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賢者様の小間使い  作者: 玉雪 芙泉
第1章 城塞都市エオドール

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25話 古代文明


 東の空から陽の光が空と地上を照らしはじめた頃、リュッカ山脈から続く森の入り口に4人の人影があった。

そのうちの1人、クロシェははじめて訪れる森とはじめての護衛依頼の任務にわくわくと胸を躍らせていた。


鉄脊狼(イーレンヴルフ)の群れがいるのは森の奥だそうだけど、移動しているかもしれないから注意しよう」


 そのレイの言葉にゼイドが陣形を整えた。

先頭はゼイド、その後ろにレイとクロシェで殿(しんがり)はアロイス。

クロシェは何かがあった時に護衛対象のレイに結界をはるという重要な任務を言い渡されたため、魔法杖を片手にやる気に満ちていた。


 グッと足を踏み出すたびに朝露で湿った土のにおいが立ち上る。その土のにおいも森の奥深くに進むにつれ、腐葉土と苔が混ざり合った古い年月を感じる香りへと変わる。

 気づけば木々の間から差し込む陽の光もどんどん少なくなり、どこか重々しい空気が流れる空間へと変わっていた。

 

 クロシェはふと頭上を見上げた。木々が天然の屋根のように生い茂るこの場所では、森に入ってから一体どれくらい時間が経ったのかもわからない。

 多分もうお昼は過ぎてると思うのだけど…とクロシェはお腹の空き具合から内心で独りごち、音にもならない小さなため息をついた。

 森に足を踏み入れた際のやる気もむなしく、長時間歩き続けて森の深層部まで来たというのに、鉄脊狼(イーレンヴルフ)どころか魔獣1体とさえ遭遇していないのだ。

 

 いいことだけど…いや、やっぱりいいことだわ!と気持ちを持ち直したクロシェは、隣に目を向けてその瞳を瞬いた。

ひょろりと背が高く、書斎に一日中こもっていそうな印象のあるレイが息一つ乱さず、森の中を歩き続けていたからだ。


「レイさんは森の探索も慣れているのですね」

「そうだね。僕は歴史研究者の中でも現地調査をすることが多いから、ここ以外にも森の奥深くにある遺跡をよく調査しててすっかり慣れちゃったよ」

「遺跡ってそんなにもたくさんあるのですか?」

「もちろん!」


 クロシェはレイの言葉に首を傾げた。

クロシェにとって、北の森の外の世界は1200年前に大厄災でほとんどの文明が失われてしまったという本の知識でできていたからだ。

現在は東西南北の四方に各種族が治める大国があり、新たな文明が築かれていることは知っている。

だが、遺跡ということは過去の遺物がある場所。世界のほとんどが更地になったという大厄災を経てもなお、残っている遺跡がそんなにもあるのだろうか。

 

「遺跡のほとんどは、大厄災以降各地で暮らしていた人々の都市や村落の跡地なんだ。

 でも、たまに大厄災前の建造物の跡や遺物があったりするから、発見されたら大騒ぎさ」

「なるほど…大厄災以降の遺跡が多いのですね…

 レイさんは、どちらの遺跡を探されているのですか?」

「今回は大厄災以降の遺跡だけど、どっちも探してるよ!僕は歴史が好きだから、どんな遺跡も僕にとってはお宝なんだ!」


 それまでにこにこと穏やかに話していたレイの言葉にどんどん熱が入りだす。

 

「でも、特に力を入れているのは大厄災関連なんだ。

 大厄災とは一体何だったのか。

 一説には、古代文明と関係があるともいわれているし、自然現象だったともいわれている。あるいは……

 僕はその真実が知りたくて各地の遺跡や過去の文献、手がかりになりそうなものはなんでも手当たり次第に調べ回っているんだ」


 大厄災の真実───なんとも心が躍る言葉にクロシェがさらに尋ねようとしたところで、ゼイドからの待てが入った。


「ちょうど開けたところにきたから休憩するぞ。

 どうやら集中力も切れてるようだしな」


 そのゼイドの刺々しい言葉にクロシェはパッと顔を輝かせた。

ゼイドの言葉通り、少し先に陽の光に照らされた開けた空間があったのだ。

木々がぼっかりと途切れたその場所は、地面に木が何本か倒れていた。倒れてから随分月日が経っているようで、ところどころ苔むしている。

 クロシェはそんな倒木のうちの一つに腰を下ろしたレイの隣を陣取り、水の補給を待つと早速気になっていた疑問を口にした。

 

「なぜ大厄災の原因が古代文明だといわれているのでしょうか?」

「それだけ古代文明が謎に包まれているからかな。

 あとは当時も、それから割と今でも聖国は基本的に他の文明を異教徒の野卑な文化として忌み嫌っているから、古代文明の()()が神の怒りを招いたために大厄災が起きたって説が聖国では結構主流なんだよ」


 なるほどと話を聞いていたクロシェがさらに質問を重ねようとしたところで別の声が割って入る。


「いっても1200年前の話だろ?

 そんな大昔の奴らにカミサマの怒りを買うほどの何かができるもんなのかよ」


 悪態をつくようにそう口から漏れ出たゼイドの言葉に、レイが答えるよりも先にクロシェが反応した。

 

「えっ!1200年前は今よりも技術が発展していたといわれる黄金の時代ですよ?

 神の怒りを招いたかはわかりませんが、古代文明の技術によって何かが起きたというのは当時の技術力を考えれば検討の余地はあると思います!」

「はぁ?1200年前が黄金の時代??

 そんな話聞いたこともねぇが」

「え…?」


 お互い困惑を滲ませるクロシェとゼイドに動揺を押し隠したレイが口を開いた。


「…確かに一部では1200年前は黄金の時代といわれているよ。

 それは大厄災前から生き続ける者やその口伝、あとは1200年前の遺跡の調査で発見された遺物や文献からも証明されている。

 僕も大厄災前の遺跡で発見された魔導具の使用に立ち会った時は目を疑ったよ。現在でも再現できないような高度な技術が使われていたからね…」

「1200年前の魔導具…!!」

「大厄災前の遺跡で魔導具…?魔導具は3、400年前に開発されたんだろ?

 そういや、1200年前にフュールが理論は完成してたってクロシェが言ってたか…?」


 困惑するゼイドに魔導具の話ができる…!と心を弾ませたクロシェは意気揚々と口を開いた。

 

「元々魔導具は大厄災によって滅びた古代文明で生まれた技術なのです!

 当時の聖国では魔導具は異教徒が作ったものとして忌避されていたため、大厄災によってその技術は一度失われてしまいました…

 それを復活させたのがフュールなのです!

 しかし、それでも現在の魔導具の技術は当時の魔導具と比較するとあまりに劣っているといわれています」


 頭上に疑問符を浮かべるゼイドにクロシェはさらに言葉を重ねた。

 

 

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