22話 裏
「はぁ、結局大事になっちまったな…」
ランドルフのぼやきがいまだ騒つくホールの片隅に落ちる。
それに反応したのは、下で合流したゼイドだった。
「捕物は中止か?」
「この混乱じゃ無理だろ。まぁ、オークションの主催者どもは押さえたがな」
どうやら、魔獣が暴れて怪我人も出したことでオークション自体は中止。違法な品を出品したとして主催者らはすでに捕縛済みらしい。
「そういや、お前は報酬、どうすんだ?
クロシェたちは報酬に出品物の中から魔導具を選んでたが」
「出品物の中から?」
「あぁ、オークションに出品された品はすべて差し押さえになったからな。
当然、クロシェが落札した魔導具も対象だったわけだが、今回の功労者ってことで報酬として特別に贈呈ってことになったんだよ」
ランドルフの言葉にゼイドは目を瞬く。
「まぁ、高価すぎる品は無理だけどな。
お前はどうせ物には興味ねぇだろうから、ギルド内評価の加点にしとくか?」
ただ一言、是とする言葉が何故か口から出なかった。
その時ゼイドの脳裏に浮かんだのは、己の命をかけて手記を守ったレイの姿だったからだ。
・
「おい」
事情聴取が終わり、気落ちしながらホテルを後にしようとしていたレイは、その後ろからふってきた声に振り返る。
すると、そこには顰めっ面のゼイドが立っていた。
「どうかしたかい?」
わざわざゼイドのそばまでやってきたレイにゼイドは古びた本を持った手を突き出した。
「おら。お前のだ」
「え、…え!!!?こ、これってもしかして、」
「…出品されてた古書だ」
は、はわ…!と謎の声をもらしながら、瞳をこれでもかと輝かせたレイは、ゼイドの手にある本に触れようとして手を止めた。
「でも、どうして…?」
「……これはあの時お前が命をはらなければ焼けて炭になっていた。
どうせなくなるはずの物だったんだ、どうなってもいいだろ」
そのゼイドの言葉にレイが目を瞬く。
「それに、俺にとってはただのガラクタだしな。
……おい、いるのかいらねぇのかどっちなんだ」
「いります!!!ほしいです!!!!
ありがとう、本当に…本当にありがとう……!!」
ゼイドの手からグラウネスの手記を受け取ったレイはヒシッと胸に抱きかかえ、目を潤ませながらゼイドに礼を繰り返した。
そんなレイの姿に鬱陶しそうに顔を顰めたゼイドは、早々に立ち去ろうと振り返る。
その横を2人の親子が通り過ぎていった。
・
「随分といい趣味の見せ物だったな」
そう呟いた男は、隣で機嫌よく弾みながら歩く子どもを見下ろした。
「んふふ、楽しかったぁ〜〜〜!!」
肩までのびた栗色の髪をふわふわと揺らしながらその子どもはころころと笑い声を上げる。
「一体何を考えているんだ?」
「え〜〜〜、せっかくここでオークションが開かれるから最後に楽しむのもいいかなぁってね!」
「違う。魔法陣の件だ。」
男の指摘に、子どもは歩みを止めた。
「…いいでしょ〜!
あれのおかげでもっと楽しいことになりそうなんだ!」
「…随分と時間をかけて準備しているようだが、何故わざと痕跡を残しているんだ?それも古代魔法なんかを使って」
男の問いに子どもは腰に手を当て、得意げに語った。
「そりゃあ、やっぱり浪漫だよ」
「ロマン?」
「そう!人ってのはこういう謎が好きなのさ」
そう告げた子どもの顔には、一瞬酷く歪んだ笑みが浮かんでいた。
「ただの魔法よりも、古代魔法の痕跡がある方が謎が広がるだろう?
必死に探してようやく見つけた大切な手がかり、大事な手柄だ。
古代魔法ということは、魔人族や妖精族、龍人族か。はたまたそれらを隠れ蓑に人間族が暗躍しているのか……
自分たちを優秀だと思っている子たちが必死に頭を使って奔走する姿……!
あぁ、ゾクゾクするよ……!!」
うっとりと熱に浮かされた瞳で子どもは熱い吐息を吐く。そんな子どもの姿に男は呆れたように息をついた。
「相変わらず趣味が悪い」
「ふふ、君にはこういう遊び心が足りないからなぁ。
お兄さんが教えてあげようと思ってね!あともう少しなんだよ?」
そう言い聞かせるように告げた子どもの声を無視して立ち去ろうとした男は、最後にと口を開いた。
「お前が自分で動くとは珍しいな。何が狙いだ」
その男の問いに目を丸くした子どもは、ふふっと口に手を当て軽やかな笑い声を上げた。
「ほら、君の計画が後ろ倒しになって随分と落ち込んでいただろう?
可哀想だから、元気の出る贈り物をあげたいなぁって思ったんだ!」
にこにこと笑みを浮かべながらそう答えた子どもに男は眉を顰めた。
「それで、本当は何が狙いなんだ?」
「え?今言ったじゃないか。君のために」
「あいつの数少ない教えの中にお前に関することがあった。
お前の言うことは信じるな、と」
冷たく温度のない声が落ちる。
一瞬、表情が抜け落ちた子どもは、瞬きとともに目を細め、口角をつり上げた。
「…え〜ん、ひどぉい!
僕ってみんなのために頑張ってるのにいつも勘違いされちゃうんだ」
しくしくと雑な泣き真似をする子どもを一瞥することもなく、男は今度こそ立ち去った。
男の頭上でぴくりと動いた愛らしい耳を横目に、子どもは腰に手を当て「もぉ!」と憤るフリを続ける。
1人置き去りにされた子どもは、空を見上げ、夜空を彩る星々と淡く輝く月を見つめた。
そして、小さな桃色の唇がそっと開く。
「あと、6日」




