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賢者様の小間使い  作者: 玉雪 芙泉
第1章 城塞都市エオドール

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1話 検問所にて


「門がある!」


 そう声を弾ませたクロシェ・ラスヴェートは、次いで目の前に広がる人波がすべて門の中に入るための列だと気づき、思わずぽかんと口を開けてしまった。

クロシェがこんなにも多くの人を見るのは、生まれてはじめてだったからだ。


「ほら、俺たちも並ぼう。」


 そう言って、足を止めて目を輝かせるクロシェの手を引いたのは、彼女の兄・アロイス。

北の森からやってきた2人の兄妹が"城塞都市エオドール"の検問所へと続く行列の最後尾に並んだのは、日が昇って間もない頃であった。



 北の森から地平線まで続く黄金色の絨毯のような麦畑。

その街道を抜けた先には空高くそびえ立つ鈍色の壁が左右に広がっていた。

はじめて空飛ぶ魔法を教えてもらった時に目印にしたノーザンラタの木と同じくらい高い巨壁を前に、これが麓の村人から教えてもらった城塞都市エオドールを囲う壁なのだとクロシェは一目でわかった。

そして、村人からの教え通り壁沿いを左に進み、野宿を挟んでようやく門までたどり着いた先での長い行列。そんな検問待ちの列も気づけば最前列、ようやく順番が回ってきたと喜んだのも束の間、2人の兄妹の前に新たな問題が立ち塞がった。



「で、登録証は?」


 その検問所は、熊の紋章が掲げられた巨大な石造りの門塔の中にあった。

前の団体の検問が終わるのと同時にその門塔の扉が開かれ、中へと足を踏み入れたクロシェは高鳴る鼓動に胸を躍らせていた。

しかし、重厚な机の前ではじまった質疑が進むにつれ、そんなわくわくとした感情がどんどん萎んでいくのをクロシェは感じていた。


「あの、登録証ってなんですか?」

「はぁ?身元証明書のことに決まってるだろう。

お前たち北からやってきたというのに、そんなことも知らんのか。」

「それはないと中に入れないのでしょうか?」

「当たり前だろう。この城塞都市エオドールに身元の不確かな者を出入りさせると思っているのか?」


 クロシェは思わず返事もせずに隣に立つアロイスと目を合わせた。

登録証が初耳だった2人は、身元証明書だなんて1つも持っていないのだから。





 城塞都市エオドール 第三の門検問所にて検問官を務めて4年目のトッドは、本日何十組目かの入城者を前に大きくため息をついた。

どうやら、年に数回あるかどうかの世間知らずの田舎者、もしくは面倒な訳アリに出くわしてしまったようなのだ。

 

 改めて目の前の2人に目を向ける。

何やらこそこそと話しているアロなんとかとクロなんとかという2人の兄妹は目立つ容姿をしていた。

兄の方は燃えるような赤髪に金眼、身長は後ろに控える衛兵とそう変わらないくらい高いが、顔に幼さが残っていることを考えると10代半ばくらいだろうか。

妹の方は濃い蜂蜜のようなダークブロンドに鮮やかな緑色の瞳、身長は兄の肩あたりと小柄だが、あどけない顔立ちを見るに10歳かそれ以下の可能性もありそうだ。

まあ、これが魔人族や妖精族なら話は別だが、どちらの種族の特徴もない上に登録証も知らぬ者が国境を越えられるはずがない。

 まぁ、顔だけを見れば、あっちの種族だと言われても違和感がないくらい整ってはいるがな。

髪も目の色もまったく違うのに、白く透き通るような肌と美形なところだけが共通する兄妹に顔に些かコンプレックスを持つトッドは鼻白む。


 しかし、顔のことは置いておくとして、どちらも身なりは綺麗だし手の爪先さえ汚れひとつない。

そして、上等な質の布をたっぷり使った服に、耳には互いの目の色の純度の高い魔石の耳飾り。

1日に何百人もの旅人や商人を検問するトッドの肥えた目がギラリと鈍い光を宿した。


これは、いい"獲物(金蔓)"だ。


「登録証がなければ、ここを通すわけにはいかない。

ただし、この場で金貨5枚払えるのなら特別に通してやろう。」


 兄の眉がぴくりと反応するのを目の端でとらえる。

元々愛想のかけらもなかったが、冷たく光る鋭い視線に晒されたトッドは一瞬心臓が嫌な音を立てた。


「……今は持ち合わせが少ない。

この魔石なら、金貨5枚以上の価値はあるだろう。」


 そう言って兄の方が革袋の中からころりと無造作に机の上に置いたのは、金貨と同じくらいの大きさの魔石の原石だった。

その深い緑色の魔石を手にしたトッドは、蝋燭の炎にかざして目を凝らす。

この大きさと純度、Bランク相当の魔石といったところか。確かにこれなら、金貨7枚、いやうまくいけば10枚だって……


 そんな算段を心の中ですませたトッドは、表情を動かさずにもう一度兄妹をよく観察した。

こんな代物をその辺の小石のように出すのだから、おそらくさらに上物も持っているだろう。

何より、こいつらの耳飾りはこの魔石よりも相当価値が高そうだ。

 だが、欲をかきすぎて四の門(まぬけ)の二の舞になるのはごめんだった。

 

「いいだろう。

 門の中に入ることを許可する。」


 俺の言葉にあからさまにほっと息をついてきらきらと顔を輝かせる妹と一切表情が動かない兄。

兄はともかく自分が騙されたことにも気づいてなさそうな妹に呆れながら最後に保険をひとつ。


「ただし、登録証は提出を求める宿もある上に、ここから出る際にも必要になる。

中に入ったら、まずは冒険者ギルドで登録証を申請することだ。

あそこなら、犯罪歴さえなければ登録証が発行される。」

「そうなんですね!ご親切にありがとうございます!」


 にこにこと愛想よく礼を言ってくる妹と無表情の兄というなんとも温度差のある兄妹を見送ったトッドは、ほくほくと本日の"お小遣い"を懐にしまいこむ。

妹だけなら身ぐるみ全部はがせただろうが、あの兄は一筋縄ではいかなそうだったのだから、仕方ない。

釘も刺しておいたし、あとは向こうでなんとかするだろう。


 まったく、今日の衛兵がいい()()()の日でお互いツイてたな。



■通貨


1コルン=小銅貨1枚

10コルン=中銅貨1枚

100コルン=大銅貨1枚

1,000コルン=銀貨1枚

10,000コルン=大銀貨1枚

100,000コルン=金貨1枚


1コルン=1〜1.5円のイメージです(金貨1枚=10〜15万円)


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