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賢者様の小間使い  作者: 玉雪 芙泉
第1章 城塞都市エオドール

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35話 先遣隊


 この熱量で魔導具技師にならないというクロシェにこれまでの諸々含め、未知の生物を見るような眼差しを向けていたゼイドは、そういえばと疑問がわいた。


「明日直属兵と一緒に帰るって話だったが、遺跡はいいのか?」


 クロシェの隣で柔らかな笑みを浮かべるレイへゼイドは問いかけた。

歴史について並々ならぬ熱量を向けるこの男が、遺跡を前にそう簡単に引き返すだろうか。


「あぁ、それは」


 レイがそう言いかけた瞬間、3人に影がさす。


「アロイス!もう確認はすんだのかい?」


 奥の焚き火による明かりを遮ったのは、アロイスだった。


「ロロおかえり!大丈夫だった?」

「ただいま。…確認はできた」


 どこか含みのあるアロイスの言葉にそもそも何を確認してきたのかとゼイドが尋ねようとした瞬間、また別の人影が現れた。


「4人とも揃っているね。寝込んでいた君も体調は大丈夫かい?」


 そう朗らかに声をかけてきたのは、ゼイドが共に戦った男を後ろに連れた兵士だった。

金髪に青い瞳、ハンサムな顔立ちのその男は、まるで物語に登場する優美な騎士そのもの。

レイと同じ年頃かもっと若く見えるが、腰にさす剣の柄頭に刻まれた紋章が熊でないことをみるに、直属兵の中でも階級が高そうだ。


「…はい。体は問題ありません。」

「よかった!私の名はファレル。エオドール直属兵団の副団長で、此度の先遣隊の指揮を任されている。

 改めて貴殿らの加勢ならびに救護に心よりお礼申し上げます。

 貴殿らが駆けつけてくださらなければ、砦に残っていた者たちは全滅していたでしょう。

 この隊の指揮官として、深謝いたします。」


 そう言ってファレルは右手を胸にあて、頭を下げた。

 ゼイドは年若そうなファレルが直属兵の副団長ということに驚きつつ、その丁寧な礼に目を瞬いた。

貴族で1級魔法使いのレイがいるからかもしれないが、一介の冒険者のゼイドたちにも礼を尽くすファレルの姿に、ゼイドは気まずさで胸がざわつく。

一方、クロシェはすでにファレルや他の兵士からも同様に丁寧に礼をもらっていたが、まるで物語の一場面を見ているようで内心興奮していた。


「謝礼はまたエオドールに帰ってから正式に贈ろう。

 すでに仲間から聞いているかもしれないが、今夜は我々が寝ずの番をするため、ゆっくり休んでくれ」

「…はい。ありがとうございます。」

「それでは私は確認が残っているので、失礼させてもらうよ」


 ファレルは最後に柔らかな笑みを残すとマントを翻し、立ち去った。

独自の紋章を剣の柄頭に刻んでいることからも貴族だろうかと検討はつけていたが、その容姿や立ち居振る舞いからも品を感じさせるファレルに、後ろ姿を眺めていたゼイドは視線を隣のレイへとずらした。

