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賢者様の小間使い  作者: 玉雪 芙泉
第1章 城塞都市エオドール

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12話 運命


「誰に魔法を教わったんだ?」


 そう深刻そうな顔で尋ねるゼイドにクロシェは内心首を傾げつつもにこやかに答えた。

 

「基本は育ててくれた方の助手のような方が教えてくれて、でも育ててくれた方にも教わりました!

 あと、今探している方からもお家にいらした時にいろいろ教わりましたね」


 つまり、3人か。寝たきりの育て親を除けば2人。

クロシェの回答にそう内心で呟いたゼイドは、さらに質問を続けた。

 

「おまえの使ってる魔法は古い魔法が元になってるって聞いたんだが、それを教わったのは誰だ?」

「古い魔法?すみません、教わった魔法のどれが古い魔法かは分かりませんが、今日使ったのは助手のような方に教わった魔法です。

 あっ、でも拘束魔法は今探している方に教えてもらいました!簡易的だけど使い勝手がいいからと教わったのです」

「……探してる奴はどこにいるかわかんねぇんだよな。助手の方は今どこにいんだ?」

「育ててくれた方にずっとついてますよ」

「おい、何を探っている」


 そう氷のように冷たい声が2人の間に割って入った。

背後でずっと黙ってついてきていたアロイスが歩みを止め、まるで切先を向けるような圧を滲ませながらゼイドを睨め付ける。

 さすがに不審に思うよなと内心で独りごちたゼイドもまた足を止め、アロイスと向き合った。


「……古い魔法の使い手を探してんだよ。それもかなり高度な魔法の使い手だ」

「なぜ探している」

「それは言えねぇ」


 今にも武器を構えそうな剣吞な空気に包まれたゼイドとアロイスに首を傾げたクロシェが口を開いた。


「ティア様を探しているのですか?」

「そいつは探し人の方か?」

「はい。確かにティア様は魔法についてなんでもご存知ですから、高度な古い魔法も使えると思います。

 何があったのでしょうか?」

「……そいつの風貌は?」


 クロシェが口を開こうとした瞬間、アロイスが遮る。

 

「クロシェ、理由も言えぬ者に話す必要はない。」

「ロロ、でも、私たちはここでティア様の聞き込みをするんだから、今話さなくても知られることよ。

 ……ティア様は長い金の髪に緑色の瞳のエルフです。」


 クロシェが口にしたその情報にゼイドは目を見開いた。

 エルフとは珍しい。そうゼイドが内心で呟くほど、エルフは珍しい存在だった。

冒険者としていくつかの地域を渡り歩いたゼイドでも見かけたことすらない種族だ。

南という情報だけで人探しをする兄妹に無謀だと思っていたが、それだけ目立つ奴なら確かに見つかる可能性に賭けるのもわかる。

 ゼイドがそう思ったところで、エルフという情報がランドルフから与えられた情報と結びつく。

確かにエルフなら魔法特化のギルド職員さえ解析できない魔法陣、それも古い魔法の技術の出どころにも納得がいく。

なんせ、エルフといえば寿命がないといわれるほど長寿な上に、あの1200年前の大厄災さえしのぎ現在まで生き続ける者までいるという種族だ。


「そいつの背丈はどれくらいだ?」

「私と変わらないくらいです。いえ!以前お会いした時よりも私はお姉さんになっているので、私の方が高いかもしれません!」


 むふっと含みのある笑みを浮かべるクロシェを無視してゼイドはランドルフから聞いたアビゲイルの証言を思い返していた。

荷台の底板に魔法陣を刻んだ主導犯の特徴は、背丈と声は10歳前後のガキと同じくらい。

クロシェの背丈とそう変わらないというそのエルフとも合致する。

まぁ、声も姿もエルフであれば魔法でどうとでもできそうだが、魔法陣も見目も、状況証拠は十分当てはまる。

 

「……そいつはエオドールに悪意のある奴か?」

「悪意!?いえ、ティア様が誰かに悪意を抱いているところは見たことがありませんし、魔法と食以外興味のない方です。

 エオドールに何かするとは思えませんが…」

「そうか……じゃあ、そいつなら古い魔法で構築された高度な魔法陣の解析もできそうか?」

「それはできると思います。

 …あの、本当に何があったのでしょうか?」


 事情を話すかゼイドは一瞬迷うが、やはりだめだなと即座に判断を下した。


「守秘義務で話せねぇ」

「守秘義務…そうなのですね…

 ティア様が近くに滞在中だと良いのですが…」

「本当にそいつがエオドールに何かする可能性はないのか?」

「それはないと思います!

