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賢者様の小間使い  作者: 玉雪 芙泉
第1章 城塞都市エオドール

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20話 魔獣


「8000万コルン!」

「9500万!」

「1億!1億コルンが出ました!!」


 カンカンとホールに木槌の音が鳴り響く。

会場は熱気の渦に包まれていた。

ついに始まったオークションは、国やギルド側が事前に入手したリスト通りの品がどんどん落札されていく。

なかには金貨数枚程度の品もあるが、金貨何百枚、何千枚という目の玉がひんむくような金額が頭上で飛び交う。

一体、この数十分の間にいくら金が動いたのやら。

あまりに現実味のない数字に早々に計算をやめたランドルフは、隣に座るクロシェに目を向けた。

 前座として出品された魔導具を早々に競り落としたクロシェはにこにこと機嫌よく座っている。


「おい、ちゃんと観てんだろうな?」


 そう言ってランドルフは鼻をとんとんと指で叩き、もはやただの観客の心持ちでいそうなクロシェに釘を刺す。

開幕早々、いまいちオークションのルールを理解していないクロシェが落札価格を倍に吊り上げるという典型的な間違いを犯しそうだったところを阻止したのだ。

きっちり働いてもらわねば困る。


「もちろんです!」


 にっこりと笑うクロシェにランドルフは肩をすくめた。

そして、正規品の落札が続き手持ち無沙汰なランドルフは、横目で改めてクロシェを観察した。


 本当にこいつが、あの魔法特化の職員が解除に手間取る拘束魔法を使った魔法使い、ねぇ。

そうランドルフが内心で呟いてしまうほど、クロシェの見た目と魔法の実力は乖離していた。

これで魔人族や妖精族、あるいは龍人族というなら話は別だが、深みのある蜂蜜色の髪から覗く耳は尖っても長くもない。

では、その血が混じっているのか、という疑いも本人は否定している。

だとすれば、間違いなく彼女は天才と呼ばれるそれだ。


 ランドルフの顔に知らず笑みがのる。

わくわくと体から湧き起こる興奮とその熱をふっと息をついて外に逃しつつも、ランドルフの目は爛々と輝いていた。


 そう、ランドルフは天才という生き物が大好きなのである。



 ・



 ところ変わってゼイドとアロイスのペアもまた暇を持て余していた。

オークション開始前までは何とか獅子の獣人の手がかりを得ようと動き回っていたゼイドもオークションが始まったとあれば席に大人しくついているほかない。

最初は周囲にそれらしき人物がいないか目を光らせていたものの、周りに人間族しかいないとわかった途端その瞳から光が消えた。

アロイスはそもそもオークションにまったく興味がないため、相も変わらず表情に動きはないが、若干苛立ちを滲ませている。

そんな2人の隣には、何の因果かレイがハラハラと落ち着きなく座っていた。


 ステージ上では、南の遺跡で見つかったという首飾りの競りの真っ只中。

「何百年前、あるいは大厄災前のお宝かもしれません!」と壇上で煽る競売人に、随分商売が上手いことでとゼイドは冷めた目を向けていた。

しかし、入札者らにはなかなか人気のようでどんどんと吊り上がる金額に会場の熱気もどんどん高まり続けている。

そんな熱をよそにゼイドは次の品として下手側の天幕のそばに控える檻の方に意識が向いていた。

檻の中には一角兎(ホルンハラ)の成体がいるのだが、明らかに体高がおかしい。通常の3倍近くも大きいのだ。


「12億コルン!12億コルンで落札です!」


 カンカンと木槌が高らかに鳴り響く。

とんでもない金額が聞こえた気がしたが、壇上では淡々と首飾りが下げられ、檻に入った一角兎(ホルンハラ)が中央に据えられた。


「わぁ…あれがグラウネスの手記……」


 そう感嘆の声をもらしたレイにゼイドもまた一角兎(ホルンハラ)から下手に視線をずらす。

そこには随分と年季の入った古書が置かれるところだった。


「皆様、ご注目ください!

 こちらの一角兎(ホルンハラ)は、とある施設より入手したのですが、通常Dランク程度しかない強さをBランクまで底上げしたというのです!

 貴重な愛玩魔獣として、あるいは研究対象としてなど、さまざまな用途でご活用いただけます!

 スタートは5000万コルンです!」



 ・



 一角兎(ホルンハラ)の落札に会場の熱が帯びる中、ランドルフはあまりの趣味の悪さにうげぇと顔を歪めていた。

 

「ランドルフさん」


 そんなランドルフに隣から鈴の音のような澄んだ声が小さく響く。


「なんだ?」

「あの、ちょっと気になることがありまして…」


 おずおずとそう申し出るクロシェに先ほど叩き込んだ報連相の重要さがようやく理解できたのかと耳を傾ける。


「あの魔獣からスティランとリュレの薬のにおいがするのです」

「…鎮静薬と麻酔薬か。まぁ、入札者の前に出すならそれくらいするか」

「おそらく鎮静薬のスティランを投与しても大人しくならなかったためにより強力な麻酔薬のリュレを投与したのだと思います。

 ただ、一つ問題がありまして…」

「なんだ?」

「この2つは体内に入ると、相互作用で興奮剤になる場合があるのです。」


 クロシェの言葉にランドルフが目を見開く。

さらに、「でも、薬を投与する方が知らないはずありませんので、私の勘違いかも」とクロシェの言葉が続いたところで、会場にガギンッッッと大きな音が鳴り響いた。


 

 一瞬の沈黙の後、会場を包んだのは怒号と悲鳴だった。


 

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