2話 冒険者ギルド
何とか検問所を突破できたラスヴェート兄妹は、親切な検問官の助言通り、冒険者ギルドの前までやってきていた。
建物の中へと足を踏み入れると、開けた空間が目に入る。
右手には何やら紙がまばらに貼られたボードが壁一面を埋めており、左手にはテーブルや椅子が置かれていた。
そして、正面にはカウンターがあり、"受付"と看板が掲げられている。
どうやらここに並べばいいようだとクロシェとアロイスはお互い目を合わせ、頷き合うとまっすぐ歩みを進めた。
検問所とは違い、人はまばらにしかいなかったため、2人の順番もすぐに回ってきた。
「次の方、ご用件は何でしょうか?」
「私と兄の登録証を作りたいのですが、ここで作ることはできますか?」
「はい。では、こちらの申請書にご記入をお願いします。
文字は書けますか?」
「はい!…あ、書く欄少ないんですね」
綺麗な受付のお姉さんから渡された申請書を見たクロシェがそうこぼしてしまうのも無理はない。
申請書には、氏名・犯罪歴の2つしか書く欄がなかったのだから。
「必要な情報はそれで揃っております。
冒険者に必要なのは、任務の遂行能力のみですから。」
そう淡々と告げた受付嬢の圧に凄みを感じつつ、すぐに書き終えた用紙を2人が提出すると、今度はカウンターの上にシルバーの台座にはまった水晶が置かれた。
「こちらの魔導具に手のひらを当ててください。」
カウンターに置かれた丸い水晶にアロイスが先に手のひらを当てる。
すると、魔導具の発動とともに水晶が淡く光り、しばらく経つとふっと光が消えてしまった。
「犯罪者リストに登録はありませんね。
では、妹さんもお願いします。」
「はい!」
意気揚々と水晶に手のひらを当てたクロシェは、改めて今触れている水晶の魔導具を観察した。
犯罪者かどうかチェックするためのこの魔導具は、どうやら手のひらから魔力を検知して登録済みの複数の魔力と照らし合わせているようだ。
さらに、照らし合わせる魔力は別の魔法陣でまとめて管理されているようで、この水晶の魔導具が複数ある場合でも、魔力の記録の更新が一括でできるつくりになっている。
魔導具を発動させながら水晶の底に見える魔法陣の構造を解析していたクロシェは、合理的で効率的な魔導具とそれを可能にする魔法陣の構造の精緻さに思わずほわっと熱い吐息をこぼした。
「すごい…美しい魔導具ですね……」
「はい。これのおかげで私たちの仕事もかなり楽になりました。」
とても感動している様子のクロシェにはじめて魔導具を使ったのかしらと受付嬢が内心で微笑ましく思いながら照会が終わるのを見守る。
まさか、この10歳くらいに見える少女の言葉が、魔導具の構造を完璧に理解してのものだとは夢にも思わない。
そうして無事クロシェのチェックも終えた受付嬢は、手早く名前と数字が書かれた簡素なカードを2人に手渡した。
「お2人とも犯罪歴はありませんでしたので、仮登録が完了いたしました。
正式な登録には、冒険者登録試験への合格が必須となります。
試験内容は、Eランクの任務を監督者とともに受けていただき、任務の達成と監督者の判断で合格となります。
こちらのカードは正式な登録がすむまでの仮の登録証になりますので、城壁外の任務による検問での身元証明など任務に付随する身元証明以外、登録証としてはお使いいただけません。
ここまでで何かご不明な点はございますか?」
すらすらと流れるように説明する受付嬢に圧倒されていたクロシェは、おずおずと口を開いた。
「あの、監督者の判断って任務を達成するだけではだめなのでしょうか?」
「はい。監督者のフォローがなければ任務は達成できなかったと判断された場合や公序良俗に反する…犯罪行為に手を染める、人格的にあまりにも問題があるといった社会的に見てやってはいけないことをしていた場合など、冒険者になる資格、能力がないと監督者が判断した場合は不合格となります。
ただし、試験は年に3回まで受けられます。
試験の任務はほとんど魔獣も出ない近くの森での採取が主ですので、何事もなければ合格できるはずです。
がんばってください。」
「ありがとうございます!がんばります!」
「では、早速試験を受けられますか?」
クロシェはそっとアロイスをうかがうように見上げる。
そして、ギルドに入ってから一度も声を発しなかったアロイスがようやく口を開こうとしたところで何やら騒がしい声が聞こえてきた。