 まぁ、擬態してるだけかもしれねぇが、こいつよりは断然貴族然とした男だな。レイもだが、その割に選民思想が見受けられないのは意外だが…

 そう内心独りごちるゼイドに別の声がかけられた。


「目覚めてよかったよ。

 君のおかげで鉄脊狼(イーレンヴルフ)を退け、命を拾うことができた。心より感謝を。

 俺の名はケネスだ。よろしく」


 ケネスは地べたに腰を下ろすゼイドの前に膝をつき、片手を差し出した。

ゼイドはその手を握り返し、口を開く。


「俺の名はゼイド。お互い無事でよかった」

「いや、今回はホントに死ぬかと思ったぜ…ゼイドもだが、嬢ちゃんのおかげだな!本当にありがとう!」

「いえ、ご無事で何よりです!」


 そのまま腰を下ろしたケネスは「まぁ、とにかくありがとな!」と快活に笑う。

気さくそうな雰囲気のケネスに、こいつに聞いてみるかとゼイドは気になっていたことを尋ねた。


「で、本当のところは何があったんだ?」

「…というと?」

「魔導具に不具合があったとは聞いたが、それにしても被害が大きすぎる。

 他にも何か要因があったんじゃねぇのか?」


 ゼイドの問いかけに、表情が一瞬抜け落ちたケネスは、気まずげに唸りながら俯いたり首を傾げたりと忙しない。

そして、アロイスをチラリと見やってから、観念したように口を開いた。


「あ〜、どうせそっちの兄ちゃんから聞くだろうからなぁ…

 ここからは他言無用だ。」


 そう前置きを告げるケネスに場に緊張が走る。


「今回の襲撃の被害拡大の要因は主に2つ。

 1つは、魔導具だが、魔導具自体に問題があったわけじゃねぇ。問題は散布した魔獣避けの薬品が低級レベルにしか効かないものに変えられていたことだ。」

「はぁ!?人的ミスかよ…」


 てっきり魔導具の方に問題があったのだと思っていたゼイドはその答えに思わず声を上げる。

こりゃあ補給係は大目玉どころじゃすまないなと内心ゼイドが呟く中、ケネスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「それがそうとも言いきれねぇ…

 もう1つの要因が、支給品の魔法兵装の魔法陣が細工されてて戦闘中に機能不全になった、だからな」


 ケネスの言葉に4人は息を呑む。

予想外の要因に場に沈黙が落ちる中、さらにケネスは続けた。


「…前々から開拓関連ではトラブルが続いていた。

 特に支給される武具の質が落ち始めたことで壊れる頻度だけでなく、ケガ人も増えてな…

 ついに堪忍袋の緒が切れた開拓の総指揮官がエオドールに殴り込みに行ったんだが、その矢先で今日の出来事だ。

 まったく胸糞悪いぜ」

「…それってつまり、」

「あぁ。どうやら、この開拓を邪魔したい奴がいんだよ。

 補給品の質を落として経費をくすねるだけなら、もっとバレにくいとこなんざいくらでもある。

 だが、これは明らかに開拓に影響の出るところを狙い、手を回していやがる。

 それも人死に関わるところをな」


 顔を歪めたケネスはそう吐き捨てた。

どうやら今回の襲撃の惨事は単発の出来事ではなく、かなり根が深い問題だということを知ったゼイドは、嫌な予感に首筋がざわりと粟立つ。


「…おい、いくらなんでも俺たちに教えすぎじゃねぇのか?

 機密情報も紛れてそうだが…」


 ゼイドの脳裏に、厄介事を押しつけてきた先日のランドルフの姿がよぎる。

顔がひきつるゼイドにケネスは何故か嬉しげに答えた。


「そりゃあ、お兄さんの親切心…って言っても嬢ちゃんくらいしか信じねぇよな。

 もちろん下心ありきだよ」


 親切ではなかったのですか!?とショックを受けるクロシェを横目に3人はケネスを静かに見据えていた。


「どうやら、この開拓の失敗を目論む()()()がいる。

 城主様肝入りの事業で、エオドールどころか聖国も全面的に支援するこの開拓をだ。

 うちの補給にまで手を出せるってことは、おそらくエオドールの上層部にその()はいる。

 まぁ、兵団内部に裏切り者がいることは確実だがな。

 どこに敵が潜んでいるかわからないこの状況で兵団の外部、それもエオドールの利権と何ら関係ない奴らが現れた。さらに全員有能とくりゃあ、仲間に引き摺り込むしかねぇよな」


 ケネスは片方の口角をゆっくりとつり上げ、まるで獲物を前にした獣のようにその双眸をぎらりと光らせる。


「言っただろ、()()()()ってな」とおどけるケネスにゼイドは大きくため息をこぼした。



 勘弁してくれ


 

昨日は更新ができず、申し訳ございませんでした。

本日はその振替として、19時にも次話を投稿予定です。

引き続き、よろしくお願いいたします。

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