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賢者様の小間使い  作者: 玉雪 芙泉
第1章 城塞都市エオドール

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17話 レイ


 その後、役場が開く時間まで待ってから、メイジーとクロシェたちパーティー一行は役場へ向かった。

概ねゼイドの懸念通りの事態が起こり、チンピラのような圧で理詰めするゼイドによって一応丸くおさまったのが昼前。

そこから残りの壊れた井戸4カ所をまわり、すべての修理が完了するとお昼は過ぎていた。

しかし、現場に立ち会った役場の担当官らから昼食は提供されたため、まだ日は高いものの3人は一気に手持ち無沙汰になってしまった。


「無事終わってよかったです!」


 スキップでもしそうなくらい浮かれたクロシェに片眉を上げたゼイドが口を開いた。


「終わったのはいいが、なんだってほとんど魔力も残ってねぇ魔石までもらってきてんだよ」

「それは…ちょっと気になることがありまして……」


 修繕費とは別に口止め料をにおわせた役場の連中にクロシェが求めたのは井戸の魔導具に元々セットされていた等級の低い魔石だった。

どの魔石もほとんど魔力の残っていないクズ石同然だ。

その不可解な行動に疑問を呈せば、言い淀むクロシェにゼイドも深くは追求せず「物好きな奴だな」と呟いた。

 

 そして、そんなことよりもとゼイドは、これからについて考えを巡らせる。

こんな昼過ぎではギルドに行ってもめぼしい依頼は残っていないだろう。

しかし、昨日クロシェから聞き出した古い魔法の使い手───エルフのティアとかいう奴について、ランドルフに報告すべきか。


「俺はギルドに向かうからおまえらも後は勝手にしろ。

 問題は起こすんじゃねぇぞ」

「私たちも一緒に行きます!」

「あ゛?依頼を受けに行くんじゃねぇんだ。ついてくんなよ」

「いえ、昨日受けた初心者講座以外にも、魔獣や薬草についての講座があるとお聞きしました。せっかく時間ができたので、受講しようと思います!」

「……勝手にしろ」

「はい!」


 何が楽しいのかにこにこと街並みを眺めながら歩くクロシェと無表情でその隣を歩くアロイス。

ゼイドがそんな2人を連れてギルドにやってくると、その扉をふさぐように一つの人影があった。


「おい、邪魔だ」

「わっ、す、すみません……」


 眼光鋭く睨め付けるゼイドにびゃっと肩を跳ねた男がいそいそとギルドの扉から離れる。

そんな男に舌打ちを残し、ゼイドは再び歩みを進めた。

背後で何やら男に話しかけるクロシェの声は聞こえたが、これ以上面倒みきれるかとギルドの扉を開ける。


 

「副ギルド長は不在です。」


 受付嬢のその淡々とした回答にどうしたもんかとゼイドは後ろ髪をかく。

なるべく急ぎで伝えた方がよさそうだが、有力な情報かといえば微妙なラインだ。この受付嬢も今回の事件の対応をしていると言っていたし、こいつに報告するかと思ったところで後ろから声がかかった。


「ゼイドさん!依頼です!」


 ゼイドが振り返ると、にこにこと笑みを浮かべたクロシェと無表情のアロイスが先ほどギルドの扉をふさいでいた男を連れて立っていた。


「……依頼?」

「はい!この方が護衛を依頼したいそうなのです!」


 高らかにそう告げたクロシェにゼイドはため息を吐いた。


「お前、勝手に引き受けてねぇだろうな。

 俺らが受けるのは魔獣討伐で護衛依頼じゃねぇんだよ」

「でも、Bランクの魔獣の群れがいる場所を通るために護衛を必要としているそうですよ?」


 クロシェの言葉にゼイドは目を瞬く。

Bランクの魔獣の群れとはゼイドにとって願ってもない獲物だ。

護衛依頼では当然護衛が優先されるため、魔獣を倒したとしても討伐証明の魔石を剥ぎ取る時間があるかは気になるところだが、確かに悪くない。


「……詳しい依頼内容は?」


 ゼイドはクロシェの後ろに立つ栗色の髪の男に視線を向けた。

男は戸惑いながらもおずおずと口を開く。


「えっと、第四の門を出た先に続くリュッカ山脈の森にある遺跡の調査に行きたいんだ。

 その途中に最近鉄脊狼(イーレンヴルフ)の群れが棲みついてしまったようでね。

10体近くも群れているそうだから護衛を頼みたいんだけど、どうかな…?」


 そばかすが薄らと滲むやや日に焼けた肌をしたその男は、なんとも情けない顔でゼイドにそう問うた。

そんな普段なら苛立つ態度も気にならないほど、その依頼内容はゼイドにとってあまりに魅力的だった。

しかし、流石にBランクを10体、それも護衛を抱えての戦闘は厳しいかと冷静に思い直すが、護衛はクロシェの結界があれば問題ないだろう。魔獣との戦闘は俺と気に食わないがアロイスで叩けばなんとかなるはずだ。状況や相性にもよるが、Aランクよりはやりやすいだろう……

