず、ゼイドの心の内にこぼれ落ちた。

クロシェとは対照的に感情を読み取れぬアロイスの顔からは、何を考えているのかさっぱりわからない。

それでも、妹に対する過保護具合を思えば、フィオナとの会話でも無言を貫くアロイスの態度は異常に見えた。


「…今のところは問題ないだろう。」

「はぁ?…まぁ、確かにあの導師様はなるべく恩を売ってクロシェからの心情を上げておきたいって感じだったからな」

「それもあるが、クロシェ()()悪意や敵意がなかったからな。」

「それって」


 何やら含みのあるアロイスの言葉にゼイドが聞き返そうとした瞬間、バンッと聖堂の扉が開く。

冒険者たちの賑やかしい声で満ちていた聖堂内は、水を打ったように静まり返った。

そして、揃いの鎧を身につけた集団がぞろぞろと聖堂の奥へと歩みを進める音だけが響き渡る。

クロシェたちは、その先頭に立つのが直属兵団の副団長 ファレルだと気がついた。

 

 聖堂の正面奥、ステンドグラスの光で照らされたその場所で光に透ける金の髪をゆらした男は、悠然と口を開いた。

 


「冒険者諸君、これより任務を告示する──────」



 ・



 コツコツと小さな足音がわずかに反響し、消えていく。

ランプの魔導具の光が石壁を仄かに染める中、レイは案内役の信徒の背を追って細い通路を歩いていた。

 何度目かの分かれ道を右へと進み、これまた何度目かの螺旋階段をのぼる。

迷いなく無言で足を進める案内役の背後でレイはごくりと生唾を飲み込んだ。

どうやら、目的地は相当奥まった場所にあるらしい。

そう、案内なしにはたどり着くことも、元いた場所に戻ることさえ叶わないような部屋。

そんな目的地へと続く道をレイはただ静かに歩み続けた。


 ようやくたどり着いた扉を前に、案内役が変則的にノックを複数回鳴らす。

そして、内側から開かれた扉の先には、熊の紋章が刻まれた鎧をまとう女が立っていた。

彼女の瞳がレイを鋭く射抜く。

 

「こちらへ」


 今度は女性兵士に連れられ、部屋の奥へと進む。

きりきりとさらに痛みだした腹に手を添えつつ、レイは本日何度目かの祈りを心の中で捧げた。


 あぁ、どうか──────

 


「オリヴィア様、お連れしました。」

「ご苦労様。さっきぶりね、レイ」

「…はい、オリヴィア様」


 重厚な調度品に囲まれた部屋の中央で、ティーカップを片手にオリヴィアは優雅に微笑んだ。

まるで巨匠が描いた一場面のように美しい光景であったが、レイにはその美しさに見惚れる余裕すらなかった。

 カチャリとソーサーに置かれたティーカップの小さな音がレイの耳元で大きく鳴り響く。


「貴方も座ってちょうだい」

「はい、失礼します…」


 テーブルを挟んで向かいの席に腰掛けたレイはガチガチに固まっていた。

そんなレイを前にオリヴィアは思わず苦笑をこぼす。


「そんなに緊張しないで。ただお話するだけよ」


 隅に控えていた侍女がレイの前にもお茶を置いた。

カップの中の琥珀色の水面に映り込むレイの顔が情けなく歪む。


「私から話を進めようかと思っていたけれど、貴方からの方がいいかしら」

 

 ふわりと花がほころぶような笑みを浮かべる佳人を前に、視線を彷徨わせたレイだったが、ついに覚悟を決めた。

オリヴィアの瞳をまっすぐ見つめ返したレイは、そっと息を吸い込む。


 

「私は人質ですか?」


 

 その一言にオリヴィアはさらに笑みを深めた。

 

 

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