 …あ、でも、その魔法陣って発動してますか?」


 そうおずおずと尋ねてきたクロシェにゼイドはランドルフとの会話を思い返す。

まぁ、これくらいの情報はいいだろう。


「いや、まだ発動前らしい」

「そうですか……あの、それでしたら、もしかしたらなんですが……」


 何やら言い淀むクロシェにゼイドは目を鋭く尖らせた。

 

「なんだ」

「あの、ティア様は悪意はありませんが、悪戯はお好きな方なので、その魔法陣がただの落書きでしたらティア様のものかもしれません…」

「悪戯?」

「はい。私もよくやられたのです…素晴らしい魔法陣を思いついたと言ってティア様から渡された魔法陣…それを頑張って解析したのに、実はそれっぽく似せただけのただの落書きだったことが…何回も……」

 

「ひどい、ひどすぎます…」と嘆くクロシェを横目にゼイドは口元に手をあて考え込んだ。

 魔法陣を刻んだ奴の風貌は10歳前後のガキ。

魔法を覚えたてのガキがそれっぽいものを作ってはただ放置する愉快犯という可能性は確かにある。

 そう思い至ったところで、やはり違うかとゼイドは否定した。

ただの落書きなら魔法特化のギルド職員が早々に見破っただろう。


「ゼイドさん、大丈夫ですか?」


 しばらく考え込んでいたゼイドの顔をクロシェが気遣わしげに覗き込む。そんなクロシェの顔を見つめたゼイドは、はぁと大きなため息を吐いてから結論を口にした。


「わかった。俺もそのエルフを探す。」

「え!?よいのですか?」

「魔獣討伐に支障のない範囲でな」

「ありがとうございます!」


 クロシェは礼まで言ってにこにこと嬉しそうに笑っているが、その後ろに控えるアロイスは鋭い目をゼイドに向け続けていた。


「何が目的だ?」

「…そいつがギルドで追ってる奴なら捕まえるし、そうでないなら協力を依頼するだけだ。」


 ゼイドの答えを聞いたアロイスはふんっと鼻で笑った。


「おまえが捕まえる、ね。」

「なんだよ」

「随分とおめでたい奴だと思っただけだ。」

「あ゛?」


 またしても一触即発の空気を漂わせる2人にクロシェが割って入る。


「私たちでは土地勘もありませんし、どうやら常識にも疎いようですので、ゼイドさんがティア様を一緒に探してくださるのは助かります!

 ティア様は捕まるようなことをする方じゃないんだから大丈夫だよ、ロロ」


 そうにこやかに笑ったクロシェに眉をつり上げ、剣吞な光を目に宿していたアロイスがすっと表情を戻した。まぁ、戻した表情は無なのだが。

ゼイドもまた毒気を抜かれ、ため息だけを一つこぼした。

 緊迫した空気から一転、ゆるやかな空気が流れる。

しかし、そんなゆるんだ空気を壊すきっかけを作ったのもまたクロシェだった。


「でも、ティア様を探す前にアビゲイルさんの娘さんの病を治しに行きませんと!

 ゼイドさん、アビゲイルさんの村の名前はお聞きできましたか?」

 

「必要なくなった。」


 朗らかな笑みをのせて問いかけたクロシェに、ゼイドが温度のない声でそう答えた。


「え?どうしてでしょうか?」


 戸惑いを隠せないクロシェの瞳から目をそらし、西の端がうっすらと金色に滲みはじめた空を見ながらゼイドは口を開いた。

 

「……あいつの村は2日前壊滅したそうだ。

 魔獣───岩窟熊(クルンデルベラ)に襲われ、生き残りは外に出ていたあいつ以外いないらしい。」

「それって、」

「…子育て中の母熊に手を出すどころか、その(子供)に手を出したんだ。

 まあ、あり得たことだろう」


 ゼイドの言葉を瞳を揺らしながら聞いていたクロシェは、手を口にあて息を呑む。

そんなクロシェを横目にゼイドは思考の波に呑まれていた。

 

 アビゲイル(あいつ)岩窟熊(クルンデルベラ)の幼体を連れた冒険者に声をかけられ、村を立ったのは1週間前。そして、村の壊滅が2日前。

 魔獣の幼体を運ぶ手伝いさえしなければ、あいつは何も知らず薬草を売り、帰ってきたところを村人と一緒に殺されていたのだろうか。それとも、帰ってきた時にはすべて終わっていて、自分の命だけは助かったのだろうか。

 あるいは、警邏隊に通報して子熊を親に返せていれば───────

 

 どちらにしても、現実は1番残酷な道を辿った。

娘の命を救うため、金欲しさに魔獣の幼体を運び出す手助けをしたアビゲイル。

その魔獣の幼体にもまた、子を大事に想う親がいた。

そして、子を取り戻そうと暴れる親によって、村は壊滅した。

 

 間接的に村人と家族────何よりも大切な()を殺した罪をアビゲイル(あいつ)は背負うことになったのだ。


 ゼイドの脳裏にただただ娘の幸せを想う、眉を下げた弱々しい笑みの男の顔が浮かぶ。

 



────運命だと思ったのです

 


 

「とんだ運命だ」

 


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