 

「わかった。依頼を引き受ける。」

「本当かい!?いや〜、よかったぁ…!」


 ほっと胸を撫で下ろした男が改めて口を開いた。


「僕の名前はレイ。遺跡調査は明日か明後日を予定しているんだけど、それでもいいかな?」

「問題ない。お前らもそれでいいか?」

「はい、大丈夫です!」


 にこやかに答えたクロシェにふにゃりと笑みを浮かべたレイが「じゃあ受付で依頼申請してくるよ」と歩き出そうとするのをゼイドが呼び止める。


「それなら、俺らのパーティーに指名依頼しといてくれ。

 俺の名前はゼイド。受付には俺の名前で通るはずだ」

「わかった。よろしくね、ゼイド君。」

「呼び捨てでいいぜ。あんたの名前も呼び捨てでいいか?

 それと、今更なおしづらいから口調も」

「もちろん!あ、あと遺跡調査は朝早く出発するけど、問題ないかな?」

「それは問題ない。俺らは明日から朝一でここに来る予定だから、護衛の日の待ち合わせはここでいいか?」

 

 2人のやり取りをにこにこと見守っていたクロシェがそこで口を挟んだ。


「それなら、護衛の日は一緒に宿を出ましょう!」

「……は?」

「実は、レイさんは昨日エオドールに着く予定だったそうなのですが、トラブルで1日遅れてしまったせいで予約していた宿がキャンセルになってしまったらしいのです。

 宿もこれから探すとのことでしたので、陽だまりの麦穂亭を紹介したんです!」


 そうにこやかに告げたクロシェにゼイドは無言でその頬を引っ張る。むにょんとクロシェの頬がのびたところでアロイスがその手を叩き落としたため、長くは続かなかったが。


「もう!なにするんですか!!」

「何勝手に宿紹介してんだ。依頼人と同じ宿とか面倒くせぇだろうが」

「え、でも、メイジーさんが閑散期で宿に泊まる方が少ないと仰っていましたので、お客様を紹介すればメイジーさんたちもうれしいし、宿に困ってるレイさんも助かって良いかと思ったのですが…」


 そのクロシェの言葉にゼイドはぐっと言葉を詰まらせた。

別にあの宿はゼイドの宿ではないからだ。

そりゃあ、宿の経営者と客の都合が優先されるに決まっている。


「それに、レイさんのお話はとても興味深くてぜひ遺跡についていろいろとお伺いしたかったのです!」


 目をキラキラと輝かせて高らかに自分の願望を告げたクロシェにゼイドの目が据わる。

 そっちが目的だろとゼイドが冷たい視線を送る中、レイがふわりと微笑みなら口を開いた。


「僕も遺跡のことを話すのは大好きだから、聞いてもらえるのは嬉しいよ。

 いつもみんな途中でいなくなっちゃうから、話し足りなくて困ってたんだ。」

「そうなのですね。たくさんお話がお聞きできるの楽しみです!

 そうです!もし、レイさんに予定がなければお夕食ご一緒しませんか?

 早速いろいろお話をお聞きしたいので!」


 そうわくわくと提案したクロシェに同じようにわくわくと目を輝かせていたレイがその目を泳がせる。


「あ〜、ごめんね。今日の夜は予定があるんだ。

 また明日以降でもいいかな…?」

「もちろんです!ぜひレイさんのご都合がいい日にご一緒しましょうね!」


 なにやらふわふわにこにこと会話を繰り広げる2人に変人がまた増えやがったとゼイドは内心慄く。

何を調査しているかは知らないが、遺跡調査のために護衛がいるとはいえ、鉄脊狼(イーレンヴルフ)の群れがいる場所を通ろうとするなんざ正気じゃない。

十中八九変人とみて間違いないだろう。

そして、出会ったばかりだというのに何やら意気投合しているもう1人の変人に、これからの宿での生活と護衛依頼を思い、頭が痛くなるゼイドだった。



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