28話 小間使いの夢
「そりゃあ、学院は効率を重視しているからね。これに関しては学園もそうだけど」
「効率?」
「そう。魔法の分野においては、いかに短期間で多くの魔法使いを生み出すか。
それをどちらの学校でも重視しているんだ」
レイの答えにクロシェも首を傾げた。何のことだかさっぱりだとさらに目を瞬く。
「他種族と比べて人間族は圧倒的に寿命が短いからね。
少しでもはやく、一人前の魔法使いを生み出したいんだよ。
そのために、必要ないと判断された説明はすべて省かれている。
実際、ゼイドは魔法陣について知らなくても問題なく魔法を使えていただろう?」
「…まぁな」
「魔力操作についても、必要なことはちゃんと教わっているはずだ。
例えるなら、数学の公式について、なぜその公式で問題が解けるのかなんてことは考えず、とにかく公式を使ってどんどん問題を解きなさいっていうのが学園や学院の方針なんだよ。
それに、気になる人は自分でその答えを探すものだ。
よく言えば、生徒の自主性や創造性に任せているとも言えるかな?」
なるほどとゼイドは内心で呟き、安堵した。
ゼイドは今もそうだが、在学中はとにかくすぐに基礎課程を終わらせ、特権が与えられる階級の魔法使いになることを目指していたため、効率重視という学院の方針は非常にありがたいものだったからだ。
むしろ、あれ以上座学が多かった可能性があるのか、とゼイドがゾッとする中、今度はクロシェが声を上げた。
「そんなのあんまりです…!魔法の醍醐味でもあるのに…!!」
大袈裟なまでに嘆くクロシェにゼイドは冷たい視線を送るが、一方でレイはあたたかな眼差しを向けていた。
「クロシェちゃんは魔法が好きなんだね」
「もちろんです!!!」
「昔は魔法といえば奇跡の力だったけれど、今では単なる道具や手段という認識の人も多いんだ」
「そんな……!!」
絶望を顔と体全体で表現するクロシェにレイは思わず笑みがこぼれた。
「でも、君みたいな子がこれから魔導具を発展させていくのかな」
「え?」
レイのあたたかく、どこか祈りも込められたその言葉に、クロシェの目がきょとんと丸くなる。
そんなクロシェにレイもまた「え?」と目を丸くした。
「魔導具は好きですけど、発展などは考えたことなかったです…」
「え!?あの熱量で!!?」
このクロシェの発言には声を上げたレイだけでなく、ゼイドもまた驚き、絶句していた。
あの熱量でそんなことがありえるのか…?
時が止まったかのように固まる2人のうち、先に硬直がとけたのはレイだった。
「ごめんね、僕はてっきり魔導具技師を目指しているのだとばかり……
それじゃあ、クロシェちゃんは何を目指しているのかな?」
「それはもちろん、ヴィ様の弟子です!!」
むんっと得意げに胸をそるクロシェだったが、その場はシンッと静まり返った。
その微妙な空気を感じ取ったクロシェは、あれ?と首を傾げる。
「え〜と、ヴィ様っていうのは誰のことかな…?」
「あ、すみません!ヴィ様というのは、私たち兄妹を育ててくださった方で、魔法に精通しているとてもすごい方なのです!」
わたわたと耳まで真っ赤に染めたクロシェが紡いだその言葉には、隠し切れない誇らしさが滲んでいた。
「へぇ、クロシェちゃんの育て親かぁ。魔法や魔導具について詳しいのも、そのヴィ様のおかげなのかな?」
「いえ、育て親だなんて…!私はヴィ様の小間使いのようなものでして…!!
えっと、魔法や魔導具については、別の方が教えてくださって…でも、ヴィ様もたまに教えてくださいました!
私はヴィ様に弟子と認めてもらうためにも、魔法の勉強は毎日欠かさず、ずっと続けてきたのです!
でも、今は弟子の前にヴィ様を目覚めさせるという新たな壁…目標をどうにかしなくては……」
わたわた、照れ照れ、しょぼしょぼと感情の起伏が忙しいクロシェの話を微笑ましく聞いていたレイは、最後の言葉に首を傾げた。
「目覚めさせるって何があったんだい?あ、聞いてもいいのかな…」
「えっと…実は、ヴィ様は魔法に失敗して10年眠り続けることになってしまったのです……こんな失敗、今までされたことないのですよ!たまたまなんです…!!
…それで、ヴィ様に早く目覚めていただきたいのと、弟子にしていただくためにも10年なんて待ってられない…!ということで、今は魔法に詳しいヴィ様のご友人を探しているのです」
ぐっと手を握りしめ、クロシェは決意に燃えていた。
そんなクロシェに、ゼイドは人助けのためではあるが、だいぶ私情の入った人探しだったんだなと若干認識を改めた。
「その探し人がもしかして、僕たちがはじめて出会った時に言っていたエルフなのかい?」
レイの脳裏にこのパーティーと出会った時の思い出がよみがえる。
護衛依頼を出そうか、ギルドの前で悩んでいたレイに朗らかに声をかけてくれたクロシェは、確か金髪で緑の瞳のエルフを探していると言っていたはずだ。
「そうです!何としてでもその方を見つけ出し、ヴィ様を目覚めさせて弟子にしていただくのです…!!」
クロシェは大いなる野望でも語るように瞳を燃え上がらせ、そう高らかに宣言した。
瞳どころか全身が燃える勢いのクロシェに押されたレイは、別の話に切り替えようと向かいに座るゼイドへと話を振った。
「ゼイドの夢は何かな?」
「復讐」
「「・・・」」
一瞬にしてその場に重い沈黙が落ちる。
クロシェなんかは先ほどまでの熱が嘘のように消え去り、しゅんと沈んでいた。
どうしよう、どうすれば、と責任を感じたレイがわたわたと脳内でうるさく会議をしている間に、先に口を開いたのはゼイドだった。
「…俺も人を探してるんだが、獅子の獣人について知ってることはあるか?」
「獅子の獣人かい?確か、南の大国の今の長は獅子の獣人らしいけど、他は知らないな。
えっと…もしかして、その獅子の獣人が」
「復讐相手だ」
どこまでも温度のない冷淡な声音と表情に、レイはどうしようと頭を悩ませた。
「そっちの2人は知らねぇよな」
「すみません…私たちに獣人族の知り合いはまだいなくて…」
「だろうな」
シンッ─────と重たく、そして冷たい空気が4人の間に流れる。
太陽が陰ったのか、心なしか森の中の薄暗さが深まり、寒気まで感じはじめた。
固く口を閉ざしたゼイドに、これ以上は話したがらないだろうと判断したレイは次の標的をずっと無言のアロイスに定めた。
「アロイスの夢はなんだい?」
「…俺は、」
たった3文字でなぜか口を閉ざしたアロイス。
俺は?俺は…??と空回り気味のレイが脳内でその3文字をリピートする中、アロイスは手を背に回した。
「囲まれている